この世界からも、人の心からも、彼女が存在した事実のすべてが消えて失くなってしまう。
―――真っ白に。 ソンザイノショウシツ 1
「おーす黒崎!」
「・・・えーっと・・・・・・はじめまして?」 朝。 浦原商店から自分の家経由で学校に行くと、ルキアの席に見知らぬ人物が座っていた。 初めて見る顔の青年に一護の頬を汗が伝う。 「はじめましてだぁ?まだ覚えてないのかよ!?桃原だよ!桃原鉄生! 一体オマエのこと何回空手部に誘ったと思ってんだよ!?」 「・・・えーっと・・・すまん。」 とりあえず謝ってから席についた。 鞄のファスナーを開ければまず最初に目に入るのがウラハラ印の薬ビン。 デカデカとプリントされたドクロマークが怪しさ満点の一品である。 浦原の話によれば、この薬、昨夜負った傷を回復させるためのものらしい。 言われたとおり一時間に一粒。そうやって飲むたびに痛みが引いていった。 (これを貰えたのは結構ありがたいよな。) そう思い、取り出した錠剤を口に含む。 鬼道で治癒してしまえば早いのかもしれないが、現在一護はそれ使うことが出来なかった。 霊圧を抑える為にかなりの量の霊力をつぎ込んでいるからだ。鬼道を使う余裕などないくらいに。 一護の母――真咲は彼女の霊力でもって一護の霊圧を抑え込んでいた。 その経験から一護自身が自分の霊力を用いて霊圧を抑えることが出来るのではないかと思い、 昨夜の戦いでそれを実践して見せたのだ。 しかし実は当の真咲がそうであったように、 一護の霊圧は高すぎてそれを抑えるためには相当の力をつぎ込まなくてはならない。 ゆえに一護は自分の霊圧を普通の人間と同程度に抑える代わりに、 鬼道を使うために必要な霊力を得られなくなってしまっているのである。 (もうちょっと上手く抑え込めば鬼道も使えるようになるんだよな?) 『まあな。お前の霊力はデカすぎてコントロールがしにくいから。抑えんのに余分な力がかかってんだよ。』 つまり一護は霊力が高いために普通に抑えるのは大変困難で、またそれ故に霊圧を無理矢理になら抑え込むことが出来る。 しかし霊圧が高いがためにコントロールがしにくく、余分に霊力をつぎ込んでしまっているのだ。 これを解決するには一護自身がより霊圧のコントロールを上達させるしかない。 なので、今はこの状態が精一杯の一護は「はぁ」と溜息をつくしかなかった。 (でも、まぁ。あの死神たちがうまく騙されてくれてよかったよ。鎖結と魄睡が砕かれた・って。) 『浦原も気づいてなかったみたいだしな。ただ霊圧を抑えてるだけだってことには。』 (及第点だろ?) 『一応は。』 相棒の言葉に「一応って何だよ。」と小さく返しながら、一護は教室をぐるりと見渡す。 友達同士で談笑している者、一人机に顔を伏せて眠っている者など様々であるが、 誰一人としてルキアのことを気にしてはいないようである。 それもそのはず。 もともと尸魂界の住人であるルキアがアチラに帰ってしまったからだ。 (知識としては知ってたけど、実際アイツのことを覚えてる身としてはなんだか遣る瀬無ぇな・・・) この世界から、そして人々の心から真っ白に消え去ったルキアの存在。 彼女のことを覚えている者は自分以外にいないのだろうか・・・ (・・・いや。石田なら覚えてるかもしんねぇ。) そう思って雨竜の席を見るが、間もなくホームルームが始まると言う時間なのにそこは空席となっていた。 そして、雨竜が学校に現れることなく一学期の最終日が終わった。 「そいじゃあんたたち!9月まで死ぬなよっ!―――以上!解散!!」 そんな教育者らしからぬ担任の言葉を最後にして。 |