目を開けると、視界いっぱいにヒゲメガネでした。
メザメノアサ 1
「おはようございます。テッサイさん・・・でしたっけ?」
「いかにも。黒崎殿もおはようございます。随分とリアクションが薄いようですが。」 「人間、驚きすぎるとこうなるんですよ。きっと。」 「そうですか。」 そう返し、眠っていた一護に覆いかぶさるような形でいた大柄の男――テッサイがその布団から抜け出し、 「店長を呼んできます。」 と言って障子の向こうに姿を消した。 その気配が部屋の前から完全に消えるのを確認して、布団から起き上がり、一護は大きく息を吐く。 (あ、あぶねぇ・・・!もうすこして斬月出すところだった・・・・・・驚きすぎて。) 自分の真上に人がいると気配でわかっていても、 実際に目を開いてその顔をアップで見てしまったときの衝撃はなかなか大きかったらしい。 一護の心臓も常より速いペースで鼓動を刻んでいた。 (落ち着け・・・落ち着け・・・) そう念じながら何回か深呼吸を繰り返す。 しばらくやっているとその効果が出てきたようで速かった脈も元に戻った。 落ち着いた後ぐるりと周囲を見渡せば、畳に障子そして床の間・・・と純和風の一室に自分がいたことに気づく。 (浦原商店のどこか・・・だよな。) と、微かに気配を感じ、一護はテッサイが出て行った方に顔を向けた。 それと同時に開く障子。 「おはようございます黒崎サン。起き上がるのは構いませんが、傷がまだまだ塞がっちゃいませんから・・・」 帽子の影で視線を、扇子で口元を隠して男が笑う。 「あんまり動くと死にますよンv」 (誰が死ぬか。) 作務衣の上に黒い羽織を纏い左手に杖をもった浦原喜助が一護の眠っていた布団の横に立つ。 「・・・下駄帽子・・・・・・あんたが俺を助けてくれたんだよな・・・ありがとう。」 「いえいえ。礼はいりませんよ。・・・でも、ありがとう・なんて言ってる割にはいい顔してませんね。」 (これから自分を利用しようとしてるヤツに助けられたって素直に喜べるはずねぇだろ。) 確かに俺も浦原を利用するつもりだが・と心の中で付け足し、沈黙を保ったまま男から視線をはずした。 一護はしばらく黙ったままだったが、そういえば・・・と死神二人と戦ったときのことを思い出して口を開く。 「・・・石田はどうなった?あそこにはあいつも倒れてただろ?あいつもここに?」 (でもなぁ・・・あいつの霊圧、この辺には感じられないし。) 浦原の方を向いて問いかければ、返ってきたのは「いいえ。」という否定の答え。 石田も血はたくさん出ていたが傷自体あまり大したものでもなく、浦原がその場で治療を施すだけで済んだらしい。 「帰り際、心配してましたよ。黒崎サンのことを。」 「石田が?俺を?・・・まさか。」 心配されるような間柄ではなかったように思うのだが。 一護の疑うような視線を受け、浦原は「本当ですよ?」と先を続けた。 「アタシは一応彼にもここで少し休むよう言ったんですがね。」 “お気遣いありがとうございます。でも僕は大丈夫。・・・それより黒崎をよろしくお願いします。今、奴等を倒せる可能性があるとすれば、それは僕じゃない。” 「―――朽木さんを救えるのは彼だけだ・と。 そう言い残して昨夜はそのまま帰られましたよ、彼。」 一護が「はっ」と鼻で笑う。 「俺だけ、ねぇ・・・」 (そりゃあ言われなくても助けに行くつもりだけど・・・無責任な。) そう思いつつ、一護は浦原を見上げた。 「浦原さん。」 「何ですか?」 ―――断られはしないだろう。この男もそれを望んでいる筈だから。 瞳に光を宿し、ほとんど睨みつけるようにして一護は男を見据える。 「俺を尸魂界に行かせてくれ。」 浦原は僅かに虚を衝かれたように帽子の影で片眉を上げた。 そうして口を開く。 「朽木サンを助けに行くと?アナタが?」 面白可笑しい事でも聞いたように返す浦原に、一護は真剣な表情で「そうだ。」と答えた。 すると浦原は「ふむ・・・」と思案するように顎に手を当て、それから一護を見て疑問を口にする。 「それを何故アタシに言うんです?」 「アンタが・・・」 「アタシが?」 一拍置き、一護がどこか不敵な表情で告げた。 「・・・―――浦原喜助だからさ。」 浦原は目を細め、一護の答えに扇子の影で微かに唇を吊り上げる。 「・・・いいでしょう。アナタに手をお貸しします。」 パチン!と軽い音とともに浦原の持つ扇子が閉じられた。 |