机に向かってシャーペンを走らせていた一護がふと顔を上げた。
同時に頭の中で声が響く。 『あ、虚が出た。』 「そうだな。」 『・・・行かないのか?』 「行っても無駄だってわかってんだろ?」 そう述べた後、一護は町のある一点に霊力が収束するのを感じた。 「・・・・・・ほら。もう倒されたちまったし。」 再び参考書に視線を戻し、試験勉強を再開する。 既に空座町には虚の気配など一つも無かった。 ウゴキダシタモノ 1
同時刻。
空座町にある廃ビルの一つ。その屋上。 虚空を見つめる影があった。 その人物は白を基調とした洋服に身を包み、右腕を前に伸ばして弓を構えるようなポーズをとる。 そして放たれる光の矢。 矢は空を駆け抜けて空間のある一点を貫いた。 光の矢が貫いたモノ―――虚が消えるのを眼鏡の奥から見つめ、その人物は息を吐く。 「早く帰ろう・・・明日はテストだ。」 そう言って、ビルの屋上から姿を消した。 名を石田雨竜。職業は高校生兼滅却師。 一護たちが通う高校では既に期末試験も終わり、その結果が廊下に張り出されていた。 「ちょっと落ちたな・・・」 それを見ながら呟くのはオレンジ色の頭を持った少年、黒崎一護。 『ま、いいんじゃねぇ?50位内には入ってるんだし。』 (中間ンときは18位だったんだけどなぁ・・・) もう一度23位に自分の名があるのを確認し、一護は頭の中で言葉を返す。 そして張られた紙の一番上、つまり成績第一位の箇所を見ればそこには“石田”の文字。 『負けてるけどな。あの滅却師に。』 (はは・・・アイツも虚退治やってんのにな。) 少しだけ苦笑し、一護は踵を返した。 「石田・・・雨竜、ね・・・・・・」 下の名前までは覚えていなかったが今回こそきちんと覚えられそうだ。 そう思い、一護はゆっくりと歩く。 今まで殆ど行動を起こさなかった石田雨竜が「ぶら霊」の撮影後、 いきなり一護の周りで滅却師として派手に動き出していた事もあって、印象の方はかなり強い。 (死神・・・というか調整者としてはあんまり虚を殺して欲しくないんだけどな・・・) 『魂の量の調節で?』 (そういうこと。まぁ・・・滅却師の一人や二人でどうこうなるってわけでもないだろうだけど。) 教室のドアに手をかける。 (一度、滅却師の戦い方でも見てみようかな。) 『気づかれるだろ?霊圧で。しかも霊絡が視えてるなら死神だって事も・・・』 (それは承知の上。) 『・・・じゃ、好きにしな。』 (もちろん。) そして一護は扉を開いた。 梅雨も終わり、ギラギラと太陽が照りつける中、雨竜はアスファルトの道を歩いていた。 歩道を曲がってコンクリートの階段を上る。 そうして全て上りきったあと、雨竜は振り返りもせずに声をかけた。 「家までついてくる気かい?黒崎一護。」 雨竜から少し離れて歩いていた一護は階段の途中で歩みを止め、軽く笑って肩をすくめる。 「まさか・・・ちょっと見てみたいものがあっただけさ。」 「へー・・・じゃあそれは見れたかい?」 「いや、まだだけど。」 一護は再び階段を上りだし、雨竜は後ろを振り返った。 「何が見たいんだい?」 一護が雨竜の正面に立つ。 それと同時になされた問いに一護はニヤリと笑って答えた。 「滅却師の戦い方を。」 雨竜の目が眼鏡の奥で細められる。 「・・・知ってたんだ・・・僕が滅却師だって。」 「まぁな・・・・・・死神が憎くてたまらない滅却師さん?」 「そこまで?」 「知ってるんじゃなくて、今までは予想だったけどな。」 歴史だけとは言わず、“死神・黒崎一護”が目立ち始めてから急に活発に動き出したことを考えれば、 そんな予想もつける事が出来た。 どうやら本当らしいな・と言って一護が再び肩をすくめる。 その様子を雨竜が鋭く睨みつけた。 「じゃあもちろんわかるだろう?つまり僕は死神である君を憎んでいるのだと。」 「一応ね。」 一護の軽い答えに、更にきつくなる雨竜の眼光。 しかし気を鎮めるように一度目を伏せ、再び一護に視線を合わせてから雨竜は口を開く。 「そう・・・ならちょうどいい。今から勝負をしないか?」 「勝負?」 「ああ。死神の君と滅却師の僕・・・どちらが優れているか、これではっきり判るだろう。 それに君は僕の戦い方も見れて一石二鳥じゃないか。」 そう言って、雨竜は制服の胸ポケットから直径2センチほどの錠剤を取り出した。 それを見て一護の顔色が変わる。 「おまっ・・・何するつもりだ!?」 雨竜の両目が眼鏡の奥で細められた。 「こうするのさ。」 その手の中で錠剤は高い音を立てて砕け、破片が空中へと飛散した。 「勝負をしよう。黒崎一護。 この撒き餌によって集まってきた虚を24時間以内に多く倒した方が勝ち。 もし君に人々を守りきれる自信があるのなら・・・この勝負、受けられる筈だろう?」 |