ピ〜ヒョロ〜
墓参りも終了し、自由行動となってからしばらく後、 墓場に気の抜けた笛の音が響き渡った。 集合の合図である。 アノヒトガシンダヒ 2
ピョロロロロロロロ・・・
笛を吹く父親のもとにまず最初に戻ってきたのは一護だった。 「だぁーもーうるせぇ!!そんなに吹かんでも聞こえてるっつーの!!」 石の階段を下りつつ一護は辺りを見回すが、妹達の姿はない。 遊子と夏梨はどうしたんだ・と口を開いた一護は、 しかし、そのまま言葉を発することなく目を細めた。 『一護、わかるか?』 「ああ。虚の気配だ。」 頭の中で返答するのではなく、口に出して述べる一護。 「ん?どうした、一護。」 一護の呟いた言葉が聞き取れなかったのだろうか。 一心は不審そうに問う。 「いや、なんでもねぇよ。・・・俺、ちょっとアイツら捜して来るわ。」 「おう。頼んだぞ。」 「ああ。」 そう言って、一護はもと来た道を走り出した。 目指すは虚の気配がする高台。 「・・・遊子と夏梨が危ねぇ。」 木々に隠れて見えぬその場所を見据える目は、彼が振るう刃物のように鋭い。 木々を抜けたその先にあったもの。 虚に踏みつけられる夏梨と、触手で中にぶら下げられた遊子の姿。 そして、見覚えのある少女。 「アイツか・・・!」 体から死覇装を纏った一護が飛び出す。 その勢いのまま妹の首を締めつけていた触手に刃を振り下ろした。 遊子を空中で捉えて着地。 足のばねを利用し剣を斜めに切り上げて、勢い良く夏梨を踏みつける足を切断する。 切り飛ばされた足は中を舞い、その軌跡を赤い線が描く。 それを横目に捉え、一護は気を失った妹達を岩陰に隠してから、 切り飛ばされた足が再び地に着くと同時に虚の前に立った。 「小僧・・・死神か!!」 一護の姿を確認し、虚が毒づく。 そして、見覚えある少女の姿に一護も目を細める。 「てめぇ、6年前の・・・」 低く唸るように言葉を吐く一護だが、しかし次のセリフは歓喜に彩られていた。 「やっと見つけた・・・!」 両の目が凶悪につり上がる。 「わしの姿を見たことがあるか・・・運の良い奴よの。」 ズルリと少女の皮が剥がれ、現れたのは天辺に穴の開いた頭蓋骨のようなもの。 そこから触手が放たれ、少女の後ろにいた虚へと繋がった。 「なるほど。アンタのそれは疑似餌だったってわけだ・・・」 その様を無言で見詰めていた一護が呟く。 「おや、頭はずいぶんよろしいようだね?」 クツクツと虚が嗤う。 強者が弱者に向ける嘲り。 それを受けても一護は鋭く前を、虚を見据えたまま。 「てめぇの名は?」 「知ってどうする、小僧。」 「てめぇを倒してからじゃ、名前なんて訊けねぇだろ?・・・仇の名前を。」 言い放った一護に虚は「ヒヒッ」と嗤う。 「良かろう。わしはグランドフィッシャー。 小僧よ、わしの腹の中でその名を噛みしめるが良い!!」 最後の言葉と共にグランドフィッシャーが前に出た。 それと同時に一護も駆け出す。 「それじゃ、仇討ちといかせて貰おうか!グランドフィッシャー!!」 いつの間にか降り始めた雨の中、黒い残像が生まれた。 バンッと大きな音の後に上がる叫び声。 耳を 「まだ、終わらねぇぜ?」 一護は無傷のまま佇んでいた。 腕を切り裂かれて血を流す虚の前に。 「貴様・・・!」 絞り出すような声を出してグランドフィッシャーは一護を睨みつける。 熱くなる虚に、しかし一護はその様を見下ろし、冷たく告げた。 「すぐ楽になれるなんて思うなよ? “死んで償え”なんて言わねぇ・・・・・・存分に苦しめ。」 そして斬月をグランドフィッシャーの目に突き立てる。 「ギャァァァァァアアアアアアア!!!!」 それだけでは終わらない。 さらに手首を回し、刃で傷口を抉った。 既に叫びは声にならない。 一護がそのまま刃を振るい、虚の体は吹っ飛んで岩に激突する。 「・・・ッガぁ!」 そのまま水溜りの中に崩れ落ちるグランドフィッシャー。 立ち上がろうとするが、目の前には既に一護の姿が。 「!?」 「逃げれば?何のために後ろ足を残してやってると思ってんだ?」 ニィと口だけで嗤う一護。 グランドフィッシャーは言われるまま、体が動くままに逃げ出した。 (何なんだ!あの小僧は・・・!) 恐怖によって体が動く。 今まで一度も経験したことのないもの。 逃げなければ・とカラダ全体が叫んでいる。 しかし思考にふける暇は与えられなかった。 「・・・遅ぇ。」 声が聞こえたと思ったときには、既に四肢は全て体から離れていた。 虚の体が鈍い音を立てて地面に激突し、そのあと一護が音もなく降り立つ。 「逃げるのすら遅ぇな・・・やっぱもういいわ。これで終わらせてやる。」 雨の中、その声はグランドフィッシャーに聞こえたのだろうか。 セリフと同時に赤く染まった仮面が真っ二つに割られた。 残ったのは返り血すら浴びていない一護のみ。 「一護っ!」 振り返れば、ずぶ濡れでこちらに走ってくるルキアの姿。 「もう虚は倒したぜ。」 「そ、そうなのか?」 あっけらかんとしている一護にルキアは少々戸惑う。 しかし何より・・・ 「無事でよかった。妹達は近くのお堂に寝かしてある。 体はコンが入っているぞ・・・二人を運んでくれたのもヤツだ。」 「サンキュ。じゃ、戻るわ。」 一護は言われた方向に駆けて行った。 西の空に雲の切れ間が覗いている。 この雨は、きっとすぐに止むはずだ。 |