ついつい目で追ってしまっていたのは、その髪の色があまりに眩しかったからだ。
(ただ一目見ただけで何かの感情を伴うなんて、そんなこと有り得ない。)












泣きそうなくらいボクはキミが好きでした












この学院に入った理由として「人を護りたいから」と本気で言える奴は余程の偽善者か苦労を知らない貴族のぼんぼんくらいだ。
目の前の光景を何とはなしに見つめながら市丸ギンはそう思った。

死神になる者の大半が通過するこの真央霊術院の一回生――時期的にはまだ新入生と言っても差支えない――である市丸は、同じく一回生の、更には同じ特進学級の生徒である少年とその集団から視線を逸らして席を立った。
ざわざわと騒がしい教室内では机と椅子が生む騒音も大して目立たず、誰も市丸が席を立ったことに気が付かない・・・はず、だったのだが。


「あ、市丸!お前もコッチ来いよ!」
「・・・・・・。」

先程まで視線をやっていた人物に呼び止められ、市丸は無言で振り返った。
此方は決して友好的な表情を浮かべているわけでもないのに、相手には全く怯む様子が見られない。
それどころか、彼の周囲に集まっていた者達が市丸の放つ刺々しい雰囲気に少なからず引いているのにも拘わらず、その集団の中心にいる少年だけは機嫌良さそうに笑いかけてきていた。
このまま無言で背を向けてしまっても構わなかったのだが、何故かそんな気になれない。
しかしその理由には――なんとなくであったが――思い当たる節があって、市丸はゆっくりとした歩調で集団の方へ向かった。(伴う感情は決して性質の良いものではなかった。)


いくらゆっくりと言っても、やはり移動範囲は教室の中。
市丸はすぐに目的の人物の元まで辿り着いてしまい、そしてこれっぽっちも隠すことなく大きな溜息をつく。

「・・・で。何やの、黒崎。」
「お前ってホント遠慮無ェなあ。」

呵々と笑う少年は市丸の所作に怒りや呆れを一切見せない。
周囲が黒や茶の髪をしているのに対して、この黒崎という少年の髪は見事なまでのオレンジ色。
市丸は髪も性格もウザいくらいに明るい少年を前にして、冷たい気配を拭うことなく、再度「何やの。」と繰り返した。

「新入生代表も務めはった首席合格者の黒崎一護君が一体ボクに何の用なん?」

多大なる嫌味を込めてそう告げる。
途端、僅かに殺気立つ周囲。
それを軽々といなして市丸は一護を見た。
市丸が放った一言に一護は元々あった眉間の皺を更に深め、困ったような笑みを浮かべている。
そう。何故かは知らないが、一護は首席合格者だとか新入生代表だとか言われるのを頓に嫌っているのだ。
だが、そう長く困ったように笑っているわけではなく、一護はサッと表情を元に戻して「もっと気楽に行こうぜ。」と周囲や市丸に笑いかけた。

「同じ死神目指してる仲間じゃねーか。」
「・・・仲間、ねぇ。」
(アホらし。)

呆れたように胸中で呟く。
此方は誰のことも仲間だなんて思ったことはない。
それどころか今自分の目の前に居る人間は嫌いな部類に入っているのだ。

そう考えている市丸に気付く様子もなく、一護は「そうだろ。」と微笑んだ。
そうして市丸を手近な席に座らせ、彼自身も椅子に腰を下ろす。

「ちょっと皆で話してたんだけどさ、お前が此処に入った理由も訊いていいか?」

新入生らしいと言えば確かに新入生らしい質問だ。
自分も彼と同じ立場であることは脇に放って置いて、市丸はそんなことを思った。

「市丸?」
「・・・それで、キミの理由は人を護るため、なんやね。」
「お?おう。なんだ、さっきの聞こえてたのか。」

己の発言に照れているのか、一護は軽く笑って頭を掻く。
その様を静かに見据え、市丸はポツリと言い放った。

「ボクは、生きるためや。」
「・・・え?」

動きの止まった一護をそのままにして市丸はガタリと席を立つ。
そのまま廊下に面した扉の方へ。
教室を出る寸前、扉の取っ手に手を掛けたまま振り返り、うっすらと開いた双眸に一護を映すと市丸はその口できっぱりと告げた。

「ボクはキミみたいな貴族の甘ちゃんが大っ嫌いなんよ。虫唾が走るくらいにな。それに、どうせボクのこと名前くらいしか知らんくせに馴れ馴れしくせんといてくれる?皆が皆、自分のこと好いてる思ぅたら大間違いやで。」
「いちま・・・!」
「ほな。もう必要以上に話しかけんといてな。」

シンと静まり返った教室。
一護の制止を聞くこともなく、市丸は部屋を出て廊下を歩き出す。
その背後では一気に騒がしくなった教室内から市丸に対する罵詈雑言と一護に向けられる慰めの声が溢れていた。






















一護は貴族出身だけど(性格故に)人気者。

市丸は流魂街出身者で必要以上に他人を寄せ付けない人。

(実はどちらも入試は満点で首席合格者。しかし一護は“貴族だから”新入生代表。)












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