「天国?馬鹿を言っちゃあいけない。
そんなもの、何処にも在りはしませんよ。」 それは昔、光言宗に身を置いていた一人の男が言った台詞――― 死神姫
「おりゃあ!!」
ガスッ フードを目深に被った男が一人の少年の胸へとナイフを突き刺した。 そこはちょうど心臓の真上。 崩れ落ちる少年を見やり、男は愉悦の声を上げる。 少年の胸から流れ出る血は、彼のオレンジ色の頭髪をも赤く染めていき、そのピクリとも動かない体を見下ろす男は次の『獲物』を求めて踵を返した。 しかし、 「あーあ。服、破れちまったじゃねーか・・・しかも血でベトベト。」 「っ!?」 背後から聞こえた声に男が振り返る。 勢いでばさりとフードがはずれ、血の通わぬ顔が露わになった。 その見開かれた両目に映るものは――― 「生憎、“屍姫”は刺し傷一つじゃ死なねーんだよ。」 もとは灰色であった学生服に身を包むオレンジ頭の少年が不敵な表情で両手に銃を構えていた。 そして、 「じゃあな。」 男に銃弾の嵐が降り注いだ。 「お疲れサマ。一護サン。」 「んー。」 ふと背後から現れた気配に、少年―― 一護が間延びした返事を返す。 その足元には血と肉の塊。 先刻一護をナイフで刺した男が数多の銃弾を体にめり込ませ事切れていた。―――否、「事切れていた」という表現は正しくない。 この男は『屍』と呼ばれる動く死体だった。 男がただの肉塊に戻ったのを確認すると一護はさっと踵を返して背後の人物に視線を向ける。 そこには月色の髪を持った美丈夫。 名を浦原喜助という。 彼の持つ肩書きは一般人にとってあまりにも複雑怪奇だった。 一つは元・護廷十三隊十二番隊隊長兼技術開発局創設者にして初代局長。 ・・・「あの世」と呼ばれる世界、「尸魂界」の住人だった。 そしてもう一つが元・太師系真言密教「光言宗」の権大僧正。 光言宗に属す僧の中には一際特殊な者達がいる。 それは「契約僧」と呼称され、ある一定の条件を満たした死体と契約し、ただの死体から「屍姫」となった彼あるいは彼女と共に邪気に塗れて狂った死体を屠るのを役割としていた。 己のことを屍姫と言った一護に微笑みかけるこの浦原も然り。 彼は一護と共に屍を屠る契約僧なのである。 ただし、現在の浦原は契約僧であるにもかかわらず光言宗に属してはいない。 何処からともなくふらりと現れあれよあれよという間に権大僧正まで上り詰めた後、ふつりとその消息を絶ち、此処でこうして実益を考えない趣味のようなものとして一護と行動しているのである。 「そのまま帰っちゃうと妹さんたちが心配しますよねぇ・・・ウチに寄って行きます?」 「・・・頼む。」 「りょーかいv」 血だらけになった一護に己の黒の羽織をかけて浦原は歩き出す。 一護はその隣でナイフが刺さっていた胸を撫でた。未だ乾かぬ血は真っ赤に制服を染め上げている。 しかし、そこに先刻の刺し傷は微塵も見当たらなかった。 これが屍姫の能力。 足を切られようが腕を飛ばされようが心臓を貫かれようが、基本的に死なない。 契約僧の近くに居ればいるほど傷の回復力が驚異的に向上する。 一度死に、そして屍姫として生まれ変わった己の体に胸の内で苦笑して、一護はガシャリと銃を担ぎ直した。 それが彼の日常。 しかし非日常的な日常はある少女の来訪を境に更なる非日常へと成り果てる。 名前:黒崎一護 享年:15歳 性別:男 瞳の色:ブラウン 髪の色:オレンジ 特技:幽霊が見える 職業:高校生 兼 屍姫 銃火器を操り屍を狩る少年は、変わった特技のおかげで、ある時を境に、人の魂の成れの果て――虚を刀で切り伏せる漆黒の調停者となって街を駆ける使命を背負わされた。 |