広大な屋敷にたった一人で住んでいた男は ある時、子供を一人家に住まわせることになりました。 下級貴族である子供の家から大貴族である男の家へ。 いわゆる奉公です。 子供は長男でしたが、その霊圧があまりにも高かったために この男の元へと送られたのでした。 そして、月日は流れ・・・ 夢の残滓1
「浦原様、お呼びですか。」
襖の向こうから聞こえる声は男が見知った子供のもの。 持っていた煙管を脇に置き、声をかける。 「・・・ええ、キミに話があるんスよ。入って来て下さいな。」 失礼します・と襖を開けて入室するのはオレンジ色の光。 少年は面を上げ、己が主である男―――浦原喜助に視線を合わせた。 「俺に話し・・・ですか?」 一体何なのだろう・・・と、少年―――黒崎一護は考えをめぐらす。 長い間この男に仕えているが、その思考を読み取るのは今でも至難の業だ。 微かに眉間の皴を増やす少年を見て、浦原は低く笑った。 そして浦原は横に置いてあった紙を手に取り、それを一護に差し出す。 「技術開発局の設置が許可されましたよ。」 紙に書かれていたのは中央四十六室からの“技術開発局設置を許可する”と言うもの。 その字を見て一護の顔には笑顔が浮かぶ。 「あ、おめでとうございます!局長は、やはり浦原様で?」 一護は問うが、主の表情を見て不審に思う。 望み通り許可が下りたのだからもう少し喜んでもいいはずなのに。 しかし当の主からは、判らぬほどであるが、不機嫌さがにじみ出ていた。 「浦原様・・・?」 何か不都合でも?と一護が声をかけると浦原は黙って許可証の下の部分に目をやった。 一護がその視線をたどる。 そこに書かれていたのは・・・ 「貴殿を護廷十三隊十二番隊隊長に任命する・・・?」 一護が書いてあることをそのまま読み上げた。 すると浦原は小さくため息をついて、 「・・・交換条件なんスよ。許可してやるから隊長になれって。」 浦原は紙を仕舞って続ける。 「と言うことで、黒崎サンは副局長兼副隊長ですヨンv」 さらりと言われた言葉を一護は頭の中で反芻する。 「・・・・・・・・・・・・えぇ!?」 「決定スから。」 「ちょ、それは俺よりもっと適任な方が・・・」 主がその地位、つまり隊長に就くのは何ら問題ない。 むしろその実力でもって就かない方がおかしいのだ。 霊力、技術、知力、家柄、その他様々なことにおいて一護の主は完璧だったのだから。 ただ本人がそれを望まなかっただけで。 しかし一護は違う。 自身は貴族と言っても下級であり、しかも真央霊術院のような学校にも通っていない。 ただ主である浦原に仕え、生活を共にしてきただけなのだ。 それがいきなり副官職に就けるものではない。 そう思って主に異論を唱えるが、浦原はニコリと笑って告げる。 「決定スから。」 二度同じセリフを言われては、一護に反論する余地はない。 主の望むままに行動するのがその使命。 いくら何十年も付き合ってきた仲であってもそれは絶対である。 それに加えて、主の微笑みは一護に反論する気自体をなくさせた。 ゆえに一護が言うセリフはただ一つ。 「承知しました。」 一護の前で主が満足げに笑って見せた。 |