「…っ、あ……く」
 酔った勢いと言うのは凄い。アルコールが抜け切らない頭で垣根帝督はそう思った。
 床へと直に座り込んで彼が後ろから抱きかかえているのは、同じように直座りしている黒髪の友人。垣根より頭一つ分小さなその人物は、意外にもすっぽりと垣根の腕の中に納まっている。いつも余裕綽々で、大きな態度を取っていたため気付けなかったが、この友人は己と異なり、まだまだ成長途中の未熟な身体の持ち主なのだ。
「なぁ、上条……」
「……ッ」
 吐息の多い、熱の篭った声で囁くと、腕の中の友人―――上条当麻がビクリと肩を震わせた。その様子に垣根はアルコール由来ではない熱を煽られる。
「なぁ上条、キモチイイ?」
「ふっ……は……」
 くちゅり、と垣根の手の中で粘ついた水音が立つ。外気に晒された上条の中心に絶妙な力加減で刺激を与えながら、垣根は吐息だけの答えに満足げな笑みを浮かべた。
 どうしてこんな事になっているのか。最初の方は垣根自身も脳をアルコールに侵されていてあまりよく覚えていない。
 暇だからという理由で上条に呼び出され、買い物に付き合い、夕飯をご馳走になった。その際、ほんの出来心で垣根がアルコール類を仕入れ、二人で結構な量を飲んでいたはず。それから。
(……ああ、そうだ。こいつがまだ一方通行のこと抱いてねえはずだったから、溜まってるだろ? ってからかって)
 垣根が「俺がヌいてやろうか?」と手を伸ばしたのだ。
 ヌく、と言っても身体を繋げるのではなく、ただの欲の吐き出し合いをするだけだったため、上条はあまり抵抗無くその手を取った。男同士の友人ならばそんな事もあるのかも知れない、とアルコールの回った頭で考えていたのだろう。
 そして、今に至る。
 ただの処理に戯れを加えただけのこの行為だが、上条のものに指を滑らすたび、垣根の中に何か言い知れぬ物が沸き上がってくる。まだ触れてすらいないのに硬くなり始めた垣根自身がズボンの中で存在を主張していた。有り得ないと思う前に、早く吐き出したいと思うほど。
(おいおい、俺と上条は『トモダチ』だぜ?)
 頭の中で繰り返すが、熱は引かない。また上条のそれを握る手も止まらない。
 もっともっと、この腕の中で乱れて欲しい。声を殺すのではなく、恥も外聞も捨てて、与えられる感覚に啼けばいいのに。
 気付けばそんな事ばかり考えていた。
 指で輪を作って竿全体を擦り上げたり、裏側の筋を集中的に責めてみたり。鈴口を少し強めに爪で引っ掻いて、吐き出す直前にぎゅっと締め付ければ―――。
「…っあ、かき、ね……!」
 堰きとめられた事に対する抗議の声。
 名前を呼ばれてぞくりと身体が震えた。優しくしてやりたい気持ちともっと苛めてやりたい気持ちが垣根の背骨を走り抜け、一気に全身が興奮で泡立つ。
 上条に耳朶を食むように唇を近付けた垣根は、相手の欲を堰き止めたまま声を注いだ。
「帝督って呼んでみてくんねえ?」
 呼ばないと、イかせてやらない。
 言外にそう言って垣根は更に刺激を与える。その誘いに、高める所まで高められた上条の身体は呆気ないほど容易く陥落した。
「や……ぁ、ていとく……早く!」
「っ、仰せのままに」
 陥落したのは上条の身体だが、同時にまた垣根の精神もオチたのかも知れない。
 頭の後ろが痺れるような感覚に襲われる。下の名前で呼ばれただけなのに、たまらなく感じている。
「ふっ……あ……」
 ぴゅっぴゅっと断続的に白い欲が吐き出され、垣根の手に受け止められる。
 これをそのまま上条の奥へ塗り込めたら……と想像してしまい、垣根はかぶりを振った。それは駄目だ。垣根帝督が上条当麻に許されているのはここまでなのだから。
 一度吐き出して力が抜けた上条の身体を抱き止めながら、垣根はほんの少しだけ苦しげに口元を歪ませる。この感情は一時の気の迷いだ。すぐに忘れてしまうに違いない―――と思っても、やはり心臓が痛みを訴えてくるのは誤魔化せない。
「上条……いや、当麻。次は俺のもシテくれるよな?」
 痛みを感じながら、けれどこの時間を少しでも長引かせたくて、垣根は“友人として”上条の耳に優しく音を注ぎ込む。わざわざ名前を言い直したのは、せめてもの抵抗の表れだ。
(ああ、切ねえなぁ……)
 こちらに向き直った友人の顔を眺めながら、垣根は胸中で独りごちた。










UNDER THE YELLOW ROSE  2

(お前が女だったら、このまま犯して孕ませて俺だけのものに出来るのに)












IF編じゃなくても支障はなさそうですが、とりあえずIF編という事で。