電撃キタコレ。と少女は思った。
 ただし彼女は別に発電能力者ではない。双子の兄と同じでそういうものが効かない性質の能力である。だからこの衝撃は外部から与えられたものではなく、彼女の心の内から湧き上がってくるもの―――。
「これが一目惚れってやつか」
 呟く少女の正面で、黒髪の少年の顔が若干引き攣っていた。半袖の白いシャツから伸びる健康的な腕を少女ががっちり掴んでいるからだろうか。確かに初対面の相手からこんな事をされれば誰でも驚くと思う。しかし少女は掴んだ右腕を離す気など毛頭無かった。
「その制服、○○高校のですよね。ところで突然で申し訳無いンですけど貴方の名前とメアドとケー番を教えてくださいアタシのも即行でお渡ししますからってか家の住所教えるよ今から遊びに来ませンか」
「え、……あ。ん、え? はい?」
 痣ができるのではないかと思えるほど強く腕を握り締める少女からのマシンガントークに少年は目を白黒させている。「ちょっと待て、何だこれ。どう言う事……?」と混乱している様子で、酷暑な本日、八月真っ只中の気温に頭の方もダメージを受けているのだろうか。いや、しかしここはコンビニ。自分も彼も冷え冷えの缶コーヒーが並ぶ棚の前、同じ商品に手を伸ばしたままの状態である。ちなみに、そろそろ店員の視線が物言いたげなものになってきているが、少女の知った事ではない。
 少女にしては辛抱強く、相手が冷静さを取り戻すのをじっと待つ。そして黒髪をツンツンと立たせた少年がちらり少女の“赤い”瞳と“白い”髪を一瞥し、
「一方通行……?」
「あ、ウチの兄貴のこと知ってンだ? ちなみにアタシはそいつの双子の妹で百合子ってゆーの。鈴科百合子。で、君の名前は?」
「……はい?」
 少女―――百合子の名前を聞いて少年が聞き返す。早口すぎて聞き取れなかったのかと思った百合子は、今度は少しゆっくりしたスピードで口にした。
「アタシは、学園都市第一位『一方通行』の双子の妹。名前は鈴科百合子。そンでもって君の名前は?」
「一方通行じゃ、ない……?」
「ン? 引っ掛かってるのはそっち?」
 台詞を聞き取れなかったのではなく、聞き返したのは名前と姿形に関する事だったのかと納得する。
 間違えるのも仕方ないだろう。なにせ百合子は双子の兄、一方通行と大変よく似た容姿の持ち主だったのである。超能力の発現や種類に遺伝が関係あるのかどうかという証明はまだきちんとなされていないが、彼女達は同じベクトル操作能力者であった。幼少期に開発されたその能力のおかげでどちらも白髪赤眼、男か女か判らない体型で、髪型も若干百合子の方が長い程度。よく知らない人間が見れば服装以外で見分けなど付けられそうにない容姿をしている。しかも本日の百合子の服装は男女どちらとも取れるようなものだったので、余計に見分けがつかないだろう。
「だいじょォぶだよ。兄貴はなンか色々イっちゃってて危ないって言われてるけど、アタシは全く問題ナッシングの清く正しく美しくがモットーな極々普通の女の子だから。さァさァ、ここで出会ったのも何かの縁だし。名前とメアドとケー番教えて!」
 ニコリと笑って百合子は相手を見つめた。
 同じ商品に同時に手を伸ばし、しかし相手の顔を見るよりも早く「あ、どうぞ」と言って譲ってくれる気満々だった優しさにフォールでインでラブしてしまった百合子だが、見た目の方も悪くは無い。黒髪は少しツンツンに弄って容姿にもある程度気を使っているようだし、その下の真っ黒な瞳は吸い込まれそうなほど透き通っている。全体的に細身だが、何かのスポーツをやっているのか掴んだ腕にはしっかり使える筋肉がついていて頼もしい感じを受けた。
 キラキラとした目で見つめ続ける百合子に根負けしたのか、少年が「はあ」と小さく溜息を吐く。
「名前、言えばいいのか?」
「うン。名前、教えて?」
「………………ま」
「え?」
「上条、当麻……です」
「上条当麻君だね! 了解。じゃあ今日から君はアタシの三下コイビトって事で! どうぞよろしくゥ!」
「ちょ、おいこら待て! 待ちましょう待ってください何それどういう事でせうか!? 出会って五分も経っていないうちに恋人って何事!? つか今『恋人』って発音しておきながら明らかに違う文字にルビ振ってたよなオイ! 他人の耳は欺けても上条さんのスペシャル・イヤーは騙せませんのことよ!?」
「さすが私の三下! 出会ってすぐに解っちゃうなンてもうこれ運命としか言い様がないよね!」
「ああああなんかもう隠す気もなく普通に『さんした』って発音してるし! 他人をそう呼ぶのってやっぱりお兄様の影響ですかお兄様の影響ですよね畜生! 折角成立したはずのフラグがこれかよ!」
「あははー。なンだかよく解らないけど、詳しい事情は仲を深めつつ話していこうか。じゃァさっそくアタシの家にゴー!」
「えええええええ!? ってか、あ、だめだ! 右腕掴まれてるから『幻想殺し』が使えない!? そもそもこの腕力は自前!? 能力!?」
 喚く少年もとい上条当麻を笑顔のまま引き摺って少女はコンビニを出る。
 上条と一方通行が夏休み中に盛大なバトルを繰り広げた過去を彼女が知るのは、二人が鈴科兄妹のマンションに辿り着いた後、元々家に居た兄と上条が顔を合わせてからの事である。






フォーリンラブは突然に







ちなみに設定はこんな感じ↓
一方通行:乙男でへたれ。黒髪ウニ頭は俺のヒーロー。ヒーローの名前すら知らなかったのに、ある日突然妹がそいつを連れてきて「彼氏」と言い出したからさあ大変。
鈴科百合子:いけいけGO!GO! 上条当麻はアタシの三下(コイビト)。キレると完全にお兄様と同じ口調になる。おそらく八人目のレベル5。