「上条さんのストライクゾーンが年上のお姉さんであるように、お前のそれは女という性別を持つ方々及びショタだったと記憶しているのですが」
笑う事も怒る事も焦る事もなく、努めて冷静に上条当麻はそう告げた。 視線はやや上向きに。対峙する相手の身長が自分より頭一つほど高いので致し方ない。知り合いに2メートル強の赤髪神父な外人少年もいるのだが、この目の前の青髪クラスメイトもすでに日本男子の平均身長を越えており、思わず「縮め!」と言ってしまいそうだった。 髪を青く染め、耳にピアスをつけたクラスメイトは当麻の抑揚の無い声を聞いても態度を変えず、狐のように目を細めて笑っている。窓から入る夕陽の所為で彼の青い髪は紫と言うよりも黒っぽくなっていた。 「青髪ピアス」 当麻は相手の姿をそのまま表現した渾名を口にする。 今度の声には些か咎める気配が混じっていた。黒の双眸も剣呑な輝きを見せ始め、現状――自分達二人しかいない教室で、当麻が青髪ピアスの両腕と壁に囲まれてしまっている状態――の解消または説明を早く行うよう要求している。 無理に固定された狭い範囲の中で当麻は腕を組む。ついでにわざとらしく溜息を吐いて、笑ったままの相手を睨み付けた。頭の片隅で、早く帰らないと居候がまた騒ぐだろうな、と思いながら。 当麻が現状ではなく他人の事に意識を割いた気配を察知したのか、青髪ピアスの眉が少しだけ顰められる。そして、 「信じてくれへんの?」 テノールの声には切なげな音が含まれていた。 だが当麻はそれをバッサリと切って捨てる。 「信じられんな」 そう、信じられない。なんて無駄で性質の悪い冗談なんだろうと思う。このクラスメイトが上条当麻の事を、 「好き、だって?」 「正確には『愛してる』やけどね」 「どっちも一緒だ! 気持ち悪い」 当麻の言葉には容赦が無かった。それほどまでに当麻が怒っているのだ。ただからかうためだけに当麻を壁と腕とで閉じ込め、愛を囁くこのクラスメイトに。 「ほんまの事なんやけどなぁ……」 眉尻を下げてそう言われても、誰が信じてなどやるものか。 性質の悪い冗談にこれ以上付き合っていられない、と当麻は己を囲う腕を右手で押した。が、その手を青髪ピアスに掴まれる。 「……まだ続けんのか、こんな馬鹿げた事」 「カミやんから見て馬鹿げていようがいまいが、ボクにとっては大切な事や。そう簡単に放す訳にはいかへんねん」 掴まれた所から伝わってくる相手の体温に当麻は舌打ちをしたくなった。これ以上触れていたくない。顔を突き合せるのも同じ空気を吸うのも嫌だ。一刻も早くこの場を去らなければ……。 「カミやん。ボクは、キミを、愛してる。嘘ちゃうんや。信じて欲しい」 「……ッ」 腕が背に回され、当麻はあっという間に青髪ピアスに抱きしめられる。体格差があるため抵抗も満足に出来ない。なんとか動かせる足を使って相手の足の甲を踏みつけるも、青髪ピアスは「痛いなぁ」と困ったように笑うだけだった。 「っ、おい! 青髪ピアス!!」 「ボクの言葉が嘘やったら、こんな風にカミやんに触れる事もできひんと思うんやけど」 「これくらいの事で信じられるか!」 「せやったら、どこまでやったら本気やて信じてくれるんかなぁ」 独り言のように青髪ピアスが呟く。 その言葉に何故か嫌な予感を覚えた当麻は更に抵抗を強めるが、 「ああ、そうや」 右腕を当麻の背に回したまま、青髪ピアスが右手で当麻の頬を包むようにして顔の向きを固定する。 そのまま近付いて来た顔に当麻は言葉を失って、 「…………んっ」 「はっ……、これやったら信じてくれる?」 「信じ、られるか……!」 やわらかな感触が残る唇を手で荒々しく拭い、当麻は吐き捨てた。 青髪ピアスを睨み付ける双眸は鋭い。だが眼球は潤み、目元も赤く染まっているのはどうしてか。 当麻の様子の変化を目の当たりにした青髪ピアスは、ふっと口元を緩めてもう一度距離を縮める。 「なんや、嘘吐いてんのはカミやんの方やね」 触れ合う直前に青髪ピアスがそう囁き、当麻は反論する暇なく吐息を奪われた。 今度は一度目よりも長く、深く。当麻の抵抗は、無い。 「カミやん……好きや。愛してる」 「くっ、ちゃんと目ぇ見えてん、のか? 俺は、男、だぞ」 男の癖に男である上条当麻が好きなのか、と問う当麻に青髪ピアスは吐息を感じられる距離で答える。 「その質問、カミやんにも返ってくるんやで?」 言葉の意味は相手の笑みが語っている。 上条当麻もまた、同性である青髪ピアスの事を憎からず思っているのだろう? と。 「……ほんま、カミやんは嘘が下手やなぁ」 くすくすと笑いながら青髪ピアスは当麻の額や頬に軽いキスを落としてゆく。 「男同士は世間にエエ顔されへんけど、カミやんとやったら平気や。カミやんが気にするんやったらちゃんと隠すしな。それにカミやんが何か特別な事情の所為でボクの気持ちを受け入れられへん言うんやったら、大丈夫。どんな事情があってもボクはしっかり受け止めるさかい。せやから、なぁ」 細められていた目を開き、当麻と真っ直ぐ視線を合わせて青髪ピアスは告げた。 「ボクと、付き合ってください。上条当麻くん」
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青ピが好きなのに性別とか記憶喪失とか色々あって自分と相手の気持ちを認められない(受け入れられない)上条さんと、上条さんが好きで好きで何があっても受け入れるつもりの青ピでした。(分かりづらい) |