電撃少年と高校生
学園都市に数多く存在する教育機関の中でも屈指の名門、常盤台中学。元は全寮制の女子校であったのだが、昨年から男女共学となっていた。
そこに通う学生の一人、御坂美琴は、強能力者以上でないと入学出来ない常盤台の中でも現在最高位の生徒―――学園都市全体でも七人しかいない超能力者の第三位『超電磁砲』の肩書きを持つ。完全無欠のお嬢様学校だった常盤台が男女共学に踏み切ったのも、“彼”を入学させるためだったと言われるほどだ。 そう、『彼』。 発音だけならまだしも、漢字で書くと「美琴」という少女らしい名前であるが、彼はれっきとした中学二年生の男子なのである。 チョコレートブラウンのスラックス、白のワイシャツにサマーセーター。 常盤台中学男子生徒の制服に身を包んだ御坂美琴は、第七学区の繁華街を歩いていた。 完全下校時刻にはまだ遠いため、街は夏休みの補習を終えた学生服姿の少年達や、鮮やかな色のスカートを翻してショッピングを楽しむ少女達の姿で溢れている。 真夏の日差しは強く、午後三時を回ったくらいでは全く衰える気配が無い。 「あっちぃ……」 思わずそう呟きながらシャツの襟元を掴んでバサバサと風を送る。名門中学の生徒らしからぬ所作だが、美琴本人が気にする様子は無かった。 さて。そんな暑い中、彼はどうしてこんな所にいるのだろう。その足は寮に向かう訳でも、はたまた涼を求めてどこかの店に入る訳でもない。ただ気の向くまま散歩しているようにも見えるし、誰かまたは何かを探しているようにも見える。ただし前者の場合は、いささか酔狂に過ぎるが。 ゲームセンターや飲食店の界隈を抜け、某不幸少年も利用すると言う噂のよく安売りをしているスーパーの前を通り過ぎ、それでも歩き続けると繁華街などすっかり通り過ぎて公園に出た。公園と一口に言っても、遊具と小さな子供達で溢れているそれではなく、アスファルトとタイルで固められた地面が広がり、自販機やベンチが置かれ、周囲を木々で囲まれた、そんな所だ。 そこまでやって来て、美琴はようやく足を止めた。 彼の視線が向けられた先には―――。 「げっ!? ビリビリ中学生!!」 「だぁれがっ! ビリビリ中学生だ!? 俺には御坂美琴っていう立派な名前があるんだよ! 何回言えば覚えるんだ!?」 バチンッ! と発電能力者らしく前髪の辺りで青白い火花を散らしながら美琴が睨み付けたのは、黒髪ツンツン頭の高校生。どうやら自販機でジュースを買おうとしていたらしいのだが、財布に二千円札しか入っておらず、それを使うか使わざるべきか迷っていた模様。ちなみに彼は、以前同じシチュエーションで二千円札を丸々機械に呑み込まれ返って来なかった経験があるのを、美琴は知っている。 「はいはい、そりゃ失礼致しました御坂様。……んで、お前なんでこんな所にいるんだ?」 突っ掛かって来た美琴をさらりと流し、黒髪の少年・上条当麻は問う。夏休み前からの知り合いであり、先日は美琴にとって非常に重要な事件で助けてくれた人物でもあるため、彼の美琴への対応は慣れた物だった。 その事に対し、大いに苛立つような、けれど相手との仲を感じさせて少し嬉しいような、いやいややっぱり腹が立つ! と複雑な感情を覚える御坂美琴、中学二年生。相手からの切り返しに「ぅえ!?」と驚きの声を上げる。 「え、じゃねーって。なに、散歩? ……にしちゃあ、ちと暑過ぎるかな。ちなみに上条さんは“補習の補習”……あれ? その更に補習だっけ。まぁそれの帰りなのです」 「へ、へぇ……」 (何なんだ!? 補習の補習の補習って!) 「で、お前は?」 「お、俺は……。買い物! 買い物の帰りにちょっとブラついてただけだ。生憎気に入ったモンが無くて何も買ってないけどさ」 「あははっ、そりゃ……折角暑い中出て来たってのに災難だったな」 「……あ、ああ。まったくだ」 咄嗟に吐いた嘘だったが、どうにか誤魔化せたらしい。 当麻の笑みを受けてほんの少し顔を赤くした美琴は内心ほっと息をつく。 (って赤くなるってなんじゃーい!! これは違う! 断じて違う!! こ、こいつの笑い顔を向けられて照れたんじゃない!! 確かに年上のくせして笑うとなんか可愛いけど……じゃなくてっ! 暑いからだ! 暑いからなんだー!!) 「うぐぐぐぐ……」 「ど、どうした御坂?」 「なんでもない。御坂美琴は今日も正常です」 「いや、そんな事言ってる時点で危ないですからね御坂さん」 当麻の冷静なツッコミは聞かなかった事にする。 「っ!? つーか顔近い!」 「ん? なんか顔が赤かったから熱でもあるのかと思って……」 そう言った当麻の右手が行き場を失ってヒラヒラと振られる。 だが美琴はそれどころではない。 ズザァ!! と勢いよく当麻との距離を取った後、16ビートを刻む心臓を何とか宥めようと奮闘している。しかしながら後ろに下がるまで間近にあった当麻の顔を思い出し、更に心拍数を上げる羽目になっていた。 程よく日に焼けた健康的な肌と、吸い込まれそうな黒い瞳。身長差があるため、あちらがほんの少し屈んでいたのは同性として気に食わないが、汗に紛れて香った彼の―――。 「うっがぁぁぁあああああ!!」 「み、御坂さん!?」 「違う違う!! 確かに黒子(一つ下の女子生徒)だとかその辺の女の子が相手ならアリかもだけど!! これは無いだろ流石に! しっかりしろ俺ー!!」 「御坂ご乱心!?」 突然叫び出した美琴に当麻はビックゥ!! と両肩を竦めて一歩、いや、二歩、いやいやもっとだ三歩、四歩、五歩……と退く。物理的な後退である。 「おーい、御坂……?」 「……はっ!? え、あ、今の無し!!」 当麻が思いっきり退いているのにようやく気付き、美琴は正気を取り戻した。 「やっぱ暑さでどっかイカレたんじゃねーの?」 と言いながら、そろりそろりと戻って来る当麻に苦笑いで答える。 「そ、そうかも」 「まぁホントあっちぃしなぁ……あ、そうだ」 元の位置まで前進し終えた当麻がポンと両手を叩いた。 「なんなら御坂、今からウチ来るか? 電気代が掛かるからクーラーをガンガンに効かせて……ってのは無理だけど、冷たい茶くらいなら出せるぞ」 「……はい?」 「いや、だから。上条さん宅にいらっしゃいますかって」 都合のいい聞き間違いだろうかと目をパチクリさせた美琴に、当麻はそう繰り返す。どうやら本当の本当にお呼ばれされているらしい。 「いいのか?」 「御坂がヒマなら」 「そ、そうか。じゃあ行ってやってもいいぞ」 「はいはい」 当麻は「お前はどこのツンデレだ」と言われそうな美琴の返答に苦笑を浮かべて、「こっちだ」と歩き出す。 「たぶん居候が部屋でへばってるだろうけど勘弁なぁ」 「ああ、大丈夫……」 (ん? 居候?) 相手は一人暮らし用の学生寮に住んでいるのではなかったか? そう首を傾げながら当麻の後に続く美琴。 彼が上条宅の居候こと純白神父・インデックスと出会うまで、あと少し。 「とうま! また男なんか連れ込んで!!」 「俺はどこぞの節操無しダメ女か!? つーか初対面の方を睨み付けるのは止めなさいインデックス!!」 (何なんだこの白いの……。それにしても同居、同棲? いいなぁ) そのうち御坂弟(笑)も出したいなぁ……。 美琴はオトメン&ツンデレで、御坂弟はオトメン&クールビューティー。 |