例年より随分と早く訪れた猛暑。日中は人間の体温を余裕で上回る気温が叩き出され、夜も夜で連日熱帯夜。そんな日々が続いたある夜、おそらくはあまりの暑さに頭の方がイカレてしまっていたのだろう。上条当麻は特にこれと言った感慨も無く、同じクラスの男と、寝た。

 ―――のだが、だからと言って特に殺伐とした状況が生まれた訳ではなく。

「…って〜〜……」
 表面ではなく、腰の奥からやってくる鈍痛。起き上がった途端襲ってきたその痛みに当麻は思わず蹲る。昨夜も処理を怠りはしなかったため腹痛を体験することはなかったが、何をどうしようとやはりこの痛みからは逃れられないらしい。
 ぐ、と恨みの視線を横斜め下に向ければ、痛みの元凶たる人物は未だぐーすかと気持ち良さそうに夢の中。おざなりに閉めたカーテンから零れた夏休み直前の陽の光がその金に染めた短髪をキラキラと輝かせている。普段から掛けている淡い色のサングラスはベッドから数歩離れた机の上に放置されており、今は意外と整った素顔が無防備に晒されていた。
 このクラスメイト―――土御門元春のこんな顔を見るのはもう何度目になるだろうか。異性にモテたいが故に髪を染め、不良っぽい格好をするこの男は、しかしながらそのような努力は報われずにこうして友人の括りに入る上条当麻と所謂『性欲処理』を行っていたりする。どちらが上になるかは毎度ジャンケンで決めるのだが、生憎不幸体質の当麻がその勝負に勝てたためしは無い。とりあえず連敗の数は両手の指の数を超えているだろう。つまり、この男と寝た(もっと言ってしまうと、当麻がこの男に抱かれた)回数もそれだけあるということだ。
(そして上条さんは同じ数だけこの鈍痛を味わわされているという訳ですね)
 不幸だ。と図らずも口癖と化してしまった言葉が小さな音になる。しかしながら今更この自分より頭一つ分背の高い男を当麻が押し倒せるかと問われれば、それに関しては口を噤むしかない。むしろ土御門を押し倒している自分を想像してみて当麻は泣きたくなった。精神的にも物理的にも無理じゃねーか、と。
「にしてもまぁ、本当に気持ちよさそーに眠っていらっしゃることで。しかしながらそろそろ起きて動いてもらわないと、上条さんが空腹でぶっ倒れてしまいますですよ?」
 独り言の域を出ない呟きが土御門の上に落ちる。この部屋の主は――土御門の妹が彼の部屋に押しかけてくるという事態が突発的に起こる可能性を考慮して――当麻であるのだが、互いに溜まったものの処理をした後は土御門が率先して食事の用意から何から行うことになっている。それはひとえに、“この状態”の当麻が満足に動けないためだった。
 当麻も無理して動けない訳ではないのだが、折角土御門本人が良いと言ってくれているのだし、その言葉に甘えてしまおうと言う思いはある。やっていることが多少他より違うとは言え、自分達は頼り頼られることの出来る友人なのだから。
「ほら、起きろよ」
 そう言いながら当麻は眠る土御門の頭を軽く小突いた。するともぞもぞとシーツが動き、うっすらと瞼が開かれる。
「……にゃ〜…もう朝になっちまったのかい」
「ああ。つーかこの高さだと昼前って所じゃねー?」
 当麻はカーテンを開き、太陽の高さを確認して苦笑した。休日だから良いものの、平日だったならば大変なことになっていただろうと。まぁ、翌日が休みであったからこそ、こうして二人で無茶も出来た訳なのだが。
 当麻が一人物思いに耽る間にも土御門が目をぱしぱしと瞬かせ、緩慢な動きで起き上がる。途中、顔に太陽光が当たったらしく、「わっ、」と小さく声を上げていた。
「……おはよ、土御門」
「おはようさん、カミやん」
 へらりと笑う土御門に当麻も笑い返して「ほら、」と先を促した。
「俺はもう腹ペコなのですが。本日の土御門さんは何を作ってくれるのでせう?」
「そうだにゃー……たしか昨日確認したら冷やご飯と鶏肉と卵が冷蔵庫の中に入ってたし、」
「オムライス?」
「でOKかい?」
「おう。ケチャップもこの前買ったばかりだから大丈夫だ」
「んじゃ決定。カミやんは顔洗ってちょっくら待っててくれい。すぐ用意するからにゃー」
 言って土御門がベッドから降りる。その背――赤い爪跡がついていることにはあえて触れないようにしよう――を見送って当麻もまたゆっくりと床に足を下ろした。立ち上がると僅かにふらついたが、どうということでもない。
 ほどほどに冷房を効かせた部屋のフローリングは足の裏に冷たい感触を返してくる。それに残った眠気を払われながら当麻はユニットバスの方へと足を向けた。










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食事中。
上「…うーん、60点ってとこか」
土「さすが自炊組は採点が厳しいにゃー」