ハルヒに言われてこの学校の郷土資料を探しているときに見つけた、古い学校新聞。
このときの俺は大分参っていたのだ。進展も後退もしないこの状況に。




どこにでもよくある話



「なあ古泉」
「なんですか?」

もうすぐ春。
暦上ではとっくに春だけど、体感温度はまだまだ冬だ。すっげ寒い。
団活が終わって帰り道。なんだかはしゃいでいるハルヒたち三人に遅れる形で、俺は古泉と歩いていた。

「忘れ物、したかも」

唐突な発言。でも、俺はこの日にかけているのだ。
今日のために、よくない頭を頑張って振り絞って綿密な作戦まで立てた。
失敗するわけには、いかない。

「忘れ物、ですか」
「ああ、忘れ物。ちょっと取りに戻る」
「お付き合いしますよ」
「ありがとな」

よっしここまでは計画通り!優しい古泉だ、絶対に付き合ってくれると思っていた。
軽くはしゃぎたい気持ちを抑えて、俺はハルヒに声をかけた。

「ハルヒ、ちょっと忘れ物したから学校に戻るな」
「忘れ物?まったく、いつもボーっとしてるからよ!明るくなってきたとはいえ、まだ暗くなるのは早いんだから、急ぎなさいよね!」
「ああ、わかった」

あたしたち先帰ってるからねーっと言う声をバックに、俺たちは学校に向かうのだった。

「あったあった。悪い古泉。迷惑かけた」
「いえ、全然大丈夫ですよ。何を忘れたんですか?」
「宿題。明日までのやつ」

俺は教室の机の中からちょっと折れたプリントを引っ張り出した。
まぁこの為にわざと忘れたんだけど。
古泉を騙すのは心苦しいけど、今回ばかりは仕方がない。
これからが本番、頑張らなくては。

「そ、そういえば古泉」
「はい、何ですか?」

あー、どもってしまった。ばれてない、か?

「最近風が強いな」
「風ですか?」

む、やっぱりこの話の流れは不自然だったかもしれない。でも自然な話の流れなんて意識して出来ないし。

「そうですね、確かに強いかもしれません」
「だよな。さ、くらの枝とか心配だよな」

今年の桜、枝とか折れてないか不安だな!とかなんとか、慌てていろいろ言ってみた。なんだか余計に嘘くさいけど、言ってしまったものは仕方ない。

「綺麗に咲けば良いですけどね。つぼみとか、飛ばされてなければいいんですが」
「見に、行ってみないか?」

そう、それが今回の目的。
古泉と、桜を見に行って、そして……。

「あ、危ないですよ」
「う、わ」

考え事に没頭していて、備え付けのロッカーにぶつかりそうになった。恥ずかしい。
赤い顔を隠そうと、俺は俯いた。



「やっぱりまだ咲いてはいませんね」
「そうだな」

裏門のそばにある桜の木の下。
実は俺は、まだ花が咲いてないのを知っていた。何回か下見に来ていたのだ、ここに。この場合、咲いている咲いてないはあまり関係ない。

「あ、あの枝、折れそう」
「どれですか?」
指差したその枝は、一昨日あたりから折れそうになっていた。今日の風で完全に折れてしまわないか心配してたが、よかった。元気な枝を折るのはもったいないからな。

「とってもらっていいか?」
「あの枝をですか?」

古泉は少し驚いたようだ。だが、俺はあの枝をとってもらわなくてはならない。
この日のために、いろいろな理由を考えてきたのだ!

「結構高い位置にあるし、もう折れそうだから、その、俺の家の花瓶に活けようかな、とか思って。さ、最近妹が桜桜って五月蝿いし」

あ、あとどんなこと考えてきたっけ……!?忘れてしまった。
あああ古泉に不審に思われてしまう。
きょとんとした顔でこちらを見ていた古泉は、くすりと小さく笑って、

「いいですよ」

大きく跳んだかと思うと、その手には桜の枝を。
すごい、あの空間じゃなくても超能力者みたいだ。

「はい、どうぞ」

にっこりと笑って古泉はその枝を俺に差し出した。
本当に嬉しい。にやけるなよ、俺。これで目的は完全に達成したのだ!

「ありがとう」

その枝を受け取ろうと手をのばし、あ、あれ?古泉が枝から手を離さない。

「古泉?」
「そういえば僕、この学校に転校する前にいろいろ勉強したんですよ。この学校のこと。涼宮さんの興味を引けるように、特に伝承とか、噂話とかも覚えたんですよね」

古泉はなにを言っているのだろう。なんだかすごく、やな予感が。

「その中に一つ、こういうのがありまして。確か二人っきりで、とある桜の木の下に行って、その桜の木の枝を相手にとってもらうと、その相手とずっと一緒にいられる」

もしかして、古泉は。

「それ、この桜の木のことなんです」

あの伝承を知ってる!?

「あ、あああのあのあのここ、これはだな……!」

顔が、絶対赤い。もう日は傾いていて、でもここは日陰だから夕日のせいにもできない。

「あなたは、僕とずっと一緒にいたいんですか?」
「う、あ、そ、それは友達として……」
「友達としてでいいんですか?本当に」
「うぅ、」

ああもう俺は一生古泉には勝てないんだ。
あの勝ち誇った笑み。悔しい、かっこいい。

「こ、恋人、として、一緒にいてくださ、ぃ……」

声がだんだんと小さくなって、それでも古泉には聞こえてしまったようで。

「よろこんで」


あの桜の枝は、俺の机の上に飾られている。







「夢鋏」の鋏子様から相互リンク記念として戴きました。

もう本当に……なんて可愛いキョンなんでしょうか!
そして古泉が格好良すぎる……! そりゃキョンも惚れちゃいますよねv
鋏子様、この度は素敵な小説をありがとうございましたvv