生かすも殺すも自分次第。この男の生殺与奪権は仁にだけある---嗚呼!
ゾクリ、と身のうちを駆け抜けるのは紛れもない快感。 葛城丈---大事な大事な、仁の駒。 深夜。仄かな月明かりのもと、誰もいない廊下をを仁はまっすぐに歩いていた。カツ、カツ、カツ。しん、と静まり返った廊下に響くのは仁の足音だけ。 カツリ。ひときわ大きく響かせて、目指すドアの前で仁は立ち止った。物音ひとつしない、硬く、すべてを拒絶するかのように閉ざされた其処からは、中の様子を窺い知ることはできない。 だが仁は、なかの人間が決して眠ってはいないことを、眠れるはずのないことを知っていた。 コツコツ、…コツリ。 最初に二回、すこし間を空けてもう一回。それが仁の合図の仕方。返事はない。だかためらうことなく仁はドアを開けた。 月明かりの射し込む、最低限の家具だけが置かれた簡素な部屋。その中央に位置するベッドに蹲るように座り込む、ひとりの男。 「丈… 」 「丈…? 」 返事はない。だがもう一度。優しく、やさしく名を呼んでやると、ぴくり、と丈は肩を震わせた。 もう、いちど。 「じょう、…? 」 もう一度。何度でも。 かまわず丈の隣に腰掛けると、仁は丈の肩を抱き寄せた。 「じょう、こっち向いて---? 」 甘やかに、絡めとるように。やわらかく、仁は丈に呼びかける。「じょう、ねえ、丈、」髪に、頬に、口付けを落としていく---そろそろと、丈が顔を上げた。 「じ、ん 」 すがるように仁に向けられるそのまなざし。その奥に瞬くのは、どうしようもない飢えと、恐怖。 ひた、と向けられるそのまなざしがある一点で留まるのを、仁はどうしようもない愉悦を以って迎えた。 「じょう--- 」 くちびるが、笑みを模るのを止められない。目蓋に、そしてくちびるに。仁は甘やかに口付けてやる。 「丈… 」目を合わせ、見詰め合ったまま仁は丈のその薄い唇に舌を這わせ、そして 「仁!じん、じん---!!」 その瞬間、仁は強く、激しく掻き抱かれていた。軋むほどに抱きしめられ、別人のような荒々しさで以って口付けられ---そのままベッドに押し付けられた。 「ひあぁぁぁぁあん…ッッ!!」 つながったまま裏返され、そのまま激しく腰を打ち付けられる。腰だけを高く掲げられ、獣のように犯される--- そんな屈辱的な姿勢をとらされながらも仁は、決してそれが嫌ではなかった。 「あッ、あッ、あッ、アンッ、ぁ、ああッ… 」 いつもは過ぎるほどに丁寧に。だが仁が他の男に抱かれた後にはほんのすこし乱暴になるこの男の抱き方が--- 仁は、決して嫌いではなかった。仁に、他の誰かの痕跡を。決して自分がつけることのない、つけることのできない跡をみつけた、その憎 悪。羨望。渇望--- 「じんッ…、じん、じん… 」 狂ったように呼ばれる己の名。常にはまるで殉教者のように仁を求めるこの男の、それが口に出されることのない慟哭の表れのように思えて。 「ひぁッ…あ、あぁぁあ、丈…ッ」 身のうちに奔る快感。それは決して肉体的なものだけではなく。この男を陥落させた、この男のすべては仁のものであるという、その喜悦。 やがて共にのぼり詰める、絶頂--- 「あ…ッ、あぁぁぁぁあ………ッッん!!! 」 身体の奥深くににたたきつけられる灼熱---それは熱情の証。丈の、想いのたけ。 そして訪れた、小さな、ちいさな死の瞬間--- 仁は、無意識に笑んでいた。 だいすきだよ、丈---可愛い、可愛い仁の、駒。 |