そのくちびるが綴る言葉を聞きたくなかった。いつで も、いつまでも聴いていたかったその甘い柔らかな声 音が伝える絶望を、耐え難い現実を。
丈は、理解などし たくなかったのだ。
沙那奪還のために侵入した研究所で丈と仁は捕らえら れ、そして明るみに出された真実はあまりにも残酷 な、それで。







はじめに感じたのは、熱。
愕然とした面持ちで丈は、仁を見つめた。丈を抱きし めるその腕の温かさも、心地よくひそやかに耳をくす ぐるその声も。いつでも丈を誘うその甘やかな体臭さ えも、あまりにもいつも通りなのに---



「おしゃべりな奴は、あまりすきじゃないな」



じん、ウソ、だろ-----…?
だがその灼熱が痛みであると知覚した瞬間、丈は理解 した。理解せざるを得なかった。
仁が、自分を捨てようとしていることを。







目覚めて最初に目に入ったのは薄汚れた天井。
横たえられる己の姿。鈍く疼く脇腹の痛み。そして、 項垂れる、少女―


「沙、那…  」


なんと云えばいいのかわからなかった。自分がなんと 言ってほしいのかも。ただ、痛いほどに理解した。仁 が、丈を切り捨てたということを。丈は、仁に捨てら れたのだということを。


どうして---
奇妙に静かだった。なぜここまで己が平静でいられる のか丈にはわからない。仁は、丈の神だった。丈の想 いであり、心であり、祈りであり丈を形作るすべての もの。空っぽだった自分を満たした、ただひとつ。
かまわなかった。何が間違っているとか、正しいと か。それが仁の望みなら、ただ丈は仁に従う。仁のた めにだけ、丈は生きる---


信じられなかった。彼を失くして尚、まだ生きている 自分が。どうして息をしているのだ。痛みを、空腹を 感じることができる。彼を失くしたら世界は眩やみに 包まれるのだと思っていたのに
どうして、こんなにも変わらない---



「仁---… 」
無意識に零れ落ちるのは彼の名前。丈にとって、この 上もなく大切でうつくしかった、二文字の、音。
『さよならだ、丈 』こんなふうにおいて行かれるくら いなら---














いっそ、殺してほしかった。
丈は、仁に溺死してしまいたかった。
























アテナ様から頂きました!イノセント・ヴィーナス小説第二段!!

今回も素敵過ぎます!ありがとうございますっ!

「仁大好き」どころか「仁信仰」な丈がいますよ!キャーキャー!(落ち着け)

仁は丈にとっての全てなのに、その本人に捨てられて、まだ生きている自分・・・。

その現実を信じられなくて絶望している丈が、切なくて愛おしい。

ちなみにこのお話を読ませていただいて、初めて「溺死」という単語に萌えました(←!)

良いな溺死・・・!

でもきっと丈の台詞だから良いんですよね。

「仁に溺死してしまいたかった」だなんて・・・!

うわーうわー!もう本当にありがとうございました!!












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