破滅に向かっているのではないか---そう、おもわずに
はいられない。ヤツらを裏切ってからの仁は、まるで
何かに追い立てられているかのようだ。誰も知らな
い。司令も、たぶん仁本人だって気付いちゃいないん
だろう。丈は、仁の最後の枷だった。
「……はッ…」 青狼の上で一心に腰を振っているそのうつくしい裸体 はかつて青狼が切望したもの。月明かりに浮かび上が る奇跡のようなそれを見つめていると、幾度も脳裏を 過ぎり、だが決して答えの見つからない問いがまたも 浮かんでくる。 いったい、どこから狂ってしまったのだろう--- 「あ…ん、ア、ぁああッ…」 いままで抱いてきたどんな女よりも妖艶な身体。ぬけ るような白い肌。なまめかしく喉もとを伝う汗。ど んなときにもこの上ない冷たさをたたえる金の瞳---あ あ、喰ってしまいたい。その蜜色を抉り出し、舐めま わし咀嚼し呑み込んで。バラバラに引き裂いて粉々に 踏み潰してやったらそれはどんなに甘いだろう。 「ひ…あんッ、あ、ぁん、あ……」 欲しかった。だが決して手に入らないことも知ってい た。ずっと見ていたのだ。正気と狂気の狭間を共に駆 け抜けながら、その酷薄な瞳に映っていたのが誰なの かを。憎しみを、蔑みを映しながらもその奥には別の 色を浮かべ。 ただ一人、葛城丈−あの男だけが。 「ふ……ン、あ、ぁ…青、狼……?」 その、笑み--- どんな娼婦よりも淫蕩な、けれど聖女のように清らか でみだらな、それを-- 「ッ、じ ん -------ッッッ!!」 見た瞬間込みあげてきたこの凶暴な衝動は何なのだろ うか。 青狼は起き上がり、仁をベッドに押し付けると 激しく腰を振りたてた。 「あん、ああ、ぁ、…青------ッッ!」 かまわない。かまうものか。オレたちはファントム− 狂気の代弁者だ。かつて青狼を切り捨て、いままたそ の唯一さえも捨て去ったこの男、裏切りと絶望を撒き 散らし、この上もなく醜悪でだからこそうつくしいこ の男がどこへ向かおうとも 仁、お前と共になら--- 「ひッ…ぁあっ、ぁ、あぁう------ッッッ…!!!」 絶頂の、瞬間--- 「 」と、そのくちびるが声に出さずに呟い た。 破滅に---向かって、いるのだろう。 丈こそが、仁の最後の枷だった。 |