「ねえねえ喜助、ばれんたいんってなぁに?」 テッサイ、雨と一緒に近所のスーパーに買い物に出掛けていた一護が、買って貰った大好きなチョコレートを抱えて居間でゴロゴロしていた喜助に突進して来た。 「何ですか、突然っスねぇ?」 おそらくスーパーでバレンタインディのポップでも見たのだろう。 最近、喜助制作の特製符のお陰で、可愛らしい猫耳と猫尻尾を隠せるようになった一護は、今まで抑えていた物が爆発したように、好奇心の塊と化している。 「え〜と、難しいお話しと簡単なお話しのどっちがいいですか?」 「…今日は、簡単なお話しでいい」 喜助の説明にちょっと顔を顰めた一護は、以前『難しいお話し』でチンプンカンプンな思いをした覚えがあったせいで、一拍置いて即答した。 「じゃあ簡単に。ようするに大好きな人にチョコレートをあげる日で、今日、2月14日の事っスよ♪」 二つ折りにした座布団を枕に寝転がっていた喜助は、起き上がって駆け寄ってきた一護を胡座をかいた膝の上に抱き上げると、ニッコリ笑って説明した。 「大好きな人に、チョコレート、あげるの?なんで?」 自分が持っている冬季限定のパッツケージ生チョコの箱と喜助の顔を代わる代わる見つめて、不思議そうに首を傾げる。 「スーパーで一杯チョコレートがあったでしょ?たくさんの人がチョコを買うから一杯置いてあるんスよ」 その言葉にコックリと頷いた一護は、頭を撫でる喜助の大きな手をそのままに、しばらく何かを考えるように黙り込んだ。 「一護さん、どうしました?」 フワフワで柔らかな髪の感触を堪能しながらも、黙ってしまった幼子に、不思議そうに問い掛ければ、大きな琥珀色の瞳に上目遣いに見つめられる。 「あのね…、一護が一番大好きなのは母ちゃんなの。でも母ちゃんはもういないから、コレ、喜助にあげる」 考え考え綴る幼い言葉と共に、手に持ったままだった生チョコの箱を喜助に向ける。 「アタシに!?よろしいんですか?だって一護さん、チョコレート大好きでしょ?」 吃驚してそう問い返せば、さらにニッコリと満面の笑顔でチョコの箱を差し出される。 「だって、一護、喜助が大好きだもん!だから、一護は喜助にチョコあげるの!!」 それはそれは嬉しい言葉と共に差し出された箱を受け取った喜助は、蕩けるような優しい笑みを浮かべると、小さな一護の身体を抱き締めた。 「一護さん、ありがとうございます。アタシ、本当に嬉しくて幸せですVvv」 コツンと一護の小さな額に自分の額を合わせて、睦言のように甘く囁く。 「でもね、一護さんも知ってるようにアタシってば甘い物が苦手でしょ?だから、このチョコは一護さんと半分こネ♪」 「いいのっ!?」 喜助がパッケージを開けて個別包装のチョコを差し出すと、一護は猫耳と尻尾をピンッと立ててその包みを受け取り、早速袋を破いてチョコを頬張る。 「…美味しい〜ぃVvv」 「それは良かった。はい、もっと食べてもいいですからネン♪」 「一護ばっかりじゃ駄目〜!はい、喜助もア〜ン♪」 「はい…ア〜ン」 小さくて細い、一護の指に摘まれた四角くて茶色の菓子を口に放り込まれて咀嚼する。 口腔に甘酸っぱいチョコの味が広がる。 「喜助、美味しい?」 「ええ。特に一護さんが食べさせて下さったので、とっても美味しいですVvv」 「良かったぁ♪来年も、一護、喜助にあげるからね!」 「はい。楽しみにお待ちしておりますネVvv」 嬉しそうに笑う一護に釣られたように、まるで顔面崩壊しそうな笑顔を浮かべる鬼族の長の姿が見られた、如月の14日の聖バレンタインディだった。 |