カランコロン、カラカラカラ…。 カラフルな缶に入ったドロップの残りを確認するように、小さな手で掴んだ小振りな缶を振っている一護を、少し離れた縁側で煙管を吹かしながら喜助が眺めている。 「一護さん。もうすぐ三時ですから、あんまり飴舐めてると肝心のおやつが食べられなくなりますよ?」 吸い終わった煙管の火口から残った灰を捨てて簡単に手入れした後、綾織りの煙草入れに仕舞うと袂に入れて立ち上がる。 「後一個だけぇ…ダメ?」 先日、買って貰ったばかりの大きな黒猫のヌイグルミを抱えてゴロゴロしていた一護の傍にしゃがみ込んだ喜助に、上目遣いで可愛い仔猫がおねだりしてくる。 頭上の橙色の猫耳が心なしかヘタリとしている様子が、喜助の胸を直撃する。 「…しょうがないっスねぇ。じゃあ、一つだけネ?」 どうしたって愛し児には甘い自称・養い親は、苦笑しながらもその我侭を許してしまうと、途端に耳がピンと立ち尻尾が元気に振られる。 「うん!あ、喜助にもあげる♪」 はいVvvと差し出された赤い半透明なドロップを素直に受け取って、そのまま口に放り込む。 「おや、苺味ですネ。ありがとうございます、一護さん♪」 喜助にお礼を言われて、それは嬉しそうに笑った一護が別のドロップを口に入れる。 が…次の瞬間。 「…うにゃあぁ〜」 一護が今口にしたのは白っぽいドロップだったと思ったが、どうやらミルク味ではなく一護の苦手な薄荷味だったようだ。 「…えぐぅ、きしゅけぇ〜」 普段は釣り気味な一護の眉が情けなく下がって八の字になり、大きな瞳には見る見るうちに涙が溢れてくる。 今さっきピンと立った可愛らしい猫耳もヘニョンと力無く折れてしまい、尻尾がだらりと畳に這う。 「ああ、ああ!泣かないで一護さん、ほら!薄荷味の飴は出して、替わりに別の味の飴を舐めましょうネ?」 慌てて缶を振るが、肝心の中身はカラッポで余計に焦る。 「あららら、どうしましょう?えっと、アタシの舐めかけでよければコレ舐めますか、一護さん?」 そう言って、レロンと舌にドロップを載せて一護に見せると、一護が喜助の膝に乗り上げるとそのままの勢いで首に抱き付いて来る。 「ちょっ、ちょっと一護さんっ!?」 突然の事態に焦りまくる喜助を尻目に、一護の顔が近付いてくると柔らかな唇が重なって来た。 「んうんっ!?」 まずはスウスウする薄荷味のドロップが放り込まれ、続いて薄くて小さな可愛らしい舌が、硬直したままの喜助の口腔内を擽るようで何かを探すかのようにチロチロと動き回る。 そして、舌の上に載ったままだった苺味のドロップに気付くと、猫特有のザラザラした小さな舌が生き物の様にドロップを攫って柔らかな唇が離れていく。 「あ、ま〜いっVvv」 喜助の膝の上に乗り上げたまま、息が触れる程近い距離で一護が歓声をあげる一護の耳も尻尾も、もう絶好調に元気が良くなっている。 「喜助、ありがとぉ♪」 甘酸っぱい苺味のドロップに満足して、すっかり満面の笑顔になった一護がニッコニコで喜助に抱きつく。 「ええ、まあ…喜んで頂けて、アタシも嬉しいっス、よ…(滝汗)」 苺味と交換に、一護が喜助の口腔に置いていった薄荷味のドロップを舌の上で転がしながら、まだ余り回転の良くない脳みそをフル稼動させて何とか言葉を紡いで、己の首にぶら下がっている小さく華奢な身体を抱き返す。 我知らず頬が赤く染まるのに気付いて片手で顔を覆うと、一時停止状態にあった思考能力を回復させていく。 『幸せなんだか、それとも拷問なんだか…。とりあえず、誰にも見られなかったのは不幸中の幸いなんでしょうねぇ…(とてつもなく深い溜め息)』 近付いて来る人(鬼?)の気配に、テッサイが三時のおやつを持って来たのだろうと察し、愛し児を一端離して立ち上がる。 「一護さん、お待ちかねのおやつですけど、お口の中はカラッポになってますか?」 「う〜んと、もうちょっとだけ?」 コロンと口腔内で小さくなったドロップを転がして、首を傾げる一護は眩暈がする程愛らしい。 せっかく平静に戻った顔色が又、赤くなりそうで慌てて首を振って煩悩(苦笑)を祓うと、喜助の部屋の前で声を掛けて良いのか躊躇っている様子なテッサイに自分から声を掛けて入るように促した。 お盆に載せられた、見た目も匂いも美味しそうなテッサイお手製のケーキに歓声をあげる一護は、見た目より全然幼くて、さっきの行動に0.1%程の性的な意味合いも無かった事実が窺い知れる。 『何と言うか、早いとこコノ児(一護さん)が心身ともに成長して下さらないと、アタシってば変態街道まっしぐらって感じっスねぇ…』 再び、深々と溜め息を吐いた自称、猫又・一護の保護者である月の鬼こと浦原喜助を、さも不思議そうに見つめる一護とテッサイだった。 |