「一護サン」

「ん?」

「初詣、一緒に行きませんか?」

「何で?」

「やっぱり、新年は一緒に迎えたいじゃないですか」

「……わかった、親父に頼んどく」







May I love you through all eternity?







「うわぁ〜、けっこう人多いな」

 時刻は夜の11時過ぎ。残り数十分で日付と年が変わる。

「もうすぐっスからね」

 自分たちの町からちょっと遠い大きな神社。浦原と二人で歩くのを恥ずかしがった一護が決めた場所だった。そう、わざわざ電車にまで乗ってきたのだった。

 いつもと違い、浦原はきちんとした服を着ている。白いタートルネックのセーターに黒い皮のパンツ、その上に濃紺のコートを羽織っていた。

 その隣の一護は浦原とは正反対の色。黒いトレーナーに一護の長くて細い足を強調するかのようなジーンズ、その上に白いコートを羽織っていた。

 神社の鏡台に向かって一護と浦原は並んで歩く。人ごみの中を逸れないように気をつけながら。

「わっ!」

 それでもこの人数。嫌でも他人にぶつかってしまい、浦原を見失う。でも、日本人離れした髪の色と、身長のおかげでどうにかすぐに見つけることが出来た。

 浦原も一護が逸れたのに気がつき周りをキョロキョロしていた。

「大丈夫っスか?」

 一護を見つけると浦原は人並みを掻き分けて一護の元にやって来た。

「ああ、なんとかな。でも、これじゃあ、全然進まないな」

 人が多くてすぐに逸れてしまう。

 すると、浦原がゆっくりと一護の手を掴んだ。

「これなら逸れませんよ」

 そして、絡ませる。強く一回り小さな手を握り締めた。始めは抵抗したが、浦原が離す気配を見せないため一護は浦原の手を握り返した。そんな一護に浦原は笑顔で答える。

「行きましょうか」

 お互い手を離さないように人並みを掻き分けて歩いて行く。

 そして、鏡台へと続く階段の途中で新年のカウントダウンが聞こえる。

「5・4」

 浦原がカウントしながら一護の方へ向いた。

「3・2」

 それに続くように一護も一緒にカウントをし始める。

 周りの声は掻き消されてお互いの声しか聞こえない。

「1」

 新年の喜びで周りの騒音は更に大きくなる。

 その合間に、二人はひっそりと唇を交わす。周りに紛れるように。

「あけましておめでとうございます」

 浦原は一護の耳元で優しく囁いた。一護にだけ聞こえるような甘い声で。

「あけましておめでとう」

 一護も浦原と同じように耳元で囁く。

 そして、二人で顔を見合わせて微笑みあった。





 周りは誰も気付かない

 たまには、こんなこともいいだろう





「何、お願いしましょうか?」

 礼の順番がもうすぐ回ってくるというときに浦原は一護に問いかけた。その問いに一護はニッと笑った。

「教えねぇよ。人に教えたら願いは叶わないって言うからな」

「そういうもんスかね〜」

 そうこうしてる間に一護たちの順番になった。浦原は繋いでいた手をするりと離し、賽銭を投げる。一護もそれに続くように賽銭を投げて顔の前で手を合わせる。

(これからも、一護サンが笑ってアタシの側に居てくれますように)

(これからも、浦原が俺の隣で笑っていてくれますように)

 ほぼ同時に願い終わった二人は人が多い、大通りとは別に小さな小道へと入って行った。

 そこは神社の騒音が嘘のように静かだった。一護は大きく伸びをすると、深呼吸をした。

「やっぱり人ごみは疲れましたか?」

「まあな」

 お互い人ごみには慣れていない。だから、今こうして静かな道を二人で歩いていられるのがとても幸せだ。

「それより、意外だな」

「何がっスか?」

「アンタが神様に祈るなんてさ」

 さっきの光景を思い出したのか一護は楽しそうにクスクスと笑っている。

「別に、神様なんてものは信じていないんスけどね」

 先ほど、あそこまで熱心に祈りを捧げていた人のセリフとは思えないくらい、その言葉は冷めていた。浦原の隣で歩いていた一護はちょっと、驚いている。

「じゃあ、なんで祈るの?」

「ちょっと、神様ってものを信じようと思いましてね」





 自分は神に背いてきた

 この子との関係もきっとそうなのであろう



 それでも、この子を見てると信じたくなってしまう





「えらく大事だな」

 おかしそうにケラケラと一護は笑っていた。

「ええ。まず、君と出会えたことを心から神様に感謝してますしね」

 さらりと言った殺し文句。

 その一言に一護はカーッと顔を赤くして俯いてしまった。

「今だって、こうして二人でいるのことを感謝してますよ。感謝してもしたりないくらい」

 そう言って、浦原は隣の一護の手を繋いだ。繋いだ指先から、お互いの体温が伝わってくるかのようにその手だけ暖かい。

「俺だって……アンタと一緒だよ」





 母親の死、何度神を恨んだことか

 彼との関係だって罪悪感がないわけではない



 それでも、彼を見るたびにもう一度信じようと思ってしまう





「あら?てっきり、そういう系は信じるのかと思ってました」

 今度は浦原がおかしそうに笑った。確かに、現代に生きる一護は、毎年新年を迎えれば初詣に行くし、困った時の神頼みをしないこともない

 しかし今は……

「俺、今神様よりも最強なものを持ってるからさ。神様なんていらないんだよ」

 口の端を吊り上げて、一護は浦原に挑発的な笑みを投げかけた。

「神様よりもアタシを選んでくれるんスか?」

 いきなり立ち止まった浦原に引かれるようにして、一護の足も止まる。浦原の声にはどこか悲しさが混じっているような気がした。

「浦原?」

「アタシは神に背いたんスよ?」

 浦原は自嘲気味に笑った。そんな浦原に一護は繋いでない方の手でそっと浦原の頬を撫ぜる。

「いいよ」

 一護は浦原の正面に立つようにして、下からその瞳を覗き込む。

「例え、世界中の人を敵に回しても俺はアンタの味方だからな」

 その言葉を聞き、浦原は一護を掻き抱いた。

 きつく、その存在を確かめるように腕の中に閉じ込めた。

「ありがとうございます」

 耳元でそっと囁いた浦原の声は少し震えているように聞こえたが、一護はただ頷いただけだった。

 そうして、少しの間、二人は抱き締めあったまま動かなかった。

「そろそろ、帰りますか?」

「そうだな、帰ったらテッサイさんのお雑煮が待ってるしな!」

 一護は嬉々とした表情で、出発前に見た料理のことを思い出している。そんな一護を見て、浦原は苦笑を浮かべる。

「それよりも、一護サン。ここどんな神社か知ってますか?」

 また静かな道を手を繋いで歩き始めた時に、浦原は一護に問いかけた。

「どんなって……神社だろ?」

 答えが見付からず、一護は唸りながら考えていた。そんな子供らしい表情の一護も可愛くて、浦原は笑みを浮かべて見守っていた。一護は笑っている浦原に気付いて恨めしそうな視線を送る。

「なんだよ」

 頬が紅潮しているのは黙っておこうと浦原は心の中で呟いた。

「いえ、ここはカップル多かったでしょう?」

「ん?……そういえば、家族連れとかって少なかったかも……」

 今日見た参拝客のほとんどはカップル、もしくは友達同士で来ている若い人ばかりだった。しかし、夜だという点ではあまり不審に思わない一護は更に首を傾げた。

「実は、ここは恋愛成就の神様が祀ってあるところなんスよ」

 知らなかったんですかと問われれば、一護は一気に顔を赤くした。

 はっきり言って一護は知らなかったのだ。普段は地元の神社しか行かないためか、そういうことには縁がないというか、疎いというか、全く気付かなかった。

「いや〜、一護サンからここに来たいって言われたときは本当に嬉しかったですよン」

 からかうように微笑を浮かべる浦原を一護は殴ってやろうかと思ったが、それよりも前に繋いだ手をより強く結ばれる。 「これで、アタシたちの愛も永遠ですね」

そう言われれば、一護はもう真っ赤になって俯くしかない。

 それでは悔しい一護はある言葉を思い出した。それは、いつか浦原に絶対言ってやろうと決めていた言葉だった。それを浦原の耳元でそっと囁く。




「May I love you through all eternity?」



 その言葉に浦原は満面の笑顔で一護の唇に口付けを落として頷いた。











May I love you through all eternity? 訳:私はあなたを永遠に愛してもいいですか?



今年があなたにとって素晴らしい年になりますように……

心よりお祈りしております。



 2006.1.1  満月流留












「FATALIST」の満月流留様から頂きましたv

素敵な年賀小説、ありがとうございました…!

初っ端から格好いいお二人の姿を想像してメロキュンv

動悸息切れに襲われました(笑)

そのあとも手を繋いじゃったりキスしたり、なんと言うかもう、この二人に萌え殺されそうです…!(むしろ本望)

神様云々の会話にも始終ときめきっぱなしでした!

満月様、ありがとうございますv











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