キミトノミライ



「はぁ〜……」
 護廷十二番隊副隊長兼技術開発局副局長の黒崎一護は、執務室の自身の机にへばり付いてため息をついた。
 理由は……
「あんのくそ隊長、どこ行きやがったんだよ」
 十二番隊隊長兼技術開発局局長で、一護の恋人でもある浦原喜助のせいである。
 浦原は、職務がまだ終わっていない(溜まっている)のにも関わらず、一護が少し目を離した隙にどこかに行ってしまったのであった。

 心配をしていないと言ったら嘘になる

 ここには浦原を良く思っていない人物も多々いるのだ
 そんな状況で副官も付けずに歩き回ってる

 それを心配をしないなど有り得ない

「開発局の方にもいないみたいだし……」
 一護は先程から、浦原が行きそうな場所を探し歩いている。
 せめて書置きくらいして欲しいと、ぼやきながらも一護は探し続けている。
 歩き回っているうちに一護は大きな桜の木が目に付いた。
「こんな所に桜なんてあったんだな……」
 そう呟き、木に手を添える。
 桜の季節は終わり、今は青々とした葉が多く茂っている。そんな桜を下から眺めながら一護はもう何度目かわからないため息をついた。

 恋人になったとしても、浦原のことは何も知らない自分がいて、
 恋人になったとしても、何も変わらないで、

 全てを知ることはできないのだろうか?

「あれっ、一護?」
 木に額を押し付けながら沈んでいた一護は、後ろから呼ばれた声に振り返った。
「こんなところで何してるんっすか?」
 そこにいたのは一護が探していた浦原だった。
 浦原は隊長服を翻しながら一護に近付いてきた。
「浦原、隊長……」
「職務の方はいいんですか?」
 微笑みながら近付いてきた浦原に一護は驚いた。しかし、その顔はすぐに鋭くなった。
「一護?」
「こんの、くそ隊長っ!!!!!」
 一護はそう言って浦原に右ストレートを繰り出した。さすがは浦原隊長、驚いていたもののしっかりと受け流していた。
「……一発くらい殴らせろ………」
 低く呟く一護の顔は本気で怒っているようで、浦原は焦った。
「ど、どうしたんすか?いきなり……」
「……」
 それでも一護は何も言わなかった。いや、言えなかった。

 自分よりも強くて、心配することは何もないはずなのに……
 副官を連れて歩かないということは何か用事があったかもしれないのに……

 なぜ、そんな些細なことにも自分は気付かなかったのだろうか……

「本当にどうかしたんっすか?」

 自分には知られたくない大切な用事があったのかもしれない
 自分は知らない恋人との密会だったのかもしれない

 自分は何を自惚れていたんだろう?

 彼の全てが知りたい?  何を思っていたのだろうか……

 彼は自分の上司で、尊敬に値すべき人で、
 自分は彼の部下で、いつ降格させられてもおかしくない者で、

 そんな自分が彼にこんな感情を抱くのは可笑しくて笑ってしまう

 コンナミニクイカンジョウハイラナイ

「……」
 一護は下唇を噛締めた。口腔に広がる鉄の味にも今では笑えてくる。
「……ご無礼をお許し下さい」
 たった一言。一護はやっとそれだけを口にすることができた。
 自身の隊長に手を上げた。それだけでも十二番隊副隊長をクビにされてもおかしくない。
「……いきなり黙ったと思ったら言うことはそれだけですか?」
 ため息をつきながらぼやいた浦原の瞳には明らかに怒気が混ざっていた。それが自分に向けられるものだと一護にはわかった。それでもなお、一護は瞳を逸らさない。
「一護、アタシがそんな言葉を聞きたいとでも思ったんですか?」

 上司と部下の関係を象徴するような言い方は好まない
 だって、この子は部下であるがその前に大切な子だから……

 こんな子供に手を出すなんて馬鹿らしいかもしれない
 でも、馬鹿をするのもいいと始めて思った

 ダレデモナイ、セカイデタッタヒトリノコノコダカラ

「……それでも、俺が隊長に手を上げたことにはかわりませんから」
「そうですね……本来ならそういう輩はすぐにでも排除しますね」
 浦原のその一言に、一護の顔は見る見る悲しみの色に変わっていった。そんな一護を見て浦原はまたため息をついた。
「君はアタシの言葉を信じていないんですか?アタシは君に何度も言ったはずですよ」

『世界で一番一護を愛してますよ』

 その一言で一護の顔はくしゃくしゃに歪んで、浦原に正面から抱き付いた。
「スミマセン、隊長……」
「いえ、もういいんですよ」
 何度も謝る一護の頭を優しく撫でる浦原に、一護は目頭が熱くなるのを感じた。その顔を隠すように一護は更に浦原をきつく抱き締めた。
「それに、あのくらいやってもいいんですよ。何でもアタシの言う通りにしているだけでは副官は務まりませんから」
 浦原はぎゅーっと一護を抱き締めながら言った。その言葉に一護は何度も何度も頷いた。

 彼のことを知る時間はきっとまだたくさんある
 だから、少しずつ進んで行こうと思う

 彼の隣に居るために……

「帰りましょうか、一護」
「はい……」
 満面の笑みで頷いた一護は、微笑んでいる浦原と手を繋いで執務室に戻って行った。


「ところで隊長?」
「はい、何ですか?」
 執務室へ帰ってから職務をこなす浦原に一護は問い掛けた。
「今日は何か大切な用でもあったんですか?」
「へぇ?」
「だって……いきなり居なくなるから………」
 先程まで探していたことを告げる一護に浦原は苦い顔をした。
「えっと、それは〜……」
 今にも泣き出しそうな顔の一護の目の前で嘘などつけるはずもなく、浦原は正直に話し始めた。
「実はですね………」
 浦原は日々の職務に飽き、友人である夜一と地下室で遊んでいたという。
「本当にすみませんでしたっ!!まさか、こんなことになるなんて……」
 謝ってくる浦原に一護は、さっきと反対だなと冷静に見つめていた。そして、笑顔で浦原に言った。
「俺、今日言いましたよね?何が何でもこの書類だけは仕上げて欲しいって」
「うっ……」
 一護はニッコリ笑いながら浦原に言い放った。
「ちなみにこの書類全部終わるまでここから一歩も出しませんから」
「いっ、一護?」
「後もう一つ。俺、今日から自分の部屋で寝ますから」
「えっ、え〜!!!!」
「いいですね、浦原喜助隊長?」
 怒っているにも関わらず笑顔で、しかもあえてフルネームで呼んだ一護は当分の間浦原を許さない気でいる。
「そんな〜……せめて自分の部屋で寝るだけは」
「却下」
 浦原の言葉にもすぐに答えを返してくる一護は相当怒っていた。

 その後、素晴らしいスピードで職務を全て終わらせた浦原は……
「一護ぉ〜、許してくださいよ〜……」
「アタシが悪かったですから〜」
「怒るんなら笑顔じゃなくて思いっきり怒鳴ってくださいよ〜」
 一護の部屋の前で、三日間縋り続けたという……









□満月様コメント
クォーター・クォーター 華糸タスク様リクエスト→『浦原隊長×一護副隊長』

とにかくすみません!!!
書き換え、返還いつでも可です!!!!
書いてたらなぜか書きたくなったんですよ、
笑顔で怒る一護が……
なんか、勝手に自分の趣味に走ってしまいました(泣)
折角こんな素敵なリクを貰って消化できてなくてすみません;;

改めまして、相互リンクありがとうございました♪






□華糸コメント
『FATALIST(旧Rhapsody)』の満月流留様から相互記念としていただきました v
不在の浦原のことを思って悶々としちゃってるのも可愛らしいんですけど、
それに加えて笑顔で怒る一護が最高!
きっと物凄くきれいな顔で笑ってるんでしょうねぇ・・・(笑)
満月様、この度は相互リンク&素敵なお話をありがとうございました v








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