「ねえ、たまには逃げ出してみませんか?」
「…うん」

 二人で世界の果てまで逃げよう。



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「ねえ黒崎サン、ずっとそのままで居てね?」

 素直じゃないアナタがダイスキだから。



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「優しいな、浦原は」

 お前が思っているほどお前は酷い男じゃない。
 優しくて優しくて、涙が出るほど優しい男なんだ。



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 以外と潔いらしいあのオトコは普段はとても懈怠なフリをしている。
 実はとても働き屋なんだということは、俺だけの秘密。
 誰にも言えない、俺の秘密。



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「あーっ!!」
「へっ!?」
「お前、俺のチョコ食ってんじゃねえよ!」
「黒崎サンのだったんっスか? それはスイマセン、アタシ買い直してきますね」
「…いいよ、一緒に食おうぜ」
「…ハイ」

 たまには甘くてもいいだろ?



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「あーっ…」
「な、何だよ?」
「それ、アタシの予備の羽織じゃないスか? それが最後の予備のだったのに…ジャキ
ジャキ裁断バサミで切っちゃってますね…」
「…マジで!? 悪ィ、そこらへんに放りなげてあったからついボロ布かとっ」

 さり気なく本気でへこみました。



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 愛してる?
 好き。
 愛してるって聞いてんだけど。
 好きって言ってるんですけど。

 …ま、どっちでもいっか。



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 もう帰らなくちゃ。
 どこへ?
 どこかへ。
 そこはアタタカイところ?
 ううん、ツメタイところ。
 何故?
 だってお前が居ないところに行くから。



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「遠いっスねえ」
「何が?」
「何かが」
「へえ」
「でも近かったりもするんっスよ」
「…お前の言うことはいつもよくわかんねえよ、浦原」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「心理テストです」
「ハイハイ?」
「目の前の道路のど真ん中にバケツがおかれていました。さて、それをどうしますか?」
「蹴り飛ばします」

 うわあ、躊躇ねえなあ。

「ちなみにそのバケツ、実はおばあさんだったっていう設定なんだけど。お前は道路に
おばあさんが居たら蹴り飛ばすんだな、浦原。すげえ躊躇の無さだったな。いっそ潔い
な」

 …ん? どうした浦原、急におろおろし始めて。



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 うわっ、すげえでかいし…太いし、長いし。これ咥えたら顎外れそうだな。
 まだかたくなってないから咥えたら柔らかいだろうけど、時間たてばぜってェかたく
なるよな。そしたら食えねえかー…。腹減ってねぇんだけどな…。
 え? …太巻きの話だけど?



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「うぁーッ、むかつく!!」

 いきなり両腕で頭を押さえて、うがあっと怒鳴りたてる黒崎サン。

「どうかしました?」
「お前が他の女と話してるの想像した!」
「…可愛いっスねえ」
「あ!? どこがだよ!?」

 今夜は帰しませんよ。



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 かもめかもめ 籠の中の鳥は
 いついつ出らる 夜明けの晩に
 鶴と亀が滑った
 後ろの正面だあれ

「…って歌ってるけどさ、鶴も亀も滑るようなとこ行かねえだろ。普通に生活してても
あんまり滑らねえし」
「……」

 また随分突っ込み上手になったものだ、黒崎サンは。



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 side-jinta



「はい、チェックメイトっスよ」
「あーっ」
「…何してんだ?」

 馬鹿二人組に一応問いかけてみた。

『チェスルールで将棋?』

 ダブルで馬鹿な答えが返ってくるとは思いも寄らなかったぜ。
 なあ、俺この店やめていいよな?



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 いつもどこか遠くを見てる。
 アタシなんてその目に映してもくれない。
 その目はいつでも未来を据えている。
 …たまにはアタシも、少しでいいからそこに据えさせちゃもらえませんかね。



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 好きとは言えない。愛してるとは言えるけど。
 だって最後の一線を口に出してしまったら後には戻れないから。怖くて、さ。
 なんて、俺の自論は臆病なフリ。



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 考える。
 思う。
 口に出す。
 行動に出る。
 それら全ては彼がそうさせる。
 彼がアタシの動力源。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 俺はどうやらあいつにべた惚れなようだ。
 認めたくないけど。

 朝起きて最初に思うのは浦原のこと。「あいつまだ寝てんだろうなあ。寝汚い奴だか
らな」。
 学校へ行って最初に思うのも浦原のこと。「あいつそろそろ起きたかな?」。
 授業中に思うのも浦原のこと。「あいつ今何してんだろう」。
 帰りに浦原商店へ寄って、そこで思うのは。

「お前しかいねえだろ」
「ハ?」

 俺は一日中浦原のことしか考えていないらしいから。



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 カラオケに来ている。
 啓吾がマイクを取って、やはり先陣を切って歌いだした。

「傷つけてあげる大丈夫痕なんて残らないように上手く」

 あ、やばい今浦原のこと思いだした。



(song by PORNO GRAFFITTI − ジレンマ)

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 カラオケに来ている。
 二番手は水色。

「この咽が枯れるくらいに君を好きと言えばよかった」

 あ、まずい浦原に会いたくなってきた。



(song by SASKE − 青いベンチ)

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「告白大会!! イェーイ! 一番は石田だぁっ」
「…僕は居ないよ、そういう人は」
「ぬわにィ!? おいっ、枯れてるぞ青少年!」
「うるさいな」
「次一護でしょ…あれ、一護居ないよ? 啓吾」
「ああッ、逃げられたあ!」

 冗談じゃない、一番に思い浮かんだのがあの胡散臭い男だなんて。



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 過去を知りたいなんて思わない。
 そんな、浦原の全てを知りたがるようなこと、しない。そんなこと聞いたってどうし
ようもないから。
 俺が知りたいのは、俺と出会ってからあんたがどう変わったのかってことだよ、浦原。



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「一護サン」

 唐突に名前を呼ばれる。
 はじけるように振り返ると、目の前に柔らかい笑みを浮べた男が。

「大好きですよ」

 ああもう。

「俺もだよ」



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 目の前の日に焼けていない首を掴んだ。
 少し力を入れてみる。
 すぐに手を離した。

 …俺がもっと力を入れていなくても、既にそれは動かないから意味はないけれど。




「くーろさきサンッ、ただいまー!」

 やつの尸魂界永久追放がとけたらしく、それを向こう(尸魂界)へ確認しに行くため
に義骸を抜けていた浦原。死覇装に白い羽織を着て、戻ってきた。
 ちぇっ、戻ってこなければ何を言われずもっと眺めてられたのに。
 まあでも、死覇装姿の浦原もかっこいいから別にいいか。



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 そっと親指で触れてみた唇は、適度な柔らかさと薄桃色で綺麗に構成されていた。
 少し荒れてかさかさしているけれど、それすら心地よい手触り。

「…何やってんだ」
「黒崎サンの唇を触覚で奪ってました」
「はは、何なんだあんた」



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「愛って欲望なんだよな?」
「またこの子は難しいこと言い出した」

 溜息つくなよ、俺が馬鹿なこと言ってるみてぇじゃねえか。



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 どうやら黒崎サンの気が立っているらしい。傍目に見てもわかるほどいらいらしてい
る。
 まあまあとなだめていたら。

「…浦原、お前、ヨーグルトにワカメと酢入れて食え。今すぐ」

 ええっ、何の罰ゲームっスか!?
 いくら怒ってるからって変な八つ当たりの仕方しないでください…!

 ……意外と美味しかったけど。



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「なあ浦原」
「ハイ?」
「俺、お前のこと大嫌い」
「アタシもっスよ」
「…〜っ!!」
「えっ、な、泣かないでくださいよー…よしよし…。(…ていうか、黒崎サンが言うか
らアタシも言っただけなのに…)」

 四月一日、去年のエイプリルフールの話。



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 カラオケ大会を開いている。
 ジン太とウルルがマイクの取り合いで大騒ぎ。
 偶然店にカラオケ機器があったから、店を休業にしてまでのどんちゃん騒ぎ。従業員
とアタシだけで。
 ぼーっと騒ぎながらの歌を聞きながら歌の本(カラオケの部屋にあるあの分厚い本)
をぱらぱらめくっていると。

「ジョンが見つけたシンプルなことそれは愛とは愛されたいと願うこと」

 …なんて歌詞を見つけてしまった。
 あ、何か今黒崎サン思い出しちゃった。会いたいなー…。



(song by PORNOG RAFFITTI − Century Lovers)

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 カラオケ大会を開いている。
 黒崎サンのことを考えながら再び分厚い本をぱらぱらめくっていると。

「…こんちはー…」

 黒崎サンッ!? なんて偶然、会いたかったんスよ!

「くーろーさーきーサーン」

 語尾に思わずハートマークがついてしまって困ったけれど、まいっか、と店先に黒崎
サンをお出迎えに行った。



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 果てしない距離感。
 手が届かない。
 ああ、何て切ない。
 ああ、切なさで身が灼かれてゆく。



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 綺麗すぎて手が出せない。
 ただ見ているだけで十分すぎるほどの輝き。
 でも見ているだけじゃ欲望が留まらないから、出せない手を出す。
 光を背に浴びて、太陽の如く笑う彼がアタシの手をとった。



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「あんたって死神?」
「…元がつきますね。まあ…死覇装を着れば今でも現役ですけど」
「じゃあ、人間?」
「…人間ではないです」
「ふうん、どっちつかずなのな」
「ええ」
「ま、あんたさえいりゃ、そんなの別にどうでもいいことなんだけど」



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 未成年の子供に手を出している。
 立派な犯罪。
 青少年教育育成法にひっかかる。

「…っはっ、あっ…」

 …でもこんな色っぽい声出されたら、そんなのどうでもいいよね。
 法律なんてどうにでもなる。



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 呆と暖かな陽が指す庭を見ていた。
 立派な桜が咲き乱れている。
 ああ、あの子はこの桜より綺麗に乱れる、と思い出して、真昼間からの自分の腐りきっ
た思考に幸せな溜息をついた。



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 和菓子−桜餅−

「俺、桜餅って葉っぱまで食わねえな」
「アタシは食べたり食べなかったりしますね。気分で」
「何か、モンスターファームのモッチー食ってる気分になってちょっと可哀想にならね
え?」
「…」
「あのさ、頼むから『また変なこと言い出した』みたいな目で見るのやめてくれるか?」

 そりゃ無理ってものです。



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 黒崎サンがうとうとしてる。というか、ほとんど眠りの縁に連れていかれてる。珍し
い。

「…布団で寝ないと風邪引きますよ」

 小さく揺すっても不明瞭な言葉をもらすだけ。
 ……耳元で囁いてみた。

「あと五秒で起きないと襲いますよ」
「んっ…」

 いやいやと小さく首を振るも起きない。
 カウントダウンスタート。
 五、四、三、ニ…

「うら…は…ら…」

 あまり強くはない力で羽織を掴まれた。
 ………毒気を抜かれてカウントダウンストップ。今回はあなたの可愛さに免じて、ア
タシの腕の中で勘弁してあげます。
 羽織を握ったままの黒崎サンを起こさないように抱き上げて、膝の上にのせた。



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 和菓子−羊羹−

「羊羹って高級な甘さだよな」
「そスかね?」
「ていうか、和菓子全体が高級っぽい甘さじゃね? ほら、チョコとかも甘いけどさ、
甘さの種類が違うっていうか」
「ああ、なるほど」
「俺はどっちの甘さも好きだけどさ、お前はどっちの甘さが好き?」
「アタシも黒崎サンと同じで、両方好きっスよ」
「そうか」

 ちょっとした共感がくすぐったい最近。



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 洋菓子−ケーキ−

「ケーキの定番といえば?」
「…一般的にはショートケーキっスか?」
「だよな? まあ人それぞれ違うと思うけど」
「チーズケーキって答える人もいればショコラって答える人も居るでしょうしね」
「お前は?」
「アタシは抹茶モンブランっスね」
「何それ。美味いの?」
「結構いけますよ」
「ふーん…」

 今度浦原に買ってきてやろうと思った。



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 眩しいほどの色の髪の毛。
 手を伸ばす。
 触れる。
 柔らかい。
 なでる。
 ふわふわ。
 気持ちよくてずっとなでていたら、目の前の子供はうつらうつら、眠りの向こう側へ
旅立とうとしていた。



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 月の色に似た髪。
 手を伸ばす。
 触れる。
 少し堅いけど、でも十分柔らかい。
 猫っ気な癖の髪の毛先を指で弄んだ。
 楽しくてずっと遊んでいたら、目の前の大人に笑われた。俺が笑われたのに、つられ
て何となく笑ってしまった。



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「お前、落とし穴みてえなのな」
「ハ?」

 落ちたら出られない深みがある、とんでもない落とし穴。
 もうこの穴から出ることはできない。



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「結構綺麗な腹筋してますよね」
「…そうか?」
「ええ。極度に割れもせず、かといって全然割れてないわけでもない。薄っすら割れて
る綺麗な腹筋」
「変態みたいなこと言うな」
「アタシは黒崎サンフェチだから」
「何でそこと腹筋がつながるんだよ」
「それは秘密です」



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 小さな液晶画面を見る。
 いつも通りの携帯の待ち受け画面。
 待っても待っても、あいつ限定の着メロは鳴らない。
 ……まだ鳴らない。
 ……まだ鳴らない。
 途端、肌を刺すような冷気が頬をなでた。暖房で暖かい部屋にはあり得ない風。
 出所であろう窓を振り向いて見ると。
 
「…こんばんわ」

 …違うところから。

「お帰り、浦原」
「ただいま、黒崎サン」

 携帯なんかより、やっぱり直がいいよな。
 …俺って現金か?



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「お前、下駄脱いでも俺より背ェ高ェのな」

 じゃあ俺がこいつの下駄を履けば、同じくらいの身長になるかな?



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 酒を飲まされた。
 …ちょっと苦いけど普通に美味い。
 促されるまま何杯も飲まされていると、徐々に浦原が慌て始める。

「黒崎サンッ、それ、アルコール度数四九パーセントの酒っスよ!?」
「は? …それ、何かスゴイのか?」
「スゴイどころかとんでもないザルですよ、黒崎サン…」

 そうしてそのまま手の中にあったコップをひったくられた。
 まだまだ全然いけるけど…まあ酒だからな、あんまり飲みすぎると体に悪いし。



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 変わらないものなんてない。
 変わらないものなんてない。
 あるはずがない。
 けれどもそれは切ないほどの衝動。
 変わらないものなんて…
 ………。

 …あるかも。



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「幻想とじゃれあって時に傷つくのをあなたは無駄だと笑いますか」
「笑わない」
「…歌に真剣に答えられてもねえ…」



(song by PORNO GRAFFITTI − Mugen)

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「浦原ー」
「俺との子供、ほしいか? もし俺が子供を産めたとして」
「…いりません」
「何で?」
「だって子供が居たらあなたとの時間が減るじゃないですか」
「…そうだな」



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 スキトキメキトキスは恋の呪文。
 誰かがそんなことを言っていて、そんな乙女チックな、と思っていたけれど。

「浦原浦原」
「ハイ?」

 チュッ

 振り向き様バードキスをされた。
 …乙女チックでもいいかもしれない。



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 涼しげな目元だとか。
 男らしい指先だとか。
 不思議な金色をした髪の毛だとか。
 無駄のない筋肉のついた肢体だとか。
 実はかなり高かったりする背だとか。
 戦いの時だけ見せる殺気立った目だとか。
 部位の一つ一つが好きでたまらない。
 大好き、浦原。



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 男の子にしては少し大きめの瞳とか。
 まだ完成しきってない指先だとか。
 結構誰も気づかないけど、本当はかなり長い足とか。
 眩いほどの太陽色をした柔らかな髪の毛だとか。
 成長期途中の危うい肢体だとか。
 戦いの時だけ見せる、獣本能の闘争心だとか。
 部位の一つ一つが好きでたまらない。
 大好きです、黒崎サン。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 男の子のくせに、存外、綺麗な爪をしている。
 つやつやのぴかぴか。触るとつるつるしていて気持ち良い。
 桜色の爪。形も綺麗に整っていて、そこらへんの女子高生みたいにむやみやたらに伸
ばさず、綺麗に切っているからこその形。
 …まるで桜貝みたい。



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「ルビーとサファイアだったらどっちが好きっスか?」
「あー…サファイアかな」
「エメラルドは?」
「ルビーとサファイアとほとんど一緒じゃん」
「じゃあダイアモンドとパールだったら?」
「…今んところパール」
「では金と銀だったら?」
「銀」
「クリスタルは?」
「あんま好きじゃねえかな」
「初期だったらどれスかー?」
「ピカチュウは論外。やっぱ緑か赤かなー。青は後から出たから微妙」
「なるほど」

 ポケモン(ゲーム)の話。
 黒崎サンは意外と昔懐かしのゲームを愛するらしい。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「はははっ!!」

 狂ったように笑い続ける彼。
 腕は真っ赤に染まっていて、その手には大振りの刃物が握られている。
 ぽたりぽたりと畳に落ちては吸い込まれていく鮮血は、悦楽を呼び覚ます狂った血の
色だった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「所詮世の中なんてこんなもんですよ」
「わかってる」
「わかってませんね。あなたはわかってるつもりだっただけだ」
「そうかもしれない。でも俺がわかってるつもりかどうかがお前にわかるかっていった
らそうじゃない。人の心なんて本人以外はわからねえから。たとえお前が幾世もの時を
重ねて幾人もの人間を見てきた奴であっても」
「…齢十五の少年に悟されるとはね」

 帽子に手をやり、目深に被りなおした。
 …ここから、またスタートすればいいのではないだろうかと思った。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「なー、吐いてみてくんね?」
「何をっスか?」
「血を」
「…頭大丈夫ですか」
「だって浮竹さんが吐いてたからさ…聞いてみたら『病気じゃない。浦原もできる』っ
て」
「……」

 奴が現世にきたとき本気で刺し殺してやろうと思いました。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「…九十九、…百っ」

 状態を起こして、詰めていた息を吐いた。
 手を後ろについて、少し汗っぽくなったシャツを脱ぎ捨てる。

「…いつもの運動ご苦労様です」
「あ? まあいつものことだからな」
「継続は力なりってね」

 含み笑いで言われても気持ち悪いだけなんだけど。



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 扉の向こうへ



「…最近浦原さん、スタジオに来てねえな」
「出番もねえからなあ」

 先ほどまでスタジオで共同戦線を張っていた恋次が答えた。
 切り裂かれた(演技をした)腹にべっとりついている血のりを手でぬぐって、床にか
なぐり捨てた。
 べちゃりと音を立てて床に付着したそれらで足を汚さないように気をつけながらスタ
ジオを出る。
 向かう先はシャワールーム。
 浦原さんのことは気にかかるが、とりあえずこの惨状をどうにかしなければならない。
 体中血のりまみれ。エライことになってしまっている。



(Next To 扉の向こうへ2)

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 扉の向こうへ2



 すっかり見慣れた暗く重い夜空を見上げる。
 ジャケットのポケットに手を突っ込んで、詰めていた息を吐き出す。それはすぐに水
蒸気の塊として、目に見える白い色になってから大気に溶け込んでいった。

「…もう冬か」

 撮影を始めて既に一年半が経とうとしている。
 最後に浦原さんに会ったのはニ、三ヶ月前だったなと思い出して、何だか余計に悲し
くなってしまった。
 浦原さんは元からかなり忙しい人で、尸魂界からの納入品を受け取りにいったり帳簿
をつけたりお客さんと話をしたりと、作中とは恐ろしくかけはなれた生活をしている。
 まあ、面倒くさがりなのは確かだけど。



(Next To 扉の向こうへ3)

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 扉の向こうへ3



「…おや」

 いつも無機質なブラウン管越しに見ている鮮やかな髪色の彼を街中で見かけた。
 毎度の疲労でかなり疲れているらしく、覚束ない足取りで家への帰路へとついている
ようだった。
 時折かけられる女の子の黄色い声援にも答えているようだ。ただ端から見る限りでは
かなり弱弱しい応答のようだが。
 そうこうして彼を眺めているうちに、人の波に飲まれて彼を見失いそうになった。
 慌てて早足で彼との距離をつめるが、彼はこちらの存在には気づいていないようだっ
た。

「黒崎サン」

 口をついて名前が出た。



(Next To 扉の向こうへ4)

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 扉の向こうへ4



 幻聴が聞こえた気がした。
 恐らく空耳だろう、浦原さんの声が聞こえて、あまつさえ自分の名を呼んでいたなん
て。

「…ンッ、く…さきサ…」

 ああもう幻聴なんて聞こえても虚しいだけなんだよ、と思いつつも、声のするほうを
向いてしまう。

 そこには。

「…黒崎サンッ」

 ……月色。
 幻聴じゃ、なかった。



(Next To 扉の向こうへ5)

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 扉の向こうへ5



「…う、ら、はら…さん…」

 何で、こんなところに。
 人ごみを縫うようにして、人の波をするすると避けるように軽く身をかわしてこちら
へやってくる。

「声かけても一向に気づいてくれないんですもん、焦っちゃいましたよ」

 ふうと息をつきながらこともなげにスーツの袖なんかをぱたぱたはたいている浦原さ
ん。
 俺は驚きに目を見開きながら、目の前の状況を考えていた。
 どうして浦原さんがこんなところに居るのだろう。ここは彼が居城としている家の近
くではないのに。



(Next To 扉の向こうへ6(未完成))

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双間暁様のサイト「A定食」の一万HIT記念フリーものを頂いてまいりましたv

コネタsss集・・・どれも素敵です!(うっとり)

双間様、この度は一万HITおめでとうございます!

心よりお祝い申し上げます!












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