ねがいごとひとつ







願い事一つ、もし叶うなら。

『この子の未来に幸多からんことを。』

・・・なーんて。そんなモン神頼みするようなことじゃないでしょ。
子どもの幸せは親が作る!
ンなワケのわからん不思議物体に愛し子を任せられるものか。

「つーことで神様。俺の願いは“生きたい”だから。」

こんなところでおちおち死んでなんかいられない。
可愛い可愛い我が子のため。
お父さんは神様だって従えちゃいます。

「ヨロシクね?」

パパになった火影様をなめないで。
神様の一柱や二柱、問答無用で頭を縦に振らせましょう。










「火影様!」
「四代目っ!」
「四代目様!」
「先生っ!」

「折角復活したんだから一番最初に見るのは俺の可愛い子どもが良かったよ。」

目覚めれば白い天井。
そして視界の端にびしぃっと人だかり。
メンツを見ればこれでも随分と制限してんだろーなぁと思えなくもないが、正直言ってガッカリだ。
ジジイとかオッサンとか、なんでそんなムサいのばっかり見なきゃいけないの。
俺と奥さんどちらにもそっくりな愛しい息子が見たいんですよ、俺は。

「先生、全部口に出てますよ。・・・まぁそれだけ言えるなら大丈夫だと思いますけど。あと俺はジジイでもオッサンでもないですから。ピチピチの十四歳です。」
「ピチピチってのは俺のナルくん見てから言ってよ。お前は新鮮さが足りない。

銀髪の教え子にそう返してさらに鼻で笑ってやる。
なにか紐が切れるような音がしたけど気にしない。
そんなことどうでもいいんだよ。
さっさとgive me my son.

「ホラホラ、狐もちゃんと封印したしー。俺の可愛い息子に会わせてよ。じゃないと俺が暴れるよ?
「火影様っ!?」
「ど阿呆。」
「ぐおっ!」

パシッて言うよりバコンッて感じに頭を叩かれ視界がぶれる。
くそぅ。狐を封印したときにこの狸ジジイも一緒に殺っとくべきだったか。

俺を叩いた格好そのままにジト目で睨みつけてくる先代火影。
愛しい愛しい我が子とは正反対のしわくちゃ水分不足な肌で覆われた顔がベッドの上の俺を見下ろしている。
いやあ、もうねぇ?やめてくれって言ってもいいかな。

「何をぶつぶつ言っておる。おぬしの働きは火影として実に素晴らしいものじゃったが、それを終えた後にこうも愚かさを晒すなど・・・もっと自覚を持て。」
「やだなぁ、三代目。俺は火影である前に一人の子供の親なんですけど?それに今回の事だって・・・」

目を閉じて暗闇の中に思い描くのは、己の色を引き継いで生まれて来てくれた愛しい我が子。
記憶の中、金の髪と――生まれたての無垢さゆえだろう――俺よりももっと澄んだ空色の瞳が血と炎で染まった闇夜に輝いていた。

再び目を開けて視界に映った人影に、俺は微笑む。

「俺は火影としてではなく、あの子の未来を守りたかったから限界以上の力が出せたんです。」
「四代目、」
「俺はあなたのようにこの里全てを自分の家族だとは思えない。守り慈しまなくてはいけない対象だとは感じていますけど、それでも命がけで守るには値しない、とね。俺個人の正直な気持ちはそんな、火影には相応しくないものです。まあだからって、四代目を辞めるつもりなんてありませんけどね。」

面倒な義務を差し引いても権力は必要だってこと。
それにたぶん、俺以外にこの世代で火影を全う出来る忍はいないだろう。
奢りでも何でもなく、ただ事実として。
この里を守ることが出来る実力と上手く回していく手腕、それからカリスマと称されるものを併せ持った人間なんてそうそう生まれないのだから。
結局、我が子に住み良い環境を提供するためにも俺が全てを整えなくては、と思うわけだ。

「あ。俺が言ったこと、他の人にはバラさないでくださいよ。と言うかむしろ、あなたがたにも今の台詞は聞かなかったことにして欲しいかも・・・。ま、所詮入院患者の戯言ってことで。」
「おぬしは・・・」

はぁ、と落とされたのは溜息。
三代目火影は頭に手をあててやれやれと首を振っているし、その傍らで教え子は苦笑を浮かべている。
他の者達もその二人のどちらかと同じような様子。

平和だねぇ。
そして、この平和を俺は守ることが出来た。
愛しい我が子がこれから育っていくための世界を。










―――二年後。

九尾の狐が封印された日であり、それより何より俺の愛しい子供が生まれた日。
俺の血を見事に引き継いでくれた我が子は本日ようやく二歳になるというのに、もう既に木の葉の忍として忍術やら体術やらを身につけ始めていた。
将来は父様のように立派な忍になる、と拙い言葉遣いで空色の目をキラキラさせながら語ってくれたのも、もう何度目になるやら。
本当に可愛い可愛い我が子。
目に入れても痛くないってのは、うちのナルくんのことを言うに違いない。
白い肌の上で赤く染まったまろい頬や月の色と太陽の匂いを持つ髪のやわらかさにパパはいつでも癒されているよ。

そんな大事でしょうがない我が子の誕生日。
しかしこの日は里が災厄から救われた日でもあるわけで、現火影でありその災厄を退けた本人でもある俺はそのための式典に出席しなくてはならない。
あの狸ジジイ・・・っと失礼。三代目火影からも直々に出席するよう言われてるし、ここで式典をサボるなど四代目火影としては絶対にやってはいけないことだ。

その式典は朝から夜までかなりの長時間に渡る。
つまり俺は一日中四代目火影として存在していなくてはならないわけで、俺の大事な、大事な!ナルくんのお誕生日を祝えないわけですよちょっとおいコラまてや里の住民どもぉぉぉおおおおお!!!!
折角のナルくんの誕生日だよ!?
俺の愛しい我が子の二歳の誕生日なんだってば!
なのに父親であるはずの俺は誕生日を祝えない!
一緒にケーキも食べられないし、ハッピーバースデーの歌も歌ってあげられない!

昨年はまだナルくん本人もおネムさんで誕生日を祝うとかそういったことはナルくん本人にとってどうでもいいことだから良かったんだけどね。
今回は違う。
ナルくんはカレンダーの十月十日にしっかり赤い丸印が付いているのを見つめて一ヶ月以上前からその日を楽しみにしてきたんだよ。
なのにこの状況。
俺がナルくんの誕生日を祝ってあげられないと知った三日前のナルくんの反応は・・・ああもう涙出てきた。

「ナルくん、機嫌直して?ナルくんの欲しいもの、何でも買ってあげるから。」

式典出席直前、最後のチャンスだと言わんばかりに必死に我が子の機嫌を取ろうとする俺。
情けない?上等だね。我が子のためならパパは格好良くも情け無くもなれるってもんだ。
本当なら今すぐ式典のことなんか放り出してナルくんのお誕生日会を開きたいよ。
でも火の国どころか他国のお偉方まで出席するこの式をサボタージュするなんて、木の葉の里を――俺的にもっと適切な言い方をするならナルくんの生育環境を――壊してしまうことに他ならない。
だからこうして悔し涙を飲みながら、それでもナルくんに声を掛けるわけだけど。

「ナルくーん。」
「やっ!とうさまなんかだいきらい!!」

そっぽを向き、大きな瞳に涙を溜めて唇を噛み閉める我が子。
駄目だ。
俺死ねる。ナルくんのこの一言で俺一個師団くらいは全滅した。
死の淵から甦った俺も流石にこれには敵わない。









願い事一つ、もし叶うなら。

「ナルくん・・・パパのほう向いてよぅ。」

息子を振り向かせて下さい。
いやもうホントまじで。








え?これで願い事は二つ目だって?
いつから俺に口答え出来るようになったの、神様。いいからさっさと叶えろや。