「君達は不幸なのかな?」
「いきなり何だルシル。俺は今忙しいんだぞ。」 机から顔も上げぬままシオンは言葉を返した。 珍しく姿を見せたルシルは、そんな王の様子に特に気分を害した風でもなく、表面だけの微笑を浮かべている。 ここ最近は久しぶりにローランドに帰って来た友人達も同室で働いていて――働いていた“友人”本人ならば「働いてたっつーより脅しつきで働かされてたんだよ!」と睡眠不足のまま怒鳴ってくれそうだが――、そのため随分賑やかなものだった。 しかし現在は友人達も家なり宿なりに戻り、思い思いの時を過ごしているので、この部屋には本来の主であるシオンとその護衛のルシルしかいない。 ルシルが自分から存在を示すなど滅多に無いことだから、当然、シオンがペンを動かし紙を捲る程度しか音が生まれないのである。 だがルシルに短く答えた後、しばらくしてシオンはその音すら止めた。 そして未だ姿を消さない剣の一族に視線を向ける。 「それで、今度は何の謎々だって?」 普段無駄なことは言わない者が久しぶりに問いかけ、そして答えが返ってくるのを待っている。 それはつまり此方が答えなければならない問いなのだろうと判断して、シオンは一度向けた視線を護衛者から外すことは無かった。 ルシルはそんな王に笑みを濃くして一言。 「君達は不幸なのかな?」 先刻と同じ台詞を同じ調子で言った。 シオンの双眸が訝しげに細められる。 質問の意図を量りかねているためだ。 まず「君達」とは誰のことだ? 問いかけられている自分は含まれるとして、「達」なのだから他に最低でも一人はいるはず。 それに「不幸」とは? 何を指して不幸とするのか。契約についてならばルシルは問いかけなどしないだろう。彼はそれを不幸というカテゴリに含めない。 最後に、不幸ならば何だと言うのだ。 言ったところでルシルは何もしないし、何も感じないのではないか。 しかしそんなシオンを裏切って、というより本人すら思いつくのに時間が掛かる答えを最初から知っていたかのようにルシルは穏やかに告げた。 「王でなければ君は彼を縛れない。王であるが故に君は彼を傷つける。」 「ッ、それは・・・!」 誰を示しているのか解ってシオンは息を呑む。 「彼は化物だからこそ君に出会えた。彼は化物であるが故に誰の傍にもいられない。」 「やめろ!それ以上言うな!!」 シオンは叫ぶが、ルシルの言葉は止まらない。 「彼は、君の傍にはいられない。君に全てを押し付けられて永遠の闇と悪夢に囚われる。」 「やめっ、」 「君は可哀想な王、可哀想な歯車。そして彼は可哀想な化物。全ての犠牲者。」 「やめ、ろ・・・」 「やめろ?可笑しなことを言うね。何もかも、君が望んだことだろう?」 薄らと目を開けて、ルシルは顔を手で覆って表情を隠す王を見た。 そこにいたのは英雄王なんてものではなく、ただの未熟な子供。 全てを手に入れる代わりに何もかもを失うことを運命付けられた、しかしある意味それを自ら選択した子供が絶望に打ちのめされていた。 だがそれでもルシルは笑う。 だからこそ、笑う。 「君はまだ、この国の王だ。」 「・・・・・・ああ、そうだな。」 伏せられた顔からくぐもった声。 けれどそれは諦めを含んだ落ち着きのある声で、ルシルはまた少しシオンの中の“王”が強くなったことを確信した。 「そう。君は王だ。この国の王なんだよ、シオン・アスタール。」 「わかっている。俺は、この国の王だ。」 シオンが顔を上げる。 そうして一度だけ、その皮膚の下で金色の闇が脈打った。 優しい夢はもう見ない 電波です。(いきなり何を言うか) 原作の単語をよく調べもしないまま突然受信した電波のみで書き上げました・・・! きっと此処のシオライは清いままですよ。ぷらとにっく。 友情が行き過ぎた感じでお願いします(笑) シリアスなのにコメントが碌でもない。 ・・・と言うことで、少しばかり真面目な(?)ことも。 此処のルシルはライナを「可哀想」と称してますが、実際はそんなこと微塵も思ってません。 シオンを追い詰めるために言ってるだけ。 |