ああ。
自覚してやるよクソッタレ。







君の為に僕は生きよう〜思い、想い、オモイ〜







彼を傍に置くようになって認識させられた事が二つある。
一つは、彼が随分と(いや、むしろ物凄く)面倒くさがり屋だということだ。
王の執務しごとを手伝ってもらおうとすれば、彼曰く。

「それは王様の仕事だろ?そして俺は王様じゃない。つーことでガンバッテくれ、シオン。」

だそうだ。
ニコリと微笑まれ、それを了としてしまった俺も俺だが、今はそれについて何も言わないで欲しい。
とにかく、仕事を頼めば面倒だとキッパリ拒否され、こっちが仕事をやり終えて眠りにつこうとベッドを見ればそこに陣取る細身の体躯。
疲れた体を引きずってたどり着いた先がそんな様子だったから、そして彼があまりにも人間そっくりだったから、ついつい俺は半眼のまま彼に問うてしまった。

「ライナ、お前は俺の何だ?」

熟睡していたはずなのにその声ですくっと起き上がる影。
茶色がかった黒髪の頭を掻く手は細い銀環をつけた腕に繋がり、その身を包む衣は緑を基調としたもの。
一応、この国の魔法騎士団のみが着用を許されているローブ(だからといってそれを着ている彼がその団に属しているわけではないが)をしわくちゃにして、彼―――ライナ・リュートは朱の五方星が刻まれた瞳に俺を映した。
そして―――

「俺はこの国の王に従う兵器だ。」

その声には当然だろうと言う色を乗せて。

嗚呼・・・そう。そうだった。
俺は忘れていた・・・否、考えようとしていなかったのだ。

俺が認識させられたもう一つのこと。
それはライナが『兵器』であるということ。
常に国のトップを護衛し、そして必要とあらば術者何百人分もの大規模魔法すらたった一人で放ってしまう戦略的兵器となる彼。
俺の傍にいるのも、俺がこの国の王だから。
王を守るため、ひいてはこのローランドを守るためにライナは存在する。

ライナの台詞に俺は二の句を告ぐことが出来なかった。
いつもと同じ眠たげな瞳で。
いつもと同じ気の抜けた表情で。
―――自分は兵器だ。
その『事実』を平然と口にする彼に、俺は、何も。
ただ、ひどく心臓の辺りが痛かったことは覚えている。

俺は小さく「そうか。」と告げ、訝しむような表情を見せたライナに不器用な笑いを返すしかなかった。
表情を変えただけで他には何も言わなかった彼に感謝すべきなのだろうか。
それとも、どうせライナのことだ。何も言わずにいたのはさっさと眠りに落ちたかったからで、ゆえに俺が気にすることなど何もないのかも知れない。
どちらであっても、その時の俺にとってはライナから何も言われなかったという事実が最も重要だということに違いはない。

とにかく、この辺りで回想は終了させて。

護衛と称しすぐ傍のソファで気持ち良さそうに眠っている彼を視界に入れ、俺は溜息をついた。
王が使うにはあまりにも質素過ぎたこの部屋に何とも言えない違和感を生み出す上質なソファは彼が望んだからこそ設置されたものだ。
そう、彼が望んだからこそ。
兵器でしかない彼が望み、俺がそれを叶えたいと思ったからこそなのだ。
ライナ・リュートは兵器なのに。
この国の王に従うべき、そして従わざるを得ない存在であるはずなのに。

・・・これでは、まるで。

穏やかな寝顔を見つめる。
健康そうな色の肌に茶色がかった黒髪が少しかかり、閉じられた瞼から伸びる睫毛は長い。
いつも眠そうな表情をしている所為で判り難いが、彼は十二分に鑑賞に耐え得る顔をしていると言えるだろう。
これも所詮は作られたものなのだが。
でも、そうとわかっていても。
半開きになった口が思い掛けない幼さを感じさせて嬉しかった。
穏やかに上下する胸を見て何か温かいものを感じた。
今すぐ格闘中の書類を脇に追いやって近くに行きたいと思った。
それだけじゃない。
目を開き、その五方星を俺に見せて欲しかった。
ダルそうな声を聞き、その肌に触れたかった。


ああ、そうだ。はっきり言おう。
俺はライナと初めて会ったその日から、彼に惹かれているのだ。
ずっとずっと、今この時も。
俺は兵器を愛してる。








二年以上のブランクを開けて更新。何やってんの自分・・・
ええと。今回はシオンに自覚して頂きました。
これまでは憧れとか(綺麗な)物に対する感動とかそういったものを中心にしてライナを見てましたので。
(↑ライナと出会ったのはシオンが小さな時ですから。)
大きくなったシオンにとって今のライナは、みたいな。
青春してもらわないと(オイ)

(07.05.13初up)