俺が幼い頃の話をしよう。
10年ちかく昔に始まった片思いの話だ。







君の為に僕は生きよう〜一方的な出会い〜







俺はここローランド帝国国王の10番目の子供として生を受けた。
母は貴族ではなく平民の出で、そのために俺は貴族の母親を持つ兄や姉達から幾度となく差別を受けてきた。
当時の俺にとってそれはとてつもない苦痛だった。そして見返してやる・・・と、何度も何度も心に誓った。

そんな俺に、ある日転機が訪れた。
国王である父がどこからか俺が魔法と科学の研究に興味があるということを耳にして、ローランド中央研究所の出入りを許可してくれたのだ。
さすがに国王が出した許可に異論を唱えられるはずもなく、兄弟達は何もしてこなかった。
それでも何か裏から手を回しているのでは・・・と警戒しつつも研究所を見回っていたが、その時ついに俺は彼と出会ったのだ。

この頃からすでに魔法を組み込んだ生物兵器の研究・開発が進められており、中でも人型の兵器、特に眼球に特別な技術が加えられているもの――これは通称≪眼≫と呼ばれている――がこの研究所で中核をなしていた。
俺が出会ったのはその≪眼≫の一つ、黒い髪を持った青年だった。

話によると彼は黒目で、その両目には朱の五方星が浮かび上がるはずなのだという。
“はず”というのは、彼がその目を開くこと=完成であり、現在はまだその段階には至っていないからだ。
18・19歳ぐらいに見える彼は、時期が来るまでガラスケースの中でコードに繋がれてまどろんでいなければならないらしい。

瞳をまぶたの奥に隠したまま液体の中にたたずむ姿を見て、ただ漠然と俺はそれをきれいだと思った。
俺には無い色を持った青年を。
そして幼い俺の心は理由も思いつかぬまま、ただただその瞳を見たいと思った。
その黒に俺を映して欲しいと思った。
その声で俺の名を呼んで欲しいと思った。
そして、俺の声でその耳に彼の名を届けたいと思った。

ところが彼には名前がなかった。
ただ、識別のために用意された番号だけを持っていた。
だから俺がその名前をつけようと思った。
彼にふさわしい名を。
彼が彼であるという証となるものを。



「彼を好きに呼んでもかまわないかい?」
「彼・・・?α-013のことでしょうか?
それならかまいませんよ。どうぞシオン様のお好きなように。」

彼を見つめたままその返答を聞く。

「そうか。それじゃあ今日から君は“ライナ”だ。ライナ・リュート。
僕はシオン・アスタール。君が目覚めたらもう一度自己紹介をしよう。
ライナ・・・だから一日でも早く目覚めてくれないかい?待ってるから。ずっとね。」

そう言って、ガラスケースから離れた。

「シオン様、この後はどうなさいます?」

研究所の職員が俺の後ろについて尋ねる。

「今日はもう帰らせてもらうよ。また後日お邪魔させてもらおう。
・・・・・・あぁ、今度から付き添いはもういいよ。
流石にあなた方の貴重な時間を浪費させてしまうのは心苦しいからね。」

それに職員は微笑みながら応えて、

「浪費だなんて・・・そんなことはありませんよ。でもまあそう言われるのでしたら、どうぞお好きなときにお好きなようにご観覧ください。質問はいつでも気軽にしていただいて結構ですし、危険なところには職員の誰かと一緒に入っていただくのでしたらかまいませんから。」
「・・・そうか、すまないな。感謝する。」
「いいえ。」


俺は、今日ここに来れて本当によかったと思った。








日記連載からの再録(?)です。

こちらのシオンさんは原作ほどひどい過去ではないと思われます。
・・・国王が一応いい人です。
まぁ、戦争はしてますが。子供達には平等っぽいです。
というか、国王はシオンママLOVEだといい。
貴族も全体が悪いんじゃなくて、シオンの周りにいたのが
いけ好かない部類だっただけで。
才能溢れるシオンに嫉妬してたり・・・笑
(日記に載せていた後書きっぽいものより)

(05.03.25初up)