「貴様は何のためにこんなことをしている。」
「決まってるじゃないですか。力が要るんですよ。父を死に追いやった者達へ復讐するために。」 自分に覆い被さる人物へと仁は静かに告げた。それと同時に安いパイプベッドがギシリと耳障りな音を立てる。軍の仮眠室程度ではこれくらいの品物が妥当なのだろう。 部屋を照らすのは窓から入る月明かりのみ。ドレイクの褐色の肌に反射するそれを目に留めながら仁は口元だけで小さく笑った。 「ただのファントム隊員じゃあ全然足りない。」 「だから副司令、か。」 「貴方に身体を開く理由としては十分ではありませんか?」 そしてチェシャ猫のように両目を細める。雪のように白く肌理細かい肌を上官の前に惜しげもなく晒し、対照的に真っ赤な唇をペロリと舐めて見せた。その仕草にドレイクの喉がごくりと鳴る。それがあまりにも今まで抱いてきたどんな女より妖艶で蠱惑的なものだったから。 仁はファントム司令であるその男の様子に再び小さく笑うと、両腕を伸ばして褐色の逞しい首に引っ掛ける。 「どうぞ?ご遠慮なく。これは契約なんですから。僕と司令との・・・ね。」 その声を皮切りに表層だけの関係が始まった。 + + + 重い腰を引き摺りながら仁は洗面台の前に立つ。流しに手を引っ掛けて正面の鏡を覗き込めば白銀の髪の青年が嘲るように笑みを浮かべていた。 「今更これくらいどうってことないだろう?力を得るためなら自分だって使う、それが僕のスタンスじゃないか。」 鏡に映った自分が言葉の通りに口を動かして最後に口角を上げる。 その金の瞳から光が消えたのはいつのことだったか。上官に身体を明け渡すことによってファントム副司令の地位を得た青年は、自身の思考を遮るようにゆっくりと目を閉じた。 「・・・丈、」 呟きは音にならない。 薄らと開かれた口唇から吐息だけが零れ落ちた。 いくら名前を呼んだって、もう君には届かない。 (丈、大好きだったよ。憎いくらいに。大好きだったんだ。) ドレ仁はまず身体ありきではないかと。愛ではなく共犯者として。 それに裏切り発覚後の仁にはもう自分すら手段の一つになっている思う。むしろその傾向が顕著になると言うか。 (反転で仁の台詞を見ることが出来るようになっています。) |