◆狗が嗤う(そしていずれは籠の鳥)
 オルケ×ハク(「偽りの仮面」開始直後)

「ちょっ……おま、なんで、こんな……ッ!」
 ハクは走る。脇に雪の残る道を全速力で駆けていた。
 すでに息は荒く、心臓は今にも破裂しそうな勢いで脈打っている。足が縺れて転びそうになるが、そんなことになれば一巻の終わりなのは目に見えており、文字通り死ぬ気で走り続けるしかない。
 こんなにも駆けたのは常識外れに巨大な蟲に追いかけられたのに続いて二度目だ……と思うのだが、生憎ハクの記憶は昨日の分からしかなく、真偽のほどは定かではなかった。ハクという名前すら、記憶を失って彷徨っていた自分を保護してくれた少女がつけたものなのである。
 ゼェゼェと今にも倒れそうな呼吸を繰り返しながら走り続けるハクの耳に先程から己のものとは異なる息遣いが複数聞こえていた。その音の主をハクは知っている。少し前、少女――クオンと共に行動していた際に遭遇した四本足の生き物、オルケだ。記憶がないハクの中にある『常識』に照らし合わせると、少々野性味が溢れてしまった犬という感じだろうか。
 クオン曰くオルケは容易く退けられる獣であるらしい。しかし実際にハクが木の枝を構えたところで全く話にならなかった。オルケ達もそれを理解しているらしく、今やハクをばっちり獲物だと認識してしまっている。
 あの時と同じくクオンが傍にいてくれれば追い払うこともできたのだろうが、山の麓の集落へ向かう道中で、用を足すため彼女から離れたところを襲われた。彼女の元へ戻ろうにもそちらの道は群れの仲間と思しき別のオルケによって塞がれており、ハクはクオンから離れる方向へ逃げるしかなかったのである。
 そろそろクオンが異変に気付いて追いかけて来てくれているだろうか。それともやはり面倒な男の世話など看ていられないと言って先に行ってしまっただろうか。後者なら記憶を失って早々人間不信に陥りそうだ。が、今はそんなことよりオルケの群れから逃げ切る方が先決だった。
 しかし残念ながらハクは成人男性としても非常に体力がない部類らしく、そして追いかけてくるオルケ達は自然界で獲物を追い立て狩りを行うことで生き抜いてきた生き物である。すぐに襲い掛からずしばらく追いかけるだけだったのも獲物から抵抗するための体力を削ぐのが目的であり、結果、散々走り回って疲れ果てたハクの躰は群れの中でも一番大きな個体によって地面にうつ伏せで倒されてしまった。
「……っ、ぅ……。た、食べても美味しくないからな……!?」
「グルル……」
 獣が鼻先でハクの首筋を探る。
 躰の大きさは人間であるハクの方が大きいはずなのだが、疲れ果てた躰では背中に圧し掛かるオルケを跳ね除けることもできなかった。おまけに今ここで下手に動けば、口の上下にびっしりと生え揃った鋭い歯で致命傷を負わされかねない。
(と言っても、このまま放っておいたって、こいつらに喰われる未来しか見えないんだが……!)
 先程からくんくんとハクの躰に鼻先をくっつけて匂いを嗅いでいるオルケが、いつその牙で皮膚を食い破ってくるか判ったものではなかった。想像するだけで身が竦み、血の気が引く。
 更に濡れた鼻先や湿った吐息が躰に直接触れるたび、ハクの皮膚はぞわりと粟立った。己が完全に被食者であるという感覚は更に躰を硬直させる。
 だが、
 ――ぺろり。
「ひっ!?」
 うなじから耳の後ろにかけてを生温かい感触が走る。舐められたと気付いたのは反射的に首を竦めた後で、ガチガチに躰を固くするハクを労わるように、背中のオルケがぺろぺろとハクの首や顔を舐め始めた。
「なっ、な? わぷっ」
 背後のオルケを振り返るように首を捻れば、唇をべろりと舐められる。余程嬉しいのか、そのオルケはハクの顔をぺろぺろ舐めながら尻尾を勢いよく振っていた。
「え、ちょ、おまっ、っぷ、な、なに!?」
 オルケの行動は獲物を食そうとするより、どちらかと言うとじゃれているように思われた。そんなまさかと胸中で否定を叫んでも、ご機嫌なオルケはハクの顔を舐め、首筋に鼻先をうずめては匂いを嗅ぎ、そして頭をこすりつけてくる。
 クオンと一緒にいた時は完全に獲物を狩る目で襲い掛かって来たというのに、何なのだ、この差は。
「お前一体何がしたいんだよ……!」
「わふっ!」
「めちゃくちゃ怖いのになんか可愛いだと!?」
「きゅうん!!」
 今、猛烈に媚びられた気がする。というハクの感想もあながち間違ってはいないはず。
 ハクが恐る恐る手を伸ばしてオルケの顔を撫でると、その獣は更に激しく尻尾を振りながらハクの手に己の顔を擦り付け始めた。
「お、おおお……」
 オルケの茶色い毛並みはやはり野生動物なだけあってあまり触り心地が良くない。毛繕いをしてそれなりに身綺麗にはしているのだろうが、どうしてもゴワついてしまっている。それを傷一つない指先で感じながら、ハクはゆっくりと身を起こした。対象が逃げ出さないと理解したオルケもその動きに合わせてハクの背中から降りる。
 地面に座り込み、ハクが両手でオルケの頭部を挟むようにして撫でてやれば、もっと撫でろとばかりに顔を寄せてきた。「あ、かわいい」と呟いてしまったのは致し方ないことだろう。
「もーびっくりさせるなよなぁ。なんだお前、自分に遊んでほしかっただけか」
「わふっ! ワォン!」
 ハクにわしゃわしゃと頭を撫でられながら上機嫌なオルケが短く鳴く。どうやらこのオルケが群れの長らしく、他のオルケ達は大人しくその辺りに腰を落ち着けていた。なお、一部は羨ましそうに長のオルケを見つめている(ように見える)。

(中略)

 獣の動きは激しさを増していく。まるで強くなるハクの匂いに当てられたかのようにぐるぐると喉を鳴らしながら鼻先をそこにこすり付け、ついには邪魔な布を牙に引っかけて剥ぎ取ってしまったのだ。
「あッ!」
 手で押さえようにも時すでに遅し。布はひらりと解けてそれに覆い隠されていた部分が獣の眼前に晒される。緩く勃ち上がったそこに獣の吐息がかかり、下生えに直接鼻先を突っ込まれた。
「ぐぅぅ、ヴぐ、ぐるるる」
 ハッハッと呼気を荒くしながら獣が唸る。前足でがしがしと地面を掻き、酷く興奮しているのが判った。
 急所を晒され、興奮した獣を前に最早ハクは声も出ない。はずだったのだが、
「ひ、ゃ!」
 べろりと股間のものを舐め上げられて甲高い悲鳴が飛び出した。
 背骨を駆け上がるのは明らかな快楽。しかも一度だけでは終わらず、オルケはハクの反応を楽しむように、もしくは強くなる匂いにもっともっとと強請るように、その場所を何度も何度も舐め始めた。
「やっ、は、あ……あっ、くっう、だ、だめ、だって」
 逃げようにも中途半端に脱がされた服が四肢に絡まって動けない。しかも下半身はオルケに押さえ付けられてしまっている。更におまけで背筋をビリビリと駆け上ってくる刺激が目覚めてまだ日も浅いハクの頭を真っ白に染め上げ思考を奪っていった。
「あぁっ、あっ、」

(以下略)
※ウコハク落ち




◆神獣様のお戯れ
 神獣ヌコ×ハク(「二人の白皇」ED後)

 きっかけは単純。
 ハクのふとした疑問から始まった。
「どうして犬は(オルケ)いるのに猫がいないんだろうな」
 この地上に満ちる『ヒト』の認識では猫によく似たヌコという概念はあるものの、それは実在する愛玩動物ではなく神獣という括りに入るらしい。ハクが知る気まぐれで愛らしい猫はこの世界に存在しないのだ。
 過日、とある事情により願いを叶えることを喜びとする存在≠フ力を受け継ぐに至ったハクは、それでも未だ『人間』としての思考で猫の不在を少しばかりさみしいと感じた。
 拠点としている庵から障子戸の向こうに広がる外の景色を眺めつつ、手持無沙汰に指先でさりさりと畳を撫でる。
「ねこ?」
「ねこ、とは何でしょうか?」
 独り言を聞いていた二人の少女達がはてと首を傾げた。ハクは己の両側に侍っていた彼女等へと交互に視線を移す。
「ん? ああ、こっちで言うとヌコな」
「神獣ヌコ」
「主様はヌコにお会いになりたいのですか?」
「そうだなぁ」
 白い仮面で顔の上半分を隠した姿であるハクはその縁をなぞるように頬を掻いた。
 自分が会いたいと願えばきっと叶うのだろう。しかもここは現世(ツァタリル)と常世(コトゥアハムル)を繋ぐ狭間の世界。たとえ神獣と称される生き物が現れようとも、人々に影響を及ぼすことはない。
 ハクは外の景色――幾多の星々がきらめき、光る蝶が飛び回る世界――を再び見遣る。願いを叶えても良いのだが、さて、その代償は如何程になるのだろうか。
 己が手にしたこの権能はたとえ願う者がその力を揮う大神自身であったとしても代償を必要とする。そのことは先代の大神の言葉からも判っていた。無論、権能を揮うのはハクであり、あの神がかつて怒りと憎しみにまかせて揮った時のような随分と意地の悪い叶え方にはならないが、それでも代償は代償である。
 一瞬でも「わざわざ何かを支払ってまで求めるものか?」という思考が頭を掠めてしまえば、やる気は半減。別にこんなことに力を揮わなくても……と、ハクは早々に諦めかけていた。
 が、しかし。
「ヌコ、見てみたい」
「正確に申し上げますと、ヌコと戯れる主様を拝見したく存じます」
 左右に侍る双子――ウルゥルとサラァナの目がほんの少し輝きを増していた。
 この身が人間を辞め大神となった際、自身のヒトとしての身を捨ててでも傍にあることを決めてくれた双子にハクは少々……否、かなり弱い。その二人が願うのであれば先程の考えを撤回して権能を揮うのも吝か(やぶさ)ではない、と思ってしまったのは仕方のないことだろう。
「……よし、わかった」
 言うや否やハクはすっくと立ち上がり、腰帯に差していた鉄扇を右手に構える。
「汝等の願い、叶えよう。……後でお前達の舞を見せてくれないか。それをこの願いの対価としたい」
「承知」
「最高の舞をご覧に入れましょう」
 双子の答えにハクは頷き返し、シャンッと涼やかな音を立て鉄扇を開いた。
 ――そして願いは正確に′`となる。


 確かに双子はヌコと戯れるハクを見たいと言った。
「だっ、から、って……ッ!」
 何も歪めることなく彼女達の願いを形にしたはずのハクは現在、見事に顕現された巨大な真白い獣に背後から圧し掛かられていた。
 僅かに波打つ純白の長毛に覆われた獣はハクの想像していた猫にとてもよく似た形をしている。だがその体長は成人したヒトを軽く超えていた。そんな猫ならぬ神獣ヌコが、庵の中で顕現されてすぐ大神たるハクに飛び掛かってきたのである。
 最初、押し倒されたハクは驚きつつもきっと相手はじゃれついているだけに違いないと考え、その背を掻いてやろうと両腕を伸ばした。が、ヌコはハクに身をゆだねることなく、それどころか前足の爪で引っかけるようにしてハクが纏っていた着物を脱がし始めたのだ。
 これにはハクも慌てたが、服を剥かれて露出した腹から胸にかけてをザラザラした舌で舐められた瞬間、あまりの刺激の強さに躰を硬直させてしまう。それが運の尽きだった。動きを止めた瞬間にヌコはハクの下肢を露出させ、あまつさえその痩身をうつ伏せにひっくり返したのである。
 そして今、逃げようと四つん這いになったハクを逃がすまいとして、ヌコがその背に圧し掛かっていた。
「ウルゥル! サラァナ! 頼む助け……」
「これが、戯れ」
「主様とヌコの戯れ、実に興味深いです」
「お二人とも!?」
 ハクは声を裏返した。
 双子の少女達は裸に剥かれた主を助けるどころか、青年と獣の妖しい体勢にごくりと唾を呑み込んで見守る体勢に入っている。
「流石は主様」
「一部の歪みもなく、見事に我々の願いを叶えてくださいました」
「おいいいいい!! これはお前等のせいかーッ!」
 裏切りだ。なんて酷い裏切りだ。しかもハクのため一〇八の性技を習得したと称したこともある少女達である。彼女達の『願い』がこの程度で終わるはずもない。
 興奮で徐々に顔を赤らめていく少女達とは対照的に、ハクの顔からは血の気が引いた。背後ではフンフンと興奮した様子でヌコがハクに躰を押し付けている。ふもふもの毛並は最高に気持ちよかったが、今はそれを堪能していられる余裕がないし、そんな場合でもない。
 しかも先程から臀部に何やら硬いものが押しつけられている気がするのである。まるでその硬いものを挿入すべき場所に狙いを定めるかの如く、軽い力でくいくいと幾度も下肢に押し当てられていた。
「いや、待て待て待て待て待てぇい! そんなものが入る場所なんて自分には全く付属してないからな!? というか無理に押し入れたりなんかしちゃったりしたらホントとんでもないことになりますからね!? 流血沙汰とか洒落になりませんからね!?」

(以下略)
※オシュハク前提




◆真白の憑代
 モブ(一般人)×ハク(「二人の白皇」ED後)

 男は以前、誤ってタタリの巣穴に迷い込み、赤くどろどろとしたあの化け物に襲われかけたことがある。しかし喰われると諦めた瞬間、男の視界に白い衣の裾が映ったような気がした。そうしてハッと目を大きく見開くと、赤い化け物はどこにもおらず、ただ化け物がいたはずの場所にこんもりと苔や草花が生い茂っていた。
 その時から男はあの白い衣の誰かを慕い続けている。
 きっとあのひとが自分を助けてくれたのだ。ただしタタリを消し、新しい命を芽吹かせるその力は決してヒトが操れるものではない。結果、男は己の救い主がヒトの上に立つ者――神様なのではないかと考えた。
 白い神を崇め始めた男は、やがてその存在に恋情にも似た想いを抱くようになる。月に一度、住んでいる村に立つ市で白く美しい布を見かけると買い求めてしまったり、ふとした瞬間に神の姿を想像してみたり、その想像した姿に己が買った白い布で仕立てた着物を纏わせてみたり。
 そんな日々が続いた結果、男はとうとう己が恋した神の似姿まで作ってしまった。木や布で作った等身大のヒトの人形に美しい白色の着物を着せ、食事のたびにその人形に膳を運んだ。
 きっと他人が知れば気が狂ったかと非難しただろう。しかし幸か不幸か男は実に密やかに人形を愛でていた。
 神を模した人形を大切し、敬い、愛し、穏やかに時は過ぎていく。しかし徐々に変化は訪れていた。
 大事な人形と過ごすうち、男はある夜、夢を見た。愛しい愛しい神の躰を褥に縫い止め、その身を己の楔で穿つ夢を。
 最初の夜、男は愛しい神を穢してしまったことに酷い罪悪感を覚え、どこにいるとも知れぬ神に謝罪する代わりに自分が作った人形にひたすら頭を下げた。しかし夢は一度で終わらず、二度三度と男を惑わせていく。
 幾度目かの夢を見た後、目覚めた男は布団から起き上がり、今まで通りに人形の前へ行き。そして、初めて人形にくちづけた。
「もう耐えられません。己を誤魔化すことができません。……我が真白き神よ、どうか御慈悲を」
 何の抵抗もない人形を押し倒し、男は手ずから仕立てた純白の美しい衣を剥いでいった。

* * *

 ぴくんっ、と傍らにいたハクの躰が小さく跳ねる。オシュトルは「どうしてんでぃ、アンちゃん」と首を傾げた。
 現在、二人は現世(ツァタリル)と常世(コトゥアハムル)の狭間の世界に滞在している。初めて訪れた時は幾千幾億の星々と光り輝く蝶の群れが飛び交う常夜の世界だったのだが、新しい大神となったハクの権能により今は現世によく似た様相を呈していた。
 右近衛大将の邸と白楼閣を合わせたような趣きの建築物に住み、庭に設けた池から現世の様子を覗き見る。そうやって大神の助けが必要な人々を見つけ、彼等に手を差し伸べるのがハクの仕事となっていた。
 そんなハクの傍らに死んだはずのオシュトルが今も存在していられるのは、ハクが大神になった後、彼の眷属として契約を結んだためである。
 親友たる男を己の使役対象とすることにハクは乗り気でなかったが、オシュトルが無理を言って契約した。自身の死後、多大な苦労を背負わせてしまったハクのために働き、少しでも手助けをしたかった……というのは建前で、本心はただ陽だまりのような親友の傍にいたかった。これに尽きる。
 元々ハクはオシュトルの我侭に強く反対できない。それは彼がオシュトルの隠密として活動していた時の様子からも明らかである。結果、オシュトルは見事に真白き大神の眷属となり、共に永遠を過ごす権利を得たのだった。
 そんな大事な主人であり親友である男の様子がおかしい。
 ハク本人にも何が何やら判らないらしく目を白黒させている。先程まで庭の池を覗き込んでいた彼はそこから一歩退き、自身を抱き締めるように手で躰に触れていた。
 ぽつりと零したのは「誰かに触られてる感じがする」という呟き。仮面で隠されることがなくなったオシュトルの眉間に皺が寄る。
「触られてるって、そりゃあ……」
 ウコンだった時の口調で告げながら――『オシュトル』は最早ハクと己を一つに合わせた存在である故と言い、今のオシュトルは主にこちらの口調を使っているのだ――親友の躰を気遣いながらそっと肩に触れた。
 直後、
「ひ、ぁっ!?」
 ビクンッとハクの躰が跳ね、足元からくずおれる。
「アンちゃんッ!」
 オシュトルは慌ててその痩身を抱き留めた。膝を折ったオシュトルの腕の中でハクがか細く「あ、あっ」と啼きながら躰を震わせる。
「おいっ、どうした。アンちゃん! アンちゃんッ……!」
「や、オシュト、ル……わかん、な……っ、やぁ、ン!」
「っ!」
 オシュトルは息を呑んだ。
 腕の中で身悶えるハクはある特定の状態を示している。震える彼の姿はまるで……そう、まるで褥で男からの愛撫を受ける女のようであった。

(中略)

 このままでは恐怖にハクの心が狂いかねない。オシュトルは意を決し、ハクを両手で抱き締めながら毛のないつるりとした耳に唇を寄せた。
 自分達は無二の親友。こんなこと、本当は望ましくないはずなのだが――
「アンちゃん……安心しな。オメェさんに今こうやって触れてんのは他の誰でもねぇ、俺なんだからよ」
「……っ、ぅ?」
 ハクの恐慌が一瞬凪ぐ。深い琥珀色を宿した双眸がオシュトルを捉え、
「おしゅとる、が……? あ、ン
 名を呼び、次いで零れたのは甘い声。恐怖に引きつっていた頬が緩み、オシュトルの背に回っていた腕がそろりと顔に伸ばされる。
「ハク?」
「そっか……。そうなのか。うん、お前ならいいや」
「ッ!!」
 ハクが微笑んだその瞬間、オシュトルの耳も尻尾もぶわりと毛が逆立った。

(以下略)
※オシュハク落ち