不安定に揺らぐ霊圧。 暗い部屋に満ちる鉄臭。 青白い月の光のもと、嫌になるくらい鮮明な赤色が小さな水溜りを作る。 ぴちゃん・・・ 実際には聞こえずとも水滴の落ちる音が脳に届き、浦原は入り口の所で固まっていた身をゆるりと動かした。 音もなく歩みを進め、この不安定な霊圧を放つ人物の前に立つ。 膝を折ってその顔を覗き込めば瞳が半分ほど閉じられ、何も映さずそこに在った。 「・・・一護サン?」 名前を呼ぶが何も変わらず。 傷ついた一護の左手首を掠めるように撫でて治癒しながら浦原はそっと細身の体を抱きしめた。 「ねぇ、一護サン・・・」 橙色の短い髪をさらりと梳いて言葉を続ける。 「やっぱり今でも自分を責め続けているんスね。」 囁くようにそう言ってコツンと額をあわせた。 互いの呼気さえ分かる距離で浦原が浮かべるのは儚いくらい優しげな笑み。 「それはそれで構わない。これは誰が何を言っても変えられないことだ。」 キミが自分を人殺しだと思っている事は。 でも・・・。 「でもね、それでもどうか・・・こうやって自分を傷つけるのはお止めなさい。」 囁き、浦原は血の付いた腕を取る。 そこに唇を寄せ、液体を舐め取りながら祈るように目を伏せた。 「キミを護ったあの人が、こんなことを望むはずないでしょう?」 浦原が口にした「あの人」という単語に、一護がぴくりと反応を返す。 その反応を認めた上で浦原はさらに言葉を続けた。 「優しいあの人がキミのこんな状態を知ったらきっと悲しみます。それにね、アタシもこんなキミを見るのは辛い。」 「つら、い・・・?」 琥珀色の瞳に何かが揺らぐ。 ようやく聞けたその声と瞳の動きに浦原はゆっくりと、そしてはっきりと頷いた。 「ええ、辛いんです。大切な人に何もしてあげられないことが。今のアタシじゃキミをその闇から救い出せない。それが酷く辛いんスよ。」 キミが自分に科している罪を許す許可をアタシは持っていない。こうやって抱きしめてあげることくらいしか出来ない。 そう呟き、浦原は腕の力を強めた。 せめてこの抱擁が一護の罪の意識をほんの僅かでも紛らわすことが出来ればと思って。 強くなった抱擁の中で一護が微かに身動ぎをする。 ただしそれは浦原の腕の中から逃れようとするものではなく、今自分が彼の腕の中にいるという事実を確かめるような動きだった。 「・・・・・・はら、」 「一護サン?」 一護の声が自分を呼んでいるように聞こえて浦原は腕の中を見る。 すると何も映していなかった双眸から流れる一筋の雫が――――― 「いち、」 名を呼ぼうとすると、瞼が下ろされて瞳はその奥に隠れてしまった。 代わりに一護が小さく音を紡ぐ。 「も、少し・・・この、まま。」 そう言って温もりを得るかのように浦原の胸に頭を押し付けた。 浦原は無言のまま自分より一回り小さな体を強く抱きしめる。 これが今、自分が唯一出来ることだと感じながら。 眠れ、眠れ、眠れ。 今はただ強く目を閉じ、せめてこの腕の中で仮初の安寧を。 |