そして彼方で見る夢は □side-Ichigo Kurosaki□ 「・・・・・・ちは。・・・ろ・・・・・・サン。」 下駄の音。 「黒・・・・・・ーン!助け・・・来・・・あげ・・・・・・・・・・ン♪」 飄々とした中、どこか芯の通った声。 「アタ・・・・・・十日間・・・・・・合い・でき・・・・・・か?」 黒の羽織と緑の作務衣。 「キミ・・・愛し・・・・・・ま・・・・・・」 そして、視界を掠めるくすんだ金色。 「い・・・・・ご。」 「いち・・・。起き・・・・・・い。一護。」 「一護、朝よ。起きなさい。」 「・・・・・・・・・・・・・・・おはよぅございましゅ。」 「おはよう。一護。」 朝。 舌は上手く回っていないようだが、とにかく一護は母の声で目が覚めた。 今日は日曜日なので学校はない。 それでも医者の家だからかどうかは知らないが、黒崎家の朝は平日とほぼ同じ時間に始まる。 もちろん一護も例外ではなく、起こされて部屋の時計を見れば、長針は12を、短針は7を指していた。 「どうしたの一護。具合でも悪い?」 どことなくボンヤリしたままの息子を気づかって、彼の母・真咲が一護の額に手を当てる。 「熱は・・・無いようね。」 「ん。大丈夫。」 そう言って、少し照れたように一護は「へへへー」と笑った。 「何か怖い夢でも見たの?」 一護の琥珀色の瞳を覗き込んで真咲が微笑む。 慈愛に満ちたそれは、赤の他人ですら不思議と安心する笑みだ。 母に微笑みながら問われて一護はこてんと首をかしげた。 「怖い夢じゃなかった。けど・・・」 「けど?」 その声に誘われるように、一護はつい先程まで見ていた夢の内容を思い出そうとする。 しかし夢にはよくあることだが、どうもはっきりと思い出せない。 覚えているのは切れ切れに聞こえる誰かの声。 おそらくそれは成人した男性のもので、声色自体はそうでもないのだが、 どことなく長い人生を歩んだ老人の様でもあった。 そして、一護の覚えていたものがもう一つ。 「金色・・・・・・お月様の色。」 「お月様?」 「うん。お月様。・・・お月様とおんなじ色の髪の毛の人。」 ちらりと頭の奥を掠めるくすんだ金髪。 自分と同じ滅多に見かけない色。 そして自分とはまた違った色。 その部分はどうしてか覚えていて、一護は何故だろうと起き抜けの頭で考える。 「お月様の色かぁ・・・・・・一護の知り合い?」 問われるが、一護は首を横に振った。 「ううん。オレ、そんな人知らないよ?」 「じゃあ、一護が見たのは予知夢かな。」 「かなぁ?」 こてん・と、今度は先程と逆の方に首をかしげて、一護は真咲の言葉を胸のうちで繰り返した。 月色の髪の男性という、知らないはずの人物。 自分が見たのは予知夢・・・・・・なのだろうか。 もしそうだとしたら、いつの日か自分はあの人に会えるのだろう。 「ホラ、一護!まずは朝ごはん食べないとね!さぁ、下でみんなが待ってるわよ!」 母の声で思考の底から戻ってきた一護が立ち上がる。 「うん!」 そうして母と子の二人は、家族が待つ一階へと降りて行った。 カーテンが風を受けてふわりと揺れる。 元気な声が残された部屋は、ただ静かに朝の光に満たされていた。 |