■BLEACH/護廷の死神→極道、一護→闇医者なパラレル その2の1
※このSSはフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。(以降同様) 「割増料金請求すっから覚悟しとけよ」 「うっ……了解」 「ったく」 パンッパンッという乾いた音が幾つも飛び交う中、白衣を纏った青年―――黒崎一護は小さく嘆息した。 場所は闇医者たる一護が普段活動範囲としている都内ではなく、その隣の県で、お得意様の山本組が所有する倉庫街の一角。 度の入っていないレンズ越しに空を見上げれば、灯りが少ないおかげで街中より星が見える。 が、そんな物で和んでいる暇はなさそうだった。 本日のお客様である隣の男――正確には一護の治療対象となる人間の上司――を睨みつけ、「怪我は?」と問う。 一護と同年代に見える赤い髪のその男は問われた言葉の意味が一瞬理解出来なかったのか、頭上に疑問符を浮かべるも、この銃撃戦が始まってすぐに弾が掠った己の左腕を見て苦笑した。 「大丈夫だ。被害らしい被害と言やァ服が焦げたくれーだよ」 「ふーん。ま、後できちんと診させてもらうけどな」 赤い髪の男・阿散井恋次の左腕をちらりと一瞥した一護はポケットから携帯電話を取り出して画面を見つめる。 気の無い様子を見せつつも新たに発生した怪我人の具合を確かめるのは、やはり医者としての矜持があるからだろう。 もしくは黒崎一護が生来備えている気質ゆえか。 (普通の医者だったらとっとと此処から逃げ出してるだろうしな……) 恋次はこの銃撃戦の中にあっても平静を保ち、尚且つこちらの心配(?)をしてくれる医者に内心で笑いながら呟いた。 それに気付いた訳でもないだろうが、一護がポチポチと携帯電話を操作しながら恋次に話しかける。 「恋次、チャカは?」 「一丁。弾は予備のマガジンが一個」 「……少ないな」 「まさかこんな所で余所様がちょっかい出してくるとは思ってなかったからなぁ」 「ちょっかい出されると解ってて俺を呼んだってんなら、もっとふんだくってやるんだが」 「マジで予想外な事態だったんだから、そうやって頭の中で金勘定すんのは止めてくれ」 「とりあえず信じてやる」 一護の言に恋次はほっと一息ついた。 ■BLEACH/護廷の死神→極道、一護→闇医者なパラレル その2の2 さて。 それでは話も一応のまとまりを見せたところで、次の行動に移らなければならない訳だが。 恋次はいつもの仕事鞄だけで武器を帯びていないらしい一護を眺めて眉根を寄せた。 「オメーはどうなんだ? 今日は『斬月』持って来てねえんだろ?」 『斬月』というのは一護が山本元柳斎重国から譲り受けた一振りの日本刀の銘だ。 医者のくせにメス以外の刃物の扱いも上手い一護は、必要があればその刀を持って戦うことも出来る。 しかしながら一護が戦えるという話を耳にしたことがある恋次はこの闇医者が実際に戦っている場面に遭遇した経験がないため、一護がどのように戦うのかを知らない。 日本刀があってようやく自分達と同じ戦場に立てるのか、それとも刀以外に仕える武器があるのか、ということも。 そんな風に心配する恋次の視線を受け、一護は携帯電話を仕舞って質問相手へと顔を向け直す。 そして、 「俺は極道相手に仕事してる医者だぜ?」 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。 その笑みに唖然とした恋次を放って一護が駆け出す。 銃弾を防ぐため物陰に隠れていたはずなのだが、あっさりとそこから出て行った一護の背を恋次の声が追う。 「おい! 何する気だてめぇ!!」 「さっき山本のジイさんから正式に依頼を受けた! 俺もこの“片付け”に参加してくれだってさ!!」 「はぁ!?」 叫び返すが、それ以上一護が答える様子もなく。 まるで手品のようにその手に恋次のそれとはまた別の拳銃が握られているのに気付いて恋次はもう一度、加えて最初よりも音量を上げて「はぁぁぁああ!?」と叫び声をあげた。 ■BLEACH/護廷の死神→極道、一護→闇医者なパラレル その2の3 携帯電話のメールで現状を報告、及び自分も参戦するかどうかを山本に確認した後、一護は普段から仕事鞄に忍ばせている銃を手にして駆け出していた。 本当ならより馴染みのある『斬月』を使いたかったのだが、恋次が言ったとおり、今回は未所持のまま仕事場まで来てしまったのでどうしようもない。 とは言っても、日本刀だけでなく他の武器――たとえば今所持している拳銃――の扱い方も一通りマスターしているため、今の状況に不安を抱くことは無いのだが。 パンッと一護を狙って放たれる弾丸。 闇の中で白衣を纏っている一護は随分目立つ的になっているのだろう。 しかし撃った相手との距離もかなりあるため、そう簡単に弾が一護の身体を掠めることはない。 特に撃たれる側が怯えているならまだしも、真正面から睨みつけて向かって来るのだ。 相手からすれば実に狙いにくい。 むしろ一護に狙いを定めた人間の方が怯んでしまう。 そのことをよく理解した上で一護は手にした銃を“威嚇”と“足止め”のために使い、一気に相手との距離を詰めた。 「なっ……!?」 「少し眠っとけ」 どん、と鈍く低い衝撃音。 こちらに向かって銃弾を放っていた人間の一人の鳩尾に、一護の拳が容赦なく埋まっていた。 必要以上の殺しは行わない。 それが頭に“闇”がつくとは言え医者である一護の基本スタンスである。 一人を行動不能にした後、休まず一護は次の相手に向かう。 二人目も呆気なく鎮めた頃には―― 一護が敵陣を崩したおかげだろう――早くも山本組の面々が防御から攻撃に態勢を転換し始めていた。 ■BLEACH/護廷の死神→極道、一護→闇医者なパラレル その2の4 「あんなぁ一護、わかっとるんか? と呆れ半分で告げたのは一護の知人である平子真子。 場所は一護の現住所たる高級マンションの一室で、今は恋次と共に銃撃戦に巻き込まれた翌日の昼である。 仕事用のスーツを着崩した知人に一護はコーヒーを渡して自分の分である黒い液体を啜った。 「その辺はちゃんと了解してるっつーの。だからあそこで撃った銃も弾も専門業者に頼んで処理したし、俺の顔見た奴らは山本組の方々に上手いことやってもらってる。今回は平子達に庇ってもらう予定は無いな」 「せっやたらエエんやけどなぁ。ま、オレらもお前を守るために危ない橋渡らんで済むんやったら、それに越したことは無いし」 そう言って苦笑する平子の職業は刑事だったりする。 しかも暴力団関連の仕事を専門とする、俗に言うマル暴という種類だ。 しかしこの刑事、正義というものからは程遠く、黒に近いグレーのような立ち位置にいた。 ただし汚職に塗れているという訳ではない。 あらゆる意味で立ち回りが上手いと表現するのが適切だろう。 一護とは昔から――それこそ平子が今の職業につくずっと前から――関係があり、今現在では互いに世間様へ公開できないような事柄に関して助力し合う仲となっている。 そんな平子は一護から渡されたカップを傾け、ふっと息を吐く。 「相変わらずコーヒー淹れんのは上手いなぁ」 「それだけしか取り得が無いような言い方はやめてくれ。料理だってそれなりに出来る」 「ああ、せやせや。料理で思い出した。ひよ里が言うとったでー。今度なんか作ってくれ、て」 同僚である女性――否、少女?――の名前を出し、次いで平子は問う。 あいつに何か仮でも作ったか? と。 すると一護は首を横に振って、 「いや。この前偶然街で会ったからそれ系の話をしただけ。……そっか。じゃあ明日の晩に俺ん家でどうだって訊いといてくれよ。どうせこの後、お前ら仕事場で顔合わせんだろ?」 「おう。ほな言うとくわ」 と答えつつ、平子の視線はじっと一護を見つめる。 何か言いたげなその顔に一護は「ん?」と一音だけ発して相手の続きを促した。 「オレも来てエエか」 「……いいぞ?」 疑問はそれだけか? と言えば、あっさりと肯定が返って来る。 「ほなオレとひよ里の分、よろしゅうなー」 「まかせとけ」 答えて、一護はまたコーヒーを一口含む。 頭の中で明日の晩の献立と、昨夜の事件に関する割増料金について考えながら。 |