■ハルヒ/シャミセン+キョン シャミセンを看病するキョン(原作設定)



 吾輩は猫である。名はシャミセンという。愛称はシャミ。なんとも跳び抜けた命名センスであるが、名付け親と現在の主は異なるので自身の末路を案じる必要はないだろう。いや、名付け親の方も悪意を持ってこの名を付けた訳ではないのだと思うが。
 それはさて置き。
 現在まことに如何ながら、私は三味線に加工されるのとは別の危機に晒されていた。
「ねぇシャミだいじょうぶー?」
「大丈夫だから、お前は下に行ってなさい」
 主人の妹君が扉から顔を出し、主人がやんわりと入室を断る。まあ、可哀想だが仕方ない。妹君のパワーに今の私はついていけんだろうからな。
 ガンガンと痛みを訴える頭を持て余し、私は寝床として用意されたクッションの上でもぞりと身動ぎした。こちらの動きに気付いた主人が心配気に両目を細める。ああ、主人よ。そんな顔をせずとも私が死ぬ訳ではなかろうに。いやぶっちゃけると死にそうなくらい頭が痛いのも事実なのだがな?
「医者はただの風邪だっつってたけど……。やっぱ辛いのか? シャミ」
 うむ。辛いな。だが主人よ、キミにそんな顔をされてしまうと風邪とは別のことで苦しくなってしまう。
 一時は言葉も交わすことが出来た私と主人ではあるが、今はもう違う。それに関して不都合を感じたことはなかったのだが、この時ばかりは少し残念に思うな。主人に過剰な心配は無用だと伝えたくとも伝えられないではないか。
 代わりと言ってはなんだが、傍に座っていた主人の足に尻尾を乗せてぱたぱたと振ってみる。主人の表情がふっと緩んだということは成功と見てよいのだろう。
「にゃあ」
 すぐに良くなってまた妹君の遊び相手にもなってやれるさ。だから気にしてくれるな、優しい我が主人よ。















■ハルヒ/キョン(父)+古泉(息子)パラレル



 ぼくとぼくのお父さんは、まったく顔がにていません。ほかの人からそう言われるし、ぼく自身もそう思います。
 ぼくにはお父さんがいるけれど、お母さんはいません。
 なので今よりもっとぼくが小さかったころ、ぼくはそれがふつうだと思っていました。ですが本をよんでも、ともだちの家にあそびに行っても、子どもの親というのはお父さんとお母さんの二人だったので、ぼくはぼくの方が「とくしゅ」なのだと気づいたのです。
 ぼくにはお母さんがいません。
 だけどぼくとお父さんの家によくあそびに来る女の人がいます。ぼくはぼくにお母さんがいないことが「とくしゅ」だと気づいたころから、その女の人がぼくのお母さんだった人、もしくはこれからお母さんになる人なのではないかと思うようになりました。だけど実は、あそびに来る女の人は、一人ではなく三人もいました。お日さまみたいな人と、お花みたいな人と、すんだ水みたいな人です。
 ぼくはだれがお母さんなのかわからなかったので、お父さんにしつもんすることにしました。するとお父さんはおどろいた顔をして「彼女達は、みんな俺の友達だ。お母さんだった人も、これからお母さんになる人もいないよ」と言いました。それからお父さんを見上げていたぼくの顔を見て少しだけ笑うと、手をのばしてぼくの頭をなでてくれました。そんなお父さんのことばと手に、ぼくはなぜかとても安心して、なでられているうちに泣きだしてしまいました。ぼくはぼく以外のだれかにお父さんがとられるかもしれないと思って、とても不安になっていたようです。お父さんはぼくが泣きやむまでずっと頭をなでていてくれました。
 ぼくにはお母さんがいないけれど、やさしいお父さんがいます。
 だけど実は、ぼくとお父さんは血がつながっていません。なのにどうしてお父さんがぼくのお父さんなのかは、今のぼくにはよくわかりません。ぼくがもっと大きくなったら、おしえてくれるそうです。そう言ったときのお父さんは、なんだか苦しそうな顔をしていたので、ぼくはあまり知りたいと思いません。それにどんな理由があっても、ぼくはお父さんがぼくのお父さんであることを幸せに思います。それが一番たいせつなことです。
 まとめると、ぼくはお父さんが大好きだということです。
 おわり。


 二ねん一くみ こいずみ いつき















■ハルヒ/射手座ハル→キョン



 時折、ぞっとすることがある。
 仕官学校時代、あいつが立てる戦術は一見して中の下か中の中。どれだけ良く言っても中の上が精一杯なものだった。教官や同期が向ける視線だってそれくらいの評価しか含まず、あいつは特に期待も失望もされないまま集団の中に溶け込んでいた。あいつ自身の評価も同様。自分に才能なんてないと思っている。でもほんの一部―――あたしみたいにあいつをずっと見てきた人間や特別と称される遥か上の者達の評価は違う。
 勿論、周囲がそう判断するように、あいつの立てた戦術一つ一つにはそれほど意味なんてない。重要なのはその戦術が幾つも集まって『戦略』になった時のこと。戦略は戦術と違い、一つ一つの戦闘での勝敗に一喜一憂したりしない。それは戦術より広範な作戦計画であり、各種の戦闘を統合し、戦争を全局的に運用する方法だ。ゆえに政治的なものまで絡んでくる。そしてあいつのやり方は、二つの国の戦争を仮定した世界の中で、確かに全局的なものを見据えるそれだった。―――今ここで負けて敵部隊を前進させる。が、そうやって油断させたまま自国の防衛ライン間近の所にて相手全てを喰らい尽くす。もしくは引分けに見せかけつつも、後々自分達に有利な条件で休戦を結べるようにする。それが可能な戦いをあいつはいつも繰り広げていた。
 きっとあいつをこのまま放っておけば、あいつは今の仮想世界と寸分違わずまるでゲームでもするように"最高"の戦略を軍に提供することになるだろう。
 あたしは、それが怖い。
 あいつの能力はいずれ敵兵一人一人ではなく、敵国そのものを屈服させる力になる。あの、いつも気だるげで面倒臭がり屋で、けれど温かいあいつが、そんなものに。そんな力を振るうために、あたしの手を離れて軍上層部に取り込まれてしまう。
 だから、あたしは。


「いいこと、キョン。幼馴染のよしみで、あたしが……涼宮大佐があんたを作戦参謀として使ってあげるわ。ただし、あんたは自分勝手に作戦を立てちゃだめ。あんたより全ての教科において優秀なあたしが全部やってあげるから、あんたはあたしの横にちゃんと突っ立ってるのよ。わかった? じゃあ返事!」
 あんたをあたしの元に置いて、一生手放してなんかやらない。周りにはお情けで戴いた地位だって言われ続ければいい。力を外に見せつけず、軍の上層部に目をつけられることもなく。そうやってずっとずっと、あたしだけの隣にいればいいのよ。















(10.04.24up)














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