■説明



次からキョン先生パラレルのSSとなります。
掲載順に
1.キョン先生と長門有希
2.キョン先生と涼宮ハルヒ
3.キョン先生と朝比奈みくる
4.キョン先生と古泉一樹
でございます。
尚、基本的に「+」または「○○→キョン」なのですが、「4.キョン先生と古泉一樹」に関しましては、読み手によって「キョン古(キョン←古)」と受け取られる可能性もございますので、ちょっとでもそういう雰囲気が受け付けられない方は「3」まででストップされることをお勧め致します。
でも書き手としては「古→キョン」なんです。むしろ「古→→|超えられない壁|→→キョン」なんです・・・!
・・・と、説明もとい言い訳はこの辺で。
長々と失礼致しました。
それでは、キョン先生パラレルSS、楽しんで頂ければ幸いです。















■ハルヒ/キョン先生と長門有希



 四月の初め。長門有希との初対面はひどく淡々としたものだったと記憶している。
 彼女は音も無く――と言っては御幣があるな。あのやかましい扉を開けて入ってきたはずなのだから――社会科職員室に居た俺の傍まで来て、こちらが名簿にあるはずの名前を思い出すよりも早く一枚の紙を差し出した。
「これ。」
「・・・?ああ、入部届けか。」
「そう。」
 こくりとミリ単位で頷き(たぶん)、疚しいところなど何も無くとも謝りたくなるような澄んだ瞳で少女は一言答える。その時には俺も彼女が提出した入部届けの先頭に位置する氏名記入欄に目を通しており、女生徒の名前を口にすることが出来た。
「俺にってことは、長門は文芸部希望でいいんだな?」
 ほんの数ミリ頭が動いて再び肯定の意。ふむ、入部届けにもこれぞ明朝体と言わんばかりの整った(整い過ぎた?)文字で「文芸部」と記載されている。長門の見た目も小柄・眼鏡プラス落ち着いた態度ってことで、いかにもな雰囲気だ。
 国語科担当の教師が書道部の顧問を受け持っているためか、俺はここ数年、社会科担当ながらも文芸部の顧問なんてものをさせられていた。ま、『させられている』と表現しつつも決して嫌なわけじゃないんだがな。入部してくる奴はそれなりに大人しかったり面白い話を多く知ってる奴だったり色々いたが、とにかく"あまり問題を起こさず扱いやすい生徒達"であったし、負担と言うほど何か大変なものを背負うことはない。
 そして今年、部員数が極端に少なくなり果てはついにゼロになるかと思われていた矢先に現れた長門有希もまた、これまでの文芸部員達と同じ様相を呈していた。うむ。今年もまたのんびりと過ごさせていただけそうだ。
 長門から入部届けを受け取って判を押す。はい、これで長門有希は文芸部員っと。これからよろしくな。
「それじゃ、これは俺から担当者へ回しておくから、お前はもう帰っていいぞ。お疲れ様。」
「そう。」
 三度こくりとミリ単位で頷いて長門は職員室を出て行った。本当に呆気ないくらい大人しい子だ。
 ・・・しかしながら。
 今年も楽になりそうだなーなんて頭の片隅で思っていた俺に、長門が退室間際向けた視線は一体何だったのだろう。俺の気のせいかも知れないが、どうにも俺の予想通りには進まないだろうことを予感させるものだった。
(そして、その嬉しくない予感は見事現実になってしまうのは、もう少し後の話。)















■ハルヒ/キョン先生と涼宮ハルヒ



 ゴールデンウィークが明け、生徒どころか教師だって五月病になりそうなある日。そいつは優等生オーラをバリバリに出して職員室に現れた。
「・・・涼宮?」
 たまたま普段自分が居座っている社会科職員室ではなく、この学校に勤務する全教師にとっての『職員室』である総合職員室で作業をしていた俺は、つかつかと歩み寄ってきた生徒の名前を呼ぶ。その声が意図せずに身構えるような硬い物になってしまったのは仕方の無いことだと思ってくれ。なにせこの涼宮ハルヒという女生徒、見た目は高ランクなのだが中学時代の経歴ゆえに中高教師達のブラックリスト載りを果たしている奴なのだ。そりゃクラス担任でなければこの一年生の社会科を担当しているわけでもない俺だってすでに顔と名前をバッチリ覚えちまっているさ。
 そんな俺の思いを知ってか知らずか、涼宮は評判とは裏腹にお淑やかとも言える表情でこちらのすぐ傍まで来るとゆっくり口を開いた。
「先生、」
 おお、この呼び方!
 現二・三年生に見習って欲しいもんだぜ。あいつらときたら俺のことを「キョン先生」やら「キョンちゃん(くん)先生」やら果ては「キョン」「キョンくん」などと呼びやがって・・・!俺は何処のシカ科の哺乳類だっての。
 だがまだ入学して二月も経たない涼宮は俺をごくごく普通に呼んでくれた。
 そのことに情けないながらも小さな感動を噛み締める。が、しかし。感動を覚えられていたのも一瞬で、涼宮が妙に表情をキラキラさせ始めたかと思うと、彼女は仁王立ちになりながら胸を張って―――こら、人を指差しちゃいけません。
「あんた、これからSOS団の顧問になりなさい!」
 と、のたまいやがった。
「え、えすおーえすだん?」
 思わず聞き返すと、涼宮は「何よその間の抜けた発音は。『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』に決まってるじゃない!」と不機嫌半分自慢(自信?)半分の顔をする。
 いやいや、「決まってるじゃない」と言われてもな。先生、お前がどういう経緯でそんな部活――俺を"顧問"にしたいのだから、おそらくそうなのだろう――を作ろうとしているのか全く知らんのだよ。よってそういう顔をされる覚えはなく、あと部活の顧問が欲しいのならまず活動内容の説明及び俺を選んだ理由をだな・・・。
「あんたを選んだ理由?そんなの簡単よ。」
 涼宮はつい先刻までのお淑やかさを何処かへやったままニヤリと笑い、再び目の輝きを増して答えた。
「SOS団の部室が今の文芸部室を使うことになって、そしてあんたが文芸部の顧問だからよ。有希も快諾してくれたしね!」
 いやさっぱり納得できねえから!ってか長門さん!?いつの間に承諾したんだあの子は!
 と混乱状態に陥っている間にも、あれよあれよと涼宮は話を進めて行く。気が付くと俺はシャチハタさん(印鑑)を握り締めていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、え?」
 長い沈黙の後、俺はシャチハタさんとそれで捺印したらしき一枚の紙を交互に見つめて呟く。ああ、なにやら視界の端に映る女生徒が敵大将の首を討ち取った戦国武将の如き雰囲気を醸し出しているではないか。
「よし!これで今日からあんたはSOS団の顧問よ!よろしくね、キョン!」















■ハルヒ/キョン先生と朝比奈みくる



 初夏と言えるくらい気温も高くなってきたある日の朝。
 学生達に混じって出勤してきた俺は校門を通過してしばらく後、パタパタと軽い足音と共に後ろから声を掛けられた。
「キョン先生、おはようございます。」
「おはよう、朝比奈。」
 ぺこりと頭を下げてそのまま擦れ違っていった小柄な人物は現在二年生の朝比奈みくる。今年は違うが、昨年の彼女のクラスでは俺が社会科を担当していたためにこういう呼び方をされる程度には顔見知りである。ちなみに彼女がよく一緒にいる鶴屋という女子生徒は俺のことを「キョンくん先生っ!」と呼ぶ始末。・・・うん、まぁいいさ。あのとびっきりの笑顔で言われてしまえば今更訂正などできんわな。たとえ鶴屋が俺を「キョンくん先生」と呼んだ所為で、朝比奈までもが似たり寄ったりな呼び方を始めたとしてもだ。
 そういやちょっと急いでいるようだったが、何かあるのだろうか。普通ならこの時間帯の登校で何ら問題は無いはずなのだが。・・・ああ、日直かな?それともショートホームルームの前に部室に寄ったりとか。
 脳裏をよぎったのは元文芸部室にして今はSOS団などという奇怪な集団の根城にされているとある一室の光景。今年の五月に発足し、しかも頭の痛いことに俺が顧問を務めてしまっているSOS団の部室もとい団室だ。そこで発足者にして団長である涼宮の指示により、朝比奈はメイド衣装を纏って給仕の真似事をよく行っている。・・・ま、朝比奈本人も楽しそうだから俺がとやかく言う必要なんて無いんだけどな。それでも初めて目にした時は特大の頭痛に襲われもしたが。
 ふっと諦観混じりの溜息が漏れ、口が半笑いの形に歪む。うん、こういうことを考えるのは止そう。朝っぱらから涼宮絡みの問題に頭を痛める必要はない。どうせ放課後になれば大体二日に一回の頻度で(しかも涼宮の手により問答無用で)団室に引っ張りこまれる運命なのだから。
 やれやれ、と一言呟いて気持ちを切り替える。と、そんな時。視線を上げた先にこちらへと駆けて来る朝比奈の姿を見つけた。
「・・・?」
 なんだろう。
 彼女の視線はばっちり俺に向けられており、俺に用事があるらしきことは推測できるのだが、はて何かあっただろうか。
「キョン先生!」
「どうした朝比奈。」
「あの、」
「ん?」
 朝比奈は俺の正面で立ち止まり、小さな肩を少しだけ上下させながら大きな瞳で見上げてくる。
「きょ、今日は部室にいらっしゃいますか?」
「何かあるのか?」
「いえ、その・・・」
 少し言い淀み、それでも意を決したように胸の前で両の手を握って朝比奈は告げた。
「あたし、昨日新しい茶葉を買ってきたんです。そ、それでよろしければ先生にも飲んでいただきたいなーなんて。」
 ・・・・・・今、登校途中の生徒の約半数(ぶっちゃけ男子ども)から突き刺さるような視線を受けているのだが、俺はどうすればいいのだろう。いやな、お前ら(男子ども)、そりゃ朝比奈はめちゃくちゃ可愛らしい子だが、俺との年齢差を考えてみろよ。これで俺が手を出したら教師生徒云々の前にばっちり犯罪じゃねーか。俺はまだ両手を後ろに回す気は無いんだよ。
 ってな訳で、あくまでもこれは部活の顧問を務めている教師としての振る舞いだからな。
 激しい視線の嵐に内心で頬を引き攣らせつつも、俺は表面上いつもどおりの態度で朝比奈に笑いかけた。
「どうせ今日は―――いや、"今日も"涼宮が職員室に突撃してくるだろうし、やることちゃっちゃと片付けて様子を見に行かせてもらうよ。朝比奈が淹れてくれるお茶、楽しみにしてるからな。」
「は、はい!それじゃあ先生、また放課後に。」
「ああ。」
 花が咲くように笑顔を浮かべ、朝比奈は御辞儀をしてからまた背を向けて去って行った。あっはっは。視線が痛いのなんのって。・・・俺、そろそろ剃刀レターかその辺の何かを警戒した方がいいのかも知れん。朝比奈の"あれ"も『顧問の教師』に対する一般的好意でしかないってのに、若い男子諸君には区別がつかんのかねぇ。いや、たとえ区別がついていたとしても・・・ってやつなのか?
 視線の嵐が本格的に物理作用を齎そうとし始めている中、俺はその場に蹲ってしまいたい衝動を抑えながら止まっていた足を動かす。うんホント。直接涼宮が動かずとも俺はこうなる運命なんだな。
「・・・はぁ〜。」















■ハルヒ/キョン先生と古泉一樹



「おいコラ元転校生。これは一体何のつもりだ?」
「何の、と訊かれましても・・・。御覧の通りじゃありませんか?」
 そう言ってにこりと如才ないイケメンスマイルを浮かべたのは俺より十も年下の美形高校生こと季節はずれの元転校生兼理系クラス九組の優等生兼俺が顧問を"務めさせられている"SOS団の副団長・古泉一樹だ。
 スーパーのチラシのモデルにでもなればなかなかにファンを獲得しそうな整った顔立ちの向こうには、現在、SOS団が根城にしている文芸部室の天井が見えていた。ちなみに背中は長机の硬くひんやりとした感覚に少々強張っている。両足は床についていたが、ひどく不安定な体勢であることに変わりはない。
 俺はこんなよろしくない格好になった元凶を今一度睨みつけ、不機嫌ですと隠しもせずに溜息をついた。
「理解できんな。形的に『生徒が気に喰わない教師に対して暴力行為に出ようとしている』と言えなくもないが、お前の表情を見ればそう判断する訳にもいくまい。むしろそんな顔のままで俺に拳の一発でも与えられるなら、お前はとんだ腹黒少年になるわけだが。」
「いやですねぇ。僕があなたに暴力を振るうはずないじゃないですか。」
 眉尻を下げ、苦笑を滲ませながら古泉が告げる。あーもう、なんでこんなことになったんだか。
 涼宮が社会科職員室に突撃を掛けてきて、いつもの如く俺を拉致ったのは今から約三十分前。そして団室に到着して十分後、奴は朝比奈の写真集を作るとか言い出して、朝比奈、長門の両名を引き連れて(引き摺って?)部屋の外へと出て行ってしまった。俺は引っ張って行かれる前に朝比奈が淹れてくれたお茶を啜りつつ、未だ現れていない古泉一樹への伝言約を命じられた訳だが・・・。
 はてさて、涼宮達が消えてから五分後に現れた古泉に、俺はこの十五分間で何かやらかしてしまったのだろうか。わからん。明日の授業用に教科書を捲るくらいしかやってないぞ、俺は。(ちなみに俺が手にしていたその教科書は、頻繁に団室へと引っ張りこまれる俺のために長門が本棚へとこっそり置いてくれている物である。先生思いの生徒の態度に俺は本気で涙が出そうだ。ありがとう、長門。お前と朝比奈は俺の癒しだよ。)
「・・・、何を考えていらっしゃるんですか。」
 ちょっとばかり思考を飛ばしていると、真上から古泉の不機嫌な(?)声が降ってきた。なんだなんだ、どうしたよ古泉。
「本当に分かりませんか?僕の考えていること、僕がこうしている理由を。」
「だから解らんと言っているだろう。解って欲しいなら説明をするなりそれなりの態度を取るなりしてくれ。」
 ややうんざり気味に呟き(この体勢、ちょっと苦しくなってきた)、古泉をじっと見据える。
 すると古泉は一つ溜息をつき、
「そうですね。わかりました。」
 僅かな微笑を浮かべて顔を近付けてきた。
「こいっ・・・!?」
「好きです。僕のこと以外、考えないでください。」
「はぁ!?・・・ちょ、ん・・・!」
 ぼそりと小さな呟きの後、唇にやわらかいものが触れる。改めて確認するまでも無く、それは目の前の男子生徒のものだろう。驚きに目を瞠る俺に、古泉はフッと双眸を細めて満足そうに笑った。
 しかもそれだけでは終わらず、唇を触れ合わせた後はそこを湿った何かがつついてきた。おいおい、舌か。
 呆気に取られて力を入れることもしなかったため、古泉の舌先は数度こちらの唇をノックしてからにゅるりと口内へ侵入を果たした。高一のくせにいきなりディープキスかよこの餓鬼は!まったく、普段から妙に接触過多だとは思っていたが、教師で遊ぶにも大概にしろってんだ!!
 チッと内心で激しく舌打ちし、次いで俺はこのまま相手が満足するまで我慢するつもりもなかったのでこのマセ餓鬼を懲らしめるためにも反撃に出ることにした。何をどうするかって?はは、こうするのさ。
「んん!?」
 驚きで呻いたのは俺ではなく、古泉一樹。
 そして俺の方はと言えば、先刻のこいつよりも余程意地の悪そうな笑みを浮かべて、相手の舌に自分のそれを絡めていた。
 やだねーそんなに驚かんでも。俺はお前より十年も長生きしてんだぜ?それなりに"それなり"なのは当然だろ?
 フッと吐息で笑い、古泉の舌を甘噛みしてやる。俺がこんな反撃に出ると思っていなかったらしい古泉はひどく驚愕し動揺した後、やや目元を赤く染めて悔しげに俺を見ていた。どうやら更に反撃したいらしいのだが、上手くいかないって感じだな。っていうか上手く行かれたら俺の立つ瀬が無いってーの。
 しばらくくちゅくちゅと水音を立てていたのだが、こちらを拘束する古泉の力が緩んだのを察知して俺はさっさと覆い被さっていた身体を押し返した。
「わっ・・・!?」
 どすん、と古泉がしりもちをつく。俺は長机を背に仁王立ちし、ぬるつく唇を親指で拭いながら相手を見下ろした。(って、そこでごくりと唾を飲み込む理由が解らんのだが、古泉よ。)
「あ、あの・・・」
「あぁん?」
「いえ。」
 多少ガラの悪い声を出してやると古泉は途端にしおらしくなって視線を斜め下へと落とす。そうそう。それでいいんだよ。気に入らないからなのか妙な気に入り方をしているからなのか知らんが、こういうイタズラはお前にゃ荷が勝ちすぎてんのさ。これに懲りたら今後一切俺に変なイタズラしかけんじゃねーぞ。どうせ勝てるはずないんだから。

「この前まで中学生だった奴が俺に敵うはずないだろ?甘いんだよ若造オコサマが。」

 ばっさりと告げ、そのまま俺は古泉を置き去りにして部室を出る。「え?違・・・っ!」と古泉が何か言いそうだったが無視だ無視。しばらく反省してろ。
 とりあえず俺はうがいでもしてくるかな。















(09.10.20up)














BACK