■BLEACH/屍姫パロで浦一



「あーあ、なんとも惨めな姿になっちまって。」

ポツリと呟く視線の先には、人とも獣ともつかない異様な姿をした何か。
所謂「丑三つ時」と呼ばれるこの時間、その何かが彷徨う周囲に人影はない。
これからのことで要らぬ気配りをすることはないと判断して、呟きの主―――制服姿の一護はオフィス街に建つ一つのビルの屋上で吐息を零した。
と、その傍らに突如として現われる気配。
だが一護は驚くこともなく、視線を眼下で彷徨う何かに向けたまま口を開く。

「あれが契約僧を失った屍姫の末路か。」
「ええ。もう『彼女』はただの『屍』でしかありません。多少厄介な、ね。」

応えるのは傍らの人影。
特に感慨を覚えることもないのか、その声は淡々としている。
だがそれはいつものことだと一護は大して気にする様子もなく、軽く相槌を打った。
そしてようやく相手に顔を向ける。

「なあ、浦原。あいつって何か特別な能力持ってたっけ?」
「報告によると特に注意すべきものは無かったと思いますが・・・油断はしないでくださいね。」

キミに何かあったら、アタシどうなるか分かりませんし。
にこりと笑って傍らの相手・浦原がそう付け足す。
冗談のような口調だが、深く被った帽子の陰から覗く目は本気だ。
一護は先刻と意味の異なる息を吐き出してかぶりを振った。

「まったく、うちの契約僧はとんだイカレ野郎だぜ。」
「愛が深いと言ってくださいな。」

一護の言葉が照れ隠しであることが分かっているのだろう。
浦原は声をひそめて、くつくつと笑う。
それに多少の居たたまれなさを感じながら一護は再び何か―――かつては己と同じく屍姫として駆けていた動く死体リビング・デッドを見下ろした。

「そんじゃまあ、お仕事開始といきますか。」
「いってらっしゃい、アタシの『姫』」

浦原の言葉を背に受けて一護は足を踏み出す。
そしてそのまま眼下の屍目がけてビルの上から飛び降りた。







突如として現れた一護の姿に元屍姫の屍は全身で警戒を示した。
横に長く裂けた口からは低い呻り声が漏れ、一護を己の敵として見なしていることが推測される。
しかし一方一護の方はと言えば、特に構えることも無く、淡々とした目を相手に向けるのみ。
そこにかつての同僚を思いやる気持ちなど無い。
特に哀れみなどは以ての外だ。
屍姫が契約僧を失って暴走するなど自業自得。
大切なものを護れなかった己が悪いのである。

「・・・本当に大事な人間なら、自分が“死んでも”護ってみせろよ。」

呟きを落とし、一護が先制攻撃に出た。
スタートからトップスピードに乗るまでに掛かる時間はほんの僅か。
人間では有り得ない身体能力を発揮し、一護は一瞬の内に屍との距離を詰める。
反応が遅れた屍は充血した目を大きく見開いていたが、それでもなんとか防御の姿勢だけは取る。
しかし咄嗟に取った中途半端な守りでスピードが乗ったこちらの一撃を防げるはずも無く、大きく振り上げられた一護の右足が屍を数メートルも弾き飛ばした。

「・・・ゥグっ!」
「下手なガードなんかするから自分も契約僧も取り零すんだ。」

独り言のように語りかけながら一護は相手が起き上がるまでの間に愛用の銃を構える。
グリップに短刀が取り付けられたその二つのマシンガンはぴたりと獲物である屍に定められ、主人の声を待つ猟犬のよう。
打ち所が悪かったらしく中々起き上がれない屍を見据え、慈悲も手加減も与えない二匹の猟犬に掛かる指がじりじりと力を増していった。
が、その時。

「・・・ちっ」

舌打ちし、一護がその場から飛び退く。
と同時に一瞬前まで一護が立っていた場所に大人の三倍はありそうな体躯の何者かが地響きを伴って飛び掛ってきた。

「間の悪い!」

吐き捨てる言葉は屍ではなく新たな登場人物に向けられたもの。
一護は毒づきながら視線を屍から“それ”―――仮面を被った化け物・虚へと移す。
勿論相手をしていた屍から完全に気を逸らすことはない。
結果的に視野の外へと追いやってしまった屍の気配を探りつつ、一護は自分より一回りも二回りも大きな身体の虚を見据えて皮肉気な笑みを浮かべた。
理由は対峙する虚の姿―――完全に仮面を被っているわけではなく、それは幾らかずれているように感じられた。

「・・・破面モドキ、とはね。」

一人ごち、一護は対処すべくもう少し距離を取る。
屍はこの生身で戦って狩るものだが、虚は別だ。
彼らにはきちんと死神となり、斬魄刀で斬って昇華させるという手順を踏まなくてはならない。
そうでなければ調停者としての意味がないのだ。
加えていくら一護の持つ銃が浦原製とは言え、やはり斬魄刀と比べれば虚への対処能力が下がってしまうのも事実である。
そういう訳で死神化し、一護が先に虚を倒す―――ともいかなかった。

(虚の相手してる間に俺の身体が壊されるか逃げられるかどっちかだっての。)

先に虚と戦えば、一護の身体が危険に晒される。もしくは折角見つけ出した相手に逃げられる。
かと言って屍を先に相手にすれば、背後から虚に襲われる。
一人で二つの存在を相手にするには、相手への対処法方が違いすぎていた。
よって一護はこの場への対応としてビルの屋上からこちらの様子を窺っている浦原の名を呼んだ。

「浦原!」
「虚はアタシが。それでOKっスね?」
「ああ。話が早くて助かる。」

ふわりと一護のすぐ傍に降り立った浦原へ向けて「サスガ俺の契約僧。」と一護が口端を持ち上げる。
契約僧にも屍と戦う能力はあるが、浦原の(元)本職は死神であるし、それに一護が死神化して身体を放置した場合それを守るのが浦原の役目になる(つまり浦原の邪魔になる)のは推奨出来ない。
そのことを説明せずとも名前を呼ぶだけで適切な対応を行ってくれる浦原に一護は再度感謝の言葉を口にして一歩先に踏み出した。

「じゃ、頼むぜ。」
「はい。」

一護の足が地面を蹴り、浦原の仕込み杖から剣先が現れる。
屍、虚それぞれへと飛び出す影。
目撃者の無いはずの街でそれら各自の得物が鋭く月光を弾き返した。





その次の日、高校から帰宅したその直後。

「黒崎一護。我々にご同行願うが、よろしいか?」

窺いを立てながらも決して拒否を許さぬ声音で、尸魂界からの使者が一護を自宅から連れ出した。







布で顔の下半分を隠した使者に連れて来られたのは尸魂界、ではなく浦原商店。
何故かと問うた一護に返された答えはその時点で一護の片眉を不審に跳ね上がらせるには充分なものだった。

「浦原にも用がある、って?」
「はい。詳細は我らにも知らされておりませんが、この商店の店主にも関わりのあることだとか。」
「ふーん・・・」

浦原商店と書かれた看板を見上げ、一護は淡々と声を出す。
一護がかつて尸魂界の危機を救った功労者であることを知るその使者は最初の強引さを除き、かなり紳士的な対応をしてくれている。
こちらの疑問には知る限り、また許可されている限り丁寧に話してくれたのもその一つ。
と言っても所謂下っ端であるらしいその使者が知っていることなど高が知れていたが。

「あとは先に来てた隊長達に聞けばいいんだよな?」
「そのように伺っております。」
「了解。そんじゃここで。」
「失礼致します。」

浦原商店まで一護を連れてくるのが役目だったらしい彼は、そう言うとヒラヒラ手を振る一護に一礼して姿を消した。
それを見届けた後は扉の方に向き直って取っ手に手を掛ける。

(こんな集め方されんのは初めてだけど・・・一体何の用事なんだか。)

チリチリと首の後ろに嫌な感じを覚えつつも一護はそう胸中で独りごちると、取っ手を引いて勢いよく扉を開いた。
ガラッと耳慣れた音で開いたその先には浦原商店の店員のその一・テッサイの姿。
どうやら一護を待ち構えていたらしく、間も置かずに「どうぞこちらへ」と奥ではなく地下の勉強部屋へ行くよう促される。
集まった者の数と立場を考慮して奥の部屋ではなくそちらにしたらしい。

「テッサイさん、今日の用事って・・・」
「それは先にいらっしゃった方々の口から聞いた方がよろしいかと思われます。・・・私には手出し出来ないことですから。」
「わかった。」

眼鏡で隠された瞳に、更に嫌な予感を募らせつつ頷く。
霊圧を探ってみたところ、浦原、白哉、日番谷、そして山本総隊長までいるではないか。
正直言って反感しか抱いたことの無い山本の狸爺がいることに眉間の皺を深くて一護は溜息をついた。

(井上の時のことなんか、その最たるものだしなァ・・・。で、白哉と冬獅郎はその護衛って感じか?)

ご苦労なこって、と付け足し、そうして一護はようよう地下に続く梯子を下り始めた。


地下に降りた一護を待っていたのは苦笑を浮かべた浦原、彼と幾らか距離を取って不審と戸惑いを露わにした六番・十番隊長、そして表情を悟らせない狸爺の計四名。
雰囲気的に自分は浦原のチームに分類されるようだと判断して一護は誰かが口を開く前にさっさと男の元へ移動した。

「よ、浦原。昨日ぶり。」
「どーも、一護サン。」

とりあえず挨拶を交し、対峙する格好の隊長達を視線で指して状況を問う。
すると浦原は肩を竦めて「それは今からアチラさんが話してくださるそうですよ?」と山本を見た。
浦原の視線を受けてか、山本が「ゴホンっ」と咳を一つして場の空気を改める。

「今回儂らがここへ来たのは他でもない。黒崎一護、浦原喜助両名に訊きたいことがあるためじゃ。」
「俺達に訊きたいこと・・・?」
「うむ。」

大仰に頷く山本を見て一護の眉間の皺が深くなる。
一護達を尸魂界に呼び出すのではなくそれなりの地位にあるはずの彼らが現世に訪れたのは、当然、浦原が永久追放により穿界門を通ることが出来ないためだろう。
しかしそもそも訊きたいことがあるとはどういうことだ。
最近はこれといって異様な事件も起こっておらず、その事件が起こっていないのだから一護達が関わることもない―――つまり事情聴取と名の付くものを受ける必要性も無いはずである。
と一護の思考がそこまで辿り着いたのを見計らったかのように山本が話を続けた。

「偽ることは許さん。正直に答えよ―――昨夜、貴様ら二人はどこで何をしていた?」
「・・・・・・人にモノを問うならそれなりの態度で質問しろよ。」

最初からの上から目線の物言いに一護の返答も自然と喧嘩ごしになる。
浦原が諌めないのは、彼も幾らかは一護と同じ感想を抱いたためだろう。
また白哉が片眉を上げただけで沈黙を貫き、日番谷が眼を眇めて一護ではなく山本を見たのも、先の二人と同じく問い方に問題を感じたためか。

(そりゃァ護廷の総隊長なんだから偉いっちゃー偉いけどさ、それでも端からそれじゃあな。しかも俺は死神だけど、護廷の人間じゃないんだし。)

怒り半分、呆れ半分で一護は溜息を吐き出す。
先の返答と合わさってそれが山本の気に障ったらしく、「黒崎一護、」と咎めるように名を呼んだ。

「はいはい、答えりゃいいんだろ。・・・ったく。」

いがみ合いで時間を消費するのも勿体無いと思考を切り替え、一護はおざなりになりながらもそう言いつつ頭を掻く。
浦原の方をチラリと見れば、帽子の影から薄らと微笑まれた。
―――どうやら説明を含む山本への諸々の対応は全て一護に任せるらしい。
浦原の意図を読み取ると一護は胸中で短く悪態をつき、意識を山本へと向け直した。

「昨夜ね・・・昨夜。それなら近くのオフィス街で破面モドキの虚を一匹相手にしてたぜ。それに何か問題でもあったか?」
「貴様ら二人で、か?」
「ああ。」
「何故二人で虚の相手をしていた。黒崎一護、貴様の実力ならば一人で充分事足りるじゃろうて。」
「一人で充分だからって誰かと一緒にいちゃいけねーってのか?そんなの死神の掟かなんかそこらへんの決まりに書いてあるのか?」
「いや、そのような規定は存在せん。」
「じゃあ問題ねーだろ。」

互いに意味の無いことだと悟りつつも、一護と山本は言葉を交す。
相手の意図をはっきりと読み取るため。もしくは相手がボロを出すまで。
だが先に痺れを切らしたのは山本だった。

「ふん・・・埒があかんな。」

山本が呟いたその独り言に一護は表情をピクリと微かに動かす。

「では、率直に問おう。・・・昨夜、貴様が言う虚を倒したのは貴様ではなく浦原喜助であろう。そして貴様自身は生身のまま別の何かと戦っておったな?・・・あれは一体何じゃ。」
「・・・へぇ。」

それまでの一護が告げた言葉を引っ繰り返し、山本が厳かにそう言った。
が、対峙する一護はそれに臆することなく、それどころか面白そうに表情を歪めて呟いた。

「見てたんだ?『彼女』と俺達のこと。」

どうせあの時あの場所に尸魂界お得意の偵察機械でも飛んでいたのだろう。
よって山本達が事実を知っていたのは大して驚愕すべきことではない。
一護は学生らしからぬ異様な雰囲気を纏いながらニコリと微笑んだ。

「で、そっちで何か調べて判ったことは?まさか何も調べずに訊きに来たなんて幼稚なマネはしねーよな?」
「無闇に調べて時間を浪費するより、当事者に直接訊いた方が早かろう。」
「・・・あっそ。」

山本の返答に一護は一瞬で笑みを消し去る。
可笑しな答えや検討外れの予想でも聞いて多少は楽しめると思ったのだが、それを真正面から壊されたためだ。
が、そのような意図を付き合いが全くと言っていい程無い山本達が察するはずもなく、彼らに小さな違和感と疑問を残したまま無視される。
一護は再度溜息をつくと「そんじゃま、どこから説明しましょーかね・・・」とやる気半減で呟いた。

「そうだな・・・。あんたらは現世にある宗教団体の一つで『光言宗』ってのは聞いたことあるか?・・・・・・ああ、無いんだな。まぁあるんだよ、そういう宗教団体が。うん?宗派だっけ。」
「そこはあんまり重要じゃないんで、気にしなくていいんじゃないっスか。」
「あっそう?んじゃ適当にスルーで。」

浦原の補足(?)にそう結論付けて一護は続ける。

「その光言宗が抱える仕事の一つに『屍』っていう化け物を狩るというのがある。『屍』は所謂ゾンビだな。虚みてーな魂魄体じゃなく、物理的な『物』が死を迎えても動いてるんだ。で、そいつらはほぼ100%の確率で生きてる存在に害を成す。だからそれを知ってる光言宗が対応してるってわけ。ここまではOK?」
「理解は出来る。」
「ならいい。」

山本の答え方には引っかかりを感じたが、一護は気にせずそう返した。
この話が彼らの常識には全く当てはまらないことなど既に承知している。

「それではまぁ、相手は死体なわけだから、普通の人間―――つまり『死』を迎えたらそれで終わっちまう存在には荷が重い。だから光言宗は屍への対抗策として自分達の配下に屍と同じく死なない存在を置いた。その名を『屍姫』と言う。・・・正直な話、屍姫の作成方法を知っていたから光言宗が屍対策をしてるんだけどな。ま、その辺はどうでもいいか。ちなみに屍姫も元は死んだ人間で、『姫』ってつくのは屍姫になれるのが殆ど女性だからだ。」

基礎知識はそんなところか、と呟いて一護は更に続ける。

「そして昨夜の、あんたらが言ってる『それ』は屍・・・じゃなくて、ちょっと特殊なんだが『屍姫』の成れの果って言うか何と言うか・・・。まぁ基本的に大差は無ぇんだけどさ。『彼女』は元々屍を狩る側だったんだが屍姫に付き添うはずのパートナー―――契約僧を失ったためにああなった。で、俺は死神をやる以外にもそういう『屍』だとか『屍姫の成れの果』みたいな奴らの相手も出来るから、昨夜はそっちを優先したってわけ。浦原には俺の相棒をやってもらってるから、死神としての俺の代わりに虚の相手をお願いしたんだよ。―――こんなもんか。」
「説明お疲れ様でした。」
「どーいたしまして。」

浦原がにこりと笑うのを感じ取りつつそう答え、一護は視線で山本を促した。
質問はあるか?と。
しかしそんな山本を含め、一護達と対峙する死神三人は兎にも角にもまず話を理解することに全力を注いでいるようだった。
否、理解と言うより『納得』もしくは『許容』と言ったところか。

「・・・そっちが理解出来ようが出来まいが、俺の本業は屍を狩ることなんでね。事情説明はしろって言われりゃやってやるし、虚のことを蔑ろにするつもりもねーけど、それでどうこう言われる筋合いなんてねーぜ。そこんとこ、よろしく。」

話はこれで充分だろうと言う雰囲気を漂わせ、一護は三人にあっさりと告げる。
そして彼らを追い返そうとしたところで―――



「ちょっと待て。」

声を上げたのは日番谷。
緑柱石の瞳が戸惑いを含んでこちらに向けられる。
それが表すものを推測して一護は面倒ごとがまた一つ出来そうだと胸中で溜息をついた。

「今のお前の話は全て事実なんだな?」
「ああ。嘘は口にしていない。」
「そうか・・・と言うことは、屍という化け物の相手が出来るのは屍姫――― すでに死んだ存在ということか。」

日番谷の質問に一護が頷く。

「生身の人間にも出来なくはねぇけど、特別な道具やら何やらが必要になってくるし、それでも遂行率は半分を余裕で切るだろうな。」
「だったらイコールで結んでも大差無い、と。」
「そういうこった。」

一護は飄々と答えるが、対して日番谷の方は質問を一つし、回答を一つ得る度に目つきが鋭くなっていく。

「黒崎、一護。」
「ん?」

改めて呼ばれる名前に一護が応える。
気軽なその様子に反し、次いで日番谷が口にした言葉は重い響きで周囲に広がった。

「ならば屍を狩るお前も屍姫―――死者、なのか。」
「・・・・・・、」

返答は沈黙。
浦原が帽子の鍔を引き下げる。
だがそれは回答を残りの一人に任せるということであり、そしてややもしないうちに一護の口元が楽しげにニッと吊り上がった。

「正解。」
「なっ・・・!」

声を出して驚愕を表したのは日番谷のみだったが、白哉と山本も各々目を見開いて一護を見る。
三対、計六つの目を向けられた一護は繰り返すように「嘘は口にしてねーぜ。」と薄く笑った。

「簡単な三段論法だったろ?屍を狩るのは屍姫つまり死者。俺、黒崎一護は屍を狩る。と言うことは、黒崎一護は死者である。・・・別に気付いてくれなくてよかったんだけどな。」

一護が肩を竦めると、向けられる視線がキッと強まった。
そして死神側代表である山本が日番谷に代わって口を開く。

「死者がのうのうと現世に留まってよいと思っておるのか。加えて貴様は死神―――本来ならば魂魄体として尸魂界に赴き、我らと共に調停者としての役割を果たすべきであろう。」
「興味無いな。」

山本の厳かな声をたった一言で跳ね返し、補足するように一護が続けた。

「そんな死神の理論には興味ねーんだよ。さっきも言ったろ?俺の本業は屍を狩ること。『屍姫』であることだ。死神は言わばボランティアみたいなもんなんだぜ?ンなもんのためにこっちの理論やら意志やらを捻じ曲げてやれるかってんだ。」
「っ、勝手を抜かすでないわ!!」
「抜かすね。」

激昂する山本に向けて一護は鼻で笑う。
そして、

「ああそれとも・・・気に入らないなら今すぐここで俺を魂送してみるか?」

出来るもんならな、と不敵な表情を浮かべた。
軽く両手を広げて待つ姿勢に白哉と日番谷の両名が微かにたじろぐ。
山本はさすが年の功と言うべきか、表情に大きな変化が出ることはない。
しかし杖の形をした斬魄刀を握る皺だらけの手に力が入ったのを一護は見逃さなかった。

「さぁどうぞ?勿論俺にはまだここで“生きる”必要があるから抵抗させてもらうけど。あと、今俺達が立っている此処が誰に作られたものなのかってのはお忘れなきよう。」

一護の台詞に山本の視線が浦原へと向かう。
それを受けた浦原は沈黙を保って応えることをしない。
相手の反応に山本は皺だらけの顔の中に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、杖を握る手の力を緩めた。

「・・・朽木、日番谷。」
「「はい。」」
「帰還する。」
「は・・・?、はい。」
「承知しました。」

反応が遅れた日番谷を横目に白哉が斬魄刀を空中に突き出して尸魂界に続く扉を開く。
一護達は何も言わない。
ただ山本の何とも言えなさそうな一瞥に笑みを返しただけだ。
が、それで充分であり、一護は挨拶も無しに去って行く三人を見送って、く、と喉を鳴らした。

「はい、終了。」
「案外あっさり済みましたねぇ。」

消えた扉の後を視線で撫でながら浦原が呟く。
一護はそんな己の契約僧に向かい合い、口端を持ち上げた。

「ま、たかが一人の人間を尸魂界に送る・送らないって程度で総隊長ともあろう死神が斬魄刀を解放するなんて有り得ないしな。それに加えて大きな抵抗を受ける“可能性”を考慮すれば、尚更手は出したくなくなる。・・・ただそれだけのことだろ?」
「そうっスね。しかしキミのあの話の持って行きようは―――」
「嘘は言ってねーぜ?俺が喋ったのは全て『事実』だ。」
「『真実』じゃありませんでしたけどね。この部屋に特別な仕掛けなんてありませんし。」
「まぁな。」

くすりと笑い合い、肩を震わせる。

「まだまだ『屍姫』を辞めるつもりはないんでね。」
「アタシもキミを手放すつもりはありませんよ?」
「それは光栄なこって。」
「これからもよろしくお願いしますね、一護サン。」
「はいはい。こちらこそよろしく、だな。俺の大切な契約僧殿。」















(09.05.30up)














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