■BLEACH/藍染派一護。藍一。



「あれ、藍染さん?こんな所にいて大丈夫なんすか。」

尸魂界に潜入したその日の夜。
自分達がお世話になる屋敷から少し離れた所で一護は思わぬ人物を見かけ、目を見開いた。
本来このような所にいるべきではないその人は、普段対外的に見せているものとは全く異なる酷薄な笑みを浮かべて一護に歩み寄る。

「これくらい平気だよ。それよりも、」

藍染は伸ばした手を一護の頬に添え、上を向かせる。
そのまま顔を近付けても一護は相手の好きなようにさせ、それどころか目を閉じて相手を受け入れるように肩の力を抜いた。
程なくして触れた唇の温度は冷たく、温厚を装う大人の内面を表しているようだと思った一護は外から分からぬ程度に苦笑する。

「藍染さん、まさかこのためだけに来たってわけじゃないよな?」
「そうだと言ったらキミはどうするんだい?」

質問を質問で返すなんて卑怯だ。
そう思うも言葉にはせず、一護は「そうだな、」と代わりの言葉を続けた。

「遊んでないでしっかり仕事しろ、って言っておくかな。」

どうせもうすぐ死ぬんだし、と答える一護に大人が一瞬唖然とし、それからくつくつと喉の奥で笑い出す。

「そうだな。もうすぐ五番隊隊長は死んでしまうからね・・・それまでに仕事を片付けておかないと。」
「市丸は大丈夫なのか?まさか仕事溜め込んだままあっちに行くつもりとか・・・」
「その可能性は高いね。私と要は大丈夫だろうけど、ギンはそういうことを全く気にしないタイプだから。」
「三番隊の副隊長さんも大変だな。」
「私達はそれ以上に大変な事を起こすつもりだけどね。」
「そう言えばそうか。」

これから自分達がやることに比べれば、護廷十三隊の日々の書類整理くらいどうということはない。
事が始まった後、尸魂界の死神達は新たな仕事に忙殺されるに違いないのだから。

「俺も手伝わされるのかなー。」
「嫌なら一緒に連れて行ってあげるよ?」
「遠慮しとく。『それ』の後も俺はまだしばらく現世にいた方が都合がいいって言ったのは藍染さんだぜ。」
「そうだったね。じゃあよろしく頼むよ。時期が来ればきちんと迎えに行くからね。」
「うん。待ってる。」

大きな手が優しく頭を撫でるその感触にしばし酔いしれながら、一護はうっとりと目を瞑りそう答えた。
ただ最後に、

「でももし俺のこと裏切ったら・・・解ってるよな?」

おどけるように、しかしどこか底冷えのする感覚を宿した声でそう呟いて。















■BLEACH/ルキアが来る前から死神だった一護(中学生)。浦一。in浦原商店。



「浦原ぁああああ!なんだあの義魂丸っ!」
「なんだとは何ですか。あれは今尸魂界で大人気のチャッピーっスよ?一護サンのことを思って買い付けてきたのに・・・。」

苦労したんスよーと、視線を帽子で隠したまま金糸の髪の大人が笑う。
そんな相手の態度に一護と呼ばれた学ラン姿の少年は元々あった眉間の皺を更に増やし、頬を引き攣らせた。

「何が人気だ、何が。んじゃアレか?尸魂界のご立派な“男の”死神もあんなモン使ってるって言うのか。」

苛立ちを滲ませた一護の声に大人―――浦原は苦笑を浮かべる。
少年の怒りも商品を仕入れた時に予想していたうちだ。
一護と言う名のこの少年、少々イレギュラーな事情により、生きている人間でありながらも死神という職業についていた。(死神という能力を持っていた、とも言い換えられるが、まぁどちらでも同じことだ。)
しかし死神として働くには身体から魂を抜く必要がある。
死神の力は生きている身体ではなく魂に宿るからだ。
そう言うわけで、少年の魂が抜けた後の身体を安全な場所に保護するため、また誰の手も借りず少年一人で身体から魂を抜くために、彼は『義魂丸』という肉体に仮の意思を与えるアイテムに頼っていた。
その義魂丸の新バージョンとして、先日、それ系の商品を取り扱っている浦原が一護に渡したのが義魂丸チャッピー。
何が新しいのかと言うと、それが肉体に入った時に表す性格である。

「俺の身体に何言わせてんだよっ!だぴょん、とか何その語尾!!」
「可愛いでしょ?残念ながらアタシはまだ見てませんけど、きっと一護サンのその眉間の皺も消えていたでしょうしね。」
「んなこと知るか!!俺は俺が戦ってる時に最良の行動をしてくれる義魂丸がいいって言っただろうが!ンな女性受けするような性格はいらねえんだよっ!!」
「ええ〜。」
「ええ〜、じゃねえ!!」

ああもうこの大人イヤだ!と一護はその場に頭を抱えて蹲った。
それを眺めながら浦原は喉の奥でくつくつと笑う。
そんなアナタの反応が見たくてわざと仕入れてきたんスよ、と内心で呟きながら。
そんじょそこらの死神では太刀打ち出来ないほど強大な力を持つこの少年はまだ十代前半でしかない。
しかし普段はその年齢を補うかの如く大人びた態度で世間に接し、眉間に皺を寄せてばかりいた。
それを、浦原は崩してみたかったのだ。
己の出した成果に満足し、浦原は帽子の陰に隠れた双眸を穏やかに細めた。

「まあまあ一護サン、お怒りはその辺にして。義魂丸の方はまた別の物をご用意しますから、今はとりあえずお茶でも飲んで行かれませんか。テッサイが一護サンの好きそうなお茶菓子を用意しているんスよ。」

お茶菓子、という言葉に育ち盛りである少年はぴくりと反応を示す。
その態度にもまた、年相応の子供らしさをみつけて浦原は笑みを深めた。

「どうされますか。」
「・・・じゃあ、上がらせてもらう。」

渋々なんだぞ、といった感を漂わせつつ、少年は靴を脱ぐ。
その眉間に刻まれた皺は――浦原の見間違いでなければ――普段より幾分和らいでいた。















■BLEACH/一護死亡後、隊長に。黒イヅル(+他の死神)→一護。



少年が死んだのは彼が高校二年生の時、ある暑い夏の日のことだった。
それから幾らかの月日が過ぎ―――。


「黒崎君!」
「あ、吉良さんじゃないっすか。おはようございます。」

場所は尸魂界・瀞霊廷、その中の護廷十三隊五番隊隊舎の前。
背中に「五」の文字が書かれた白い羽織の少年が、同じく白い羽織――ただしこちらは「三」の文字――の青年に笑みを向けた。
青年・吉良イヅルはそんな少年の態度に対し、穏やかな表情を浮かべる。

「今日から君も隊長かぁ。よろしくね、黒崎隊長。」
「こちらこそ。色々教えていただくこともあるでしょうし、よろしくお願いします。」

長らく空白だった五番隊の隊長席を埋めた少年・黒崎一護は、死後何年も経ったためだろう、十代という見た目に反して酷く落ち着いた雰囲気を纏っていた。
しかし琥珀色の双眸の輝きは相変わらずで、イヅルはその目に自分が映っていることに得も言われぬ優越感を覚える。
この子供の純粋さと大人の成熟した落ち着きを併せ持つ瞳が、今、自分を見ているのだ!
薄らと微笑み、一護と雑談を交しながらイヅルは思った。

やはりあの時に殺しておいて良かった、と。

これから更に成長してその身体が衰え瞳が濁ってしまう前に、一番美しい時の彼をそのまま死神としてこの世界に迎えることが出来て本当に良かった。
黒崎一護の霊力は高く、ゆえにその姿形が老化していくのも遅い。
だからこそこれからもかなり長い間、このままの姿が保たれることだろう。
人間のまま時に任せて衰えさせるなんて勿体無いことは絶対にさせない。
肉体の老化に引き摺られて精神までもが衰えてしまう。そんなことには耐えられない。
そう思ったイヅルはある暑い夏の日、一護が高校二年生の時に事故に見せかけ彼を殺したのだ。
そのことを知っている者は、おそらく、いない。
しかし例え知っている者がいたとしても、その者は自分と同じ想いを持つものだとイヅルは思っている。
その何者かもきっと、一護の美しい姿をこの世界に閉じ込めておきたいと思っているのだ。
だからこそ、何も言わない。
尸魂界も現世も、黒崎一護は不幸な事故で死んだものとして全てを処理している。

「黒崎君、これからもよろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」

何も知らない萱草色の髪の隊長は、先輩となる金髪の隊長に元気よくそう返した。















■ハルヒ/キョンが『機関』の裏トップ。黒キョンで森→キョン。



「俺と同い年・・・・・・へえ、過去に自殺未遂か。」
 些か体格に見合わぬ革張りの回転椅子に座り、少年が一人、手に持った資料を眺めながらくつりと笑った。大きなガラス窓を背にしているため、その表情は窺えない。
 しかし執務机越しに少年と対面していたスーツ姿の女性―――森園生は声からその機嫌が決して悪くないものだと判断し、現在少年の手に渡っている資料の補足説明をするべく口を開いた。
「発見が遅れていれば危うかったとの報告を受けております。」
「そうか。・・・まったく、神様も罪な事をなさる。」
 嘆くような台詞を吐きつつも少年の声には嘆きも悲しみも含まれてはいない。ただほんの少し面白がるような音を滲ませながら少年の目が資料の隅に貼り付けられた写真に向く。
 写っているのは整った顔立ちをした学ラン姿の人物。
「で、こいつが北高に転校してくるわけだ。」
「はい。年齢・容姿・その他能力から見て彼が適任かと。」
「・・・能力者の古泉、一樹。」
 耳障りの良い低めの声が写真の横に表記された名前を読み上げる。
 同じ紙の下部にはその古泉一樹という人物がこれから何をすべきなのかが簡潔に書かれていた。県立北高等学校への転校、及び『対象H』の監視、と。しかしそれだけで終わるはずがないことを少年も森も解っていた。
「季節外れの謎の転校生、ねえ。」
 古泉一樹が転校するのは五月中旬。一般的な転校としては些か奇妙な時期である。
 それはもちろん意図してそうなったわけではなく、様々な状況の変化によりそうせざるを得なくなってしまったというのが現状だ。互いに目を光らせていた他勢力が『彼女』に接触した、ならば此方もそれ相応のエージェントを送り込まねばなるまい―――これが『機関』の総意である。
 ただしそれは、あくまでも表向きの。
「ハルヒが喜びそうだ。」
 謎の転校生、ともう一度繰り返して少年が笑った。
 そうだろ?と問われた森は同意を返す。『神』が二人の少女を己の周囲に確保した後、続いて欲したのが「謎の転校生」であることは既に報告されていた。間違いは無い。きっと『神』は『機関』が送り込んだ能力者に興味を引かれるだろう。
 だが森はそれで今回の報告を終わらせる気は無く、視線をぴたりと少年の見えぬ顔に向けて、
「どこまでがあなたの計画なのですか。」
 静かに、非難の色が混じることのないように言葉を紡いだ。
 そう、『機関』が新たなるエージェントを『神』の下に送り込まざるを得ないと決定したのは「表向きの総意」でしかない。何故ならその理由の根源となるものを作ったのは、今、森の目の前にいる少年本人なのだから。
 だとすれば「表向きの総意」に隠された「裏」は?
 その「裏」の全貌を掌握しているであろう立場の少年から、森は視線を逸らさない。彼は一体何を考え、何をなそうとしているのか。少年の駒でしかない自分にそれを知る権利はあるのか。それを見定めるために。
 しかし森の重みのある視線を受け止めながらも少年は機嫌を損なうことなく、
「計画?これはただの偶然さ。」
 ただ笑ってそう答えた。
 つまり今この時点で森にそれを教えることは出来ない、今の森園生という人間にその権利は無い、ということだ。
 少年の右腕として働く自分にすら明かされない目的とは一体何なのだろう。影に隠された少年の顔を見つめるが、答えは到底見つかりそうもない。
「そうですか。不躾な質問をして申し訳ございません。」
「いや、気にしてない。」
 少年の声は本当に気にしていないかの如く落ち着いていたが、この少年の下で働くようになってから三年、森は彼が苛立ち、声を荒げる場面も、悲しみに暮れて悲痛な声を漏らす場面も見たことがなかった。
 少年はいつでも落ち着いた声音で、時折面白がるように笑声を漏らす。それが、森の目の前にある事実なのだ。
「それじゃあ今日はここまで。報告ご苦労様。」
 きっと目の前の彼は本当の彼ではないのだろう、ともどかしさを覚えていた森は、その少年本人の声によって現実に引き戻された。テンプレートでしかない労わりの台詞が優しいものに感じられたことは、せめて真実であって欲しいと願いながら、森自身もテンプレートの言葉を返す。
「はい。それでは失礼致します。」
 一度頭を下げ、それから部屋を出る。
 部屋の扉を閉める直前に少年の顔を覗き見たが、その表情はやはり陰になって隠されたままだった。















■ハルヒ/宇宙人キョン



 SOS団設立から既に一年以上が経過して、団長の涼宮ハルヒは瞳を輝かせながら精力的に団をリードし、副団長の古泉一樹は相変わらず(それでも入団当初とは違い、無理のない自然な)笑顔を保ち、マスコットキャラの朝比奈みくるは形式上は受験を控えながらも放課後の活動に顔を出し、そして長門有希が同じ団員であれば何とか判る程度の感情を表に出すようになった頃。
 ハルヒが不在の団室にて、SOS団の団員一号である少年をじっと見据え、長門は唐突に口を開いた。
「あなたはわたしの兄に当たる?」
 語尾が上がったことから辛うじてそれが疑問系であると察することが出来る。しかし質問の意味が他の三人の脳内に達し理解された瞬間、それが疑問系であるか否かは問題でなくなってしまった。
 質問された方の少年と机越しに向かい合い、勝敗の判りきったオセロゲームをしていた古泉は笑顔のまま眉間に皺を寄せるという芸当をやってのけ、ガスコンロで湯を沸かしながら温度計と睨めっこを続けていたみくるは料理手袋をつけた右手に温度計を持ったまま、長門と少年の間に視線をさまよわせる。
 一方、え?えっ!?と可愛らしい困惑の声が聞こえてくる中、少年は長門と視線を合わせたまま少し考える素振りを見せ、
「どうしてそんなことを?」
 逆に長門に問いかけた。
 少年から回答を得られぬまま今度は回答者になってしまった長門がそれでも素直に答えを出すべくことりと微かに首を傾げ、次いで先刻まで読んでいた本をタイトルが見えるように掲げる。
 ハードカバーに印字されていた文字から判るのは、それが日本語で書かれたものではないということくらい。ストーリーすら見当がつかず、その光景を見守っていた古泉とみくるは首を傾げるが、示された少年本人にはその意味が解ったらしい。そうか、と呟いて長門の頭を優しく撫でた。
「あの、一体どういう意味なのでしょうか。」
 耐え切れず問いかけたのは古泉一樹。
 それまで少年を見つめていた静謐な瞳が新たな質問者を視界に捉え、未だ本を掲げたままポツリと呟いた。
「離れて育った兄弟が出会う話。…わたしたちと同じ。」
 長門は淀みなく答えるのだが、それだけで解るのならば元より先の発言の時点で納得できているはずだ。
 眉根を寄せる古泉に、すると今度は対戦相手の少年から声がかかった。
「無理もないさ。お前が知りたい答えはお前の予想もしないものだからな。」
「あなたは全てご存知のようですね。」
「ああ。」
 少年の返事は肯定。
「それじゃあ改めて自己紹介とでもいきますか。」
 古泉がその台詞に対して「前後の文脈が繋がらない」と感じる前に、優しげな目で長門を一瞥した少年ははっきりと告げた。
「俺は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス完全自立思考/成長型。長門とはちょっと目的が違うんだが、この身体と意識がもっと前に作られたってことからすれば、俺はこいつの兄になるのかもしれんな。」















(08.03.28up)














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