■BLEACH/『伯爵』一護と刑事浦原(「Petshop of Horrors」Wパロ)/浦一・夜一護



「伯爵ー、いますかぁ?」
「おや、刑事さんではありませんか。お久しぶりです。」
 繁華街の一角にあるペットショップ、と言う名の薄暗い空間。その扉をくぐり地下へと続く階段を下りた先で浦原を迎えたのは、オレンジ色の髪をした日本人の少年―――この店の店長代理を任されている人物だった。
 この刑事を含め客は少年のことを「伯爵」と呼んでいるのだが、その地位は彼の祖父がイギリスで得たものであり、少年本人が爵位を持っているというわけではない。しかし店を訪れるものは皆、少年の名前を知らぬがゆえに、そして少年自身の雰囲気ゆえに彼のこともまた「伯爵」と呼ぶのである。
「伯爵は伯爵っスよ。」
 過去の話になるのだが、この店で扱っているものが店名通りの可愛らしいペットではなく麻薬や取り扱い禁止動物の類である――店の雰囲気もそちらの方がぴったりだ――という情報を耳にした浦原は、その証拠を掴むために伯爵の店へと足を踏み入れた。しかし伯爵は薄らと笑ってそれは誤解だと答えるばかり。浦原も目の前で購入されていくペット達がどれもこれも犬やら猫やら小鳥やらと言った一般的な動物ばかりであったため、今では麻薬云々の話をこの店に訪れる建前として使うようになっていた。
 ところで何故浦原が本来なら用事など無い店にわざわざ足を踏み入れるかと言えば、
「今日のお土産はこれっスよ。」
「おお!刑事さんっ!!」
 つい先刻まで老成した表情を浮かべていた少年が浦原の差し出した土産を見て年相応にキラキラと顔を輝かせたのだ。
「こ、これ!名店『ローラ・スイーツ』の開店三時間前から並ばないと手に入らない一日十箱限定特別チョコレートの詰め合わせじゃないですか・・・!」
「そうっスよ。良くご存知で。」
「これを私に!?」
「ええ。伯爵のために買ってまいりました。」
 本当ですか!?ありがとうございます!!と目元を朱に染めながら微笑む少年を眺め、浦原は頬を緩ませる。
 これだからこの店に通うことを止められないのだ。
 いつも澄ました顔の伯爵が洋菓子――と言うよりもチョコレート限定か――を前にした時にだけ無邪気な笑みを見せる。
 その様を初めて目にしたのはまだこの店が怪しいと心の底から疑っていた頃。捜査が進まない浦原はそれを見かねた同僚から伯爵が甘い物好きらしいと聞いて高級チョコレートを土産にしたのだ。好きな物で伯爵の口を軽くしろ、ということである。
 同僚のアドバイス通り、浦原の土産に伯爵はそれまで保っていた強固な微笑の仮面を呆気なく崩した。その顔に浦原は見惚れてしまい、今に至る。誰でもこの少年の「伯爵」という呼称に不似合いな笑顔を見てしまえば自分と同じように感じるに違いないと浦原は思うのだが、さて他の者はどうだろう。
「おいしいです〜ッ!さすが『ローラ・スイーツ』!先日お客さんが持ってきてくださったアレも中々でしたが・・・やはりこの近辺でチョコレートと言えば『ローラ』ですよねぇ。」
「おや。他のお客さんからも何かいただいたりしているんスか?」
「ええ。良いペットを紹介してくれたお礼に、とね。しかし・・・」
 チョコレートと同じように甘い表情となっていた伯爵だが、そう言い淀み、スッと双眸を狭めた。冷笑と言うべき顔付きになった彼は面白がるように口端をゆるりと持ち上げ、人差し指で唇をなぞる。
「どうかしたんスか、伯爵。」
「ふふっ・・・いえね。そのお客さんなんですが、かの有名な名俳優・結城浩次さんだったんですよ。」
「結城浩次・・・って、まさか。」
 ハッとする浦原に対し、良く出来ましたとでも言うように伯爵は微笑んでみせる。
「昨日、お亡くなりになったそうですね。」
「そうです。しかしまだ死因は不明・・・。死体の近くに落ちていたのは図鑑にも載っていないような珍しい模様の蜥蜴が一匹。・・・まさか伯爵、何かご存知なんスか?」
「結城氏の死因をね。」
「なっ、」
「でもお教えしても刑事さんは信じないと思いますよ?」
 浦原の表情の変化を面白がるように伯爵は目を更に細め、次いで内緒話でもするかのように声を潜めた。
「それでもお聞きになりますか?」
「刑事として、事件解決のために聞かないわけにはいかないっスよ。」
「そうですか。」
 そう言って伯爵は目を閉じ、顎の下で指を組む。黒く塗られた爪が白い手の甲と共に不気味なコントラストを生んだ。
 浦原の喉がごくりと鳴る。
「伯爵、もったいぶらずに。」
「やれやれ、せっかちですねぇ。・・・結城氏の死因は当店でご購入された蜥蜴の目を見てしまったから、ですよ。」
「・・・はい?」
「ほら、やっぱり信じてくださらない。」
 素っ頓狂な声を出す浦原に伯爵は非難と苦笑の合わさった笑みを浮かべる。しかしながら浦原にはそうする以外にない。なにせ蜥蜴の目を見ただけで死ぬなんて非現実的すぎる。
 そんな浦原の思考を理解しているがゆえに、伯爵は苦笑の色を強めて付け加えた。
「メデューサ、というのをご存知ですか?その目を見た人間は石となってしまうという生き物です。当店が結城氏にお売りしたのがそのメデューサでね。」
「それは神話の生き物じゃありませんか。」
「本当にそうだと、一体誰が証明を?」
 伯爵の目は冗談でそう言っているようには見えなかった。だからこそ浦原の背筋には冷たいものが走る。
「はく、しゃく・・・」
「刑事さん、どうやら顔色が優れないようですね。何なら奥で休まれていきますか?ああでも当店の奥は少々複雑な構造になっていますから、案内をお付けしましょう。・・・夜一、」
「え、あの・・・」
「にゃあ。」
「へ?」
 伯爵の申し出に戸惑っていると、店の奥から一匹の黒猫が現れた。
「この猫が夜一・・・?」
「猫・・・、そうですか。やはり刑事さんには猫に見えるんですね。」
「それはどういう、」
「いえ、お気になさらず。どうぞお休みになられるのでしたら夜一のあとをついて行ってください。私はそろそろいらっしゃるはずのお客様をお迎えする準備がありますので。」
 そう言って伯爵は浦原に背を向ける。黒猫と一緒に取り残されそうになった浦原は慌ててその後を追いかけ、接客の邪魔になると悪いから、と言って店を辞すことにした。しかしそれが本当の理由でないことくらい、伯爵には解っていたのだろう。彼は、そうですか、と苦笑した後こう言ったのだから。
「刑事さんだってこの店にも直に慣れますよ。今は少々、奥から嫌な感じを受け取っているでしょうが。単に当店で扱っている動物達がそれぞれの部屋で暮らしているだけなんですけどねぇ。」



□■□



「あの刑事さん、もう二度と来なかったりして。」
「さあ、どうじゃろうな。儂としては、ああいうタイプはもう一度来ると思うんじゃがのう。」
「俺としてもそっちの方がいいな。あの人、何かといいモン持ってきてくれるし。」
 店のソファに座り、店長代理である少年は薄らと微笑んだ。砕けた口調は年相応のものである。
 その向かい側に腰掛けるのは黒猫・・・ではなく、褐色の肌と黒髪、金の眼をした妙齢の女性。少年がその女性の名を呼んだ。夜一、と。
「あの人にもそろそろ俺の名前を教えてやるべきかな?」
「ほう。己の懐に入れるつもりか。・・・まあ、一度店の奥に放り込んでそれでもおぬしを慕うようじゃったら、教えてやっても構わんのではないか。」
「そうだな。んじゃ、そうしよう。今度来たら俺自ら案内することにするよ。」
「親切じゃのう、一護は。」
 そう言って、夜一は猫のように笑った。















■ハルヒ/天才キョン(「キミキス pure rouge」Wパロ)/古キョン



「・・・な、にを、」
「実験だ。」
 淡々とそう告げる、彼。
 しかしながら彼とは違って一般的である僕の頭はいきなりのことに全くついて来なかった。


 入学式を数日後に控えたある春の日。適当に勉強して適当に部活動に出て、そんな感じで高校二年生に進級した僕は空から舞い降りてくる紙飛行機に目を留めた。足元に着陸したそれを手に取ると、真っ白だと思っていたのが実は何かが印刷されたプリントの裏面で、僕は多少の興味を惹かれつつ紙飛行機を開く。
「これは・・・」
 昨年の三学期に行われた学期末テストの答案用紙。解答欄は全て空白だ。用紙の右上には当然「0」と赤ペンで記されており、一体誰のものかと思う。しかし唯一書かれた名前を確認した途端、僕は驚きと同時に納得した。
「彼のものでしたか。」
 独り言ち、脳裏に思い描くのは五組――僕とは違うクラスだ――のある生徒。IQ190以上の、我が北高創設以来の天才である。
 彼はそのIQの高さゆえか、高校レベルの授業に魅力を見出すことが出来ないらしい。したがって授業もサボりがちであり、成績を判断するのに重要なテストでさえ白紙で提出することも度々あるとか。去年も別のクラスだった僕が知っているくらい彼のその奇行は有名だ。
 そして、この紙飛行機(答案用紙)もそんな彼の気まぐれの結果なのだろう。
 折り目の付いたプリントを持ちながら色々考えていると、視界の端をまた紙飛行機が横切って行った。もしかしなくても、あれも彼の答案用紙なのだろうか。蒼穹をバックに滑空する白を眺めながら思う。
 天才と称される彼の目に世界はどう映っているのだろう。年齢と言う縛りに遭って退屈な時間を過ごすことを強要され、自分とは違う大多数の人間の中にその身を置かねばならない。それはやはり、辛いことなのだろうか。世界が色褪せて見えたりするのだろうか・・・。
 いつの間にか僕の足は校舎の方へと向かっていた。紙飛行機が飛ばされていたのは三階の端、理化準備室からだ。だからきっと彼もあそこにいるはず。でも僕は彼に会ってどうするのだろう。同じクラスになったことも無い、会話をしたことも無い、ただ僕が一方的に相手の名前を知っているだけなのに。
 答えの出ないまま階段を駆け上がり、理化準備室の扉の前に立つ。ずっと握っていた答案用紙がくしゃりと音を立てた。ああそうか、答案用紙を拾ったから届けに来たと言えばいいのか。どうしてそんな簡単なことすら思いつかなかったのだろう。
 深呼吸を一つしてから僕は目の前の扉を開けた。
 DNA二重螺旋構造の模型やら地学で使うらしい硝子ケースに入った鉱石やらが机の上に無造作に置かれている。その向こう、開け放した窓のすぐ傍で椅子に座っている影が一つ。気だるげに外を眺めているのは想像通りの人物―――彼だ。
「何か用か?」
 緩慢な仕草で外を眺めていた双眸が僕を捉える。同年代とは思えない達観した視線を受け、今すぐにでも謝って(何を、とは僕にすらわからない)この場を去りたくなってしまうのは仕方が無いことだろう。誰だって、彼のこの視線を受けてしまっては僕と同じ気持ちになるに違いない。
 けれどこの場に足を向けたのは僕。彼のことを気にしているのも事実なんだ。
「えっと・・・その、これなんですけど。」
「・・・・・・ああ、それか。わざわざ届けに来てくれたんだな。」
 おずおずと差し出した答案用紙を目に留め、彼は薄く笑ってそれを受け取る。一見、取っ付きやすく穏やかな表情であるけれど、僕は彼のその顔を見て自分の失態に気付いた。こんなもの、彼には不要だったのだ。
 要らない物だったから、彼は答案用紙を紙飛行機にして窓の外へと捨てていた。別に、誰かに届けに来て欲しくて、誰かの気を惹きたくてこんなことをしたわけではない。穏やかな表情の中にある面倒臭そうな瞳がはっきりとそう語っている。
 けれど僕はそれに気付かないふりをした。余計なことをしてすみませんと謝り、ここから直ちに去るという案を却下してしまった。何故、と訊かれても僕にはわからない。そうしたかったのだ、としか答えようがないのだ。
「あの、」
「まだ何かあんのか?」
「いや・・・えーっと、」
 この場を去る気にはなれない。けれどここに留まるための話題も何も無い。
 焦る僕を彼の瞳は淡々と見据え、言いたいことがあるなら早く言えとイラついているようにも、逆に僕など居ても居なくても同じだと無関心なようにも感じられた。もうどうにでもなれ、だ。
「どうしてテストを白紙で出すんですか。あなたほどの頭の持ち主なら楽に学年一位になれるでしょうに。」
「それは一年の三学期末で学年一位になったお前だからこそ言える嫌味か?古泉一樹。」
「そ、そんな意味では・・・!」
 名前を知ってもらえていたという事実に驚いたけれど、それよりも前に自分の発言で彼が嘲笑めいた表情を浮かべたことに戸惑う。けれど焦る僕をしばらく眺めた後、彼はフッと小さく笑った。そう、笑ったのだ。僕の見間違いでなければ、ほんの少しだけ楽しそうに。
「え、あ・・・?」
「悪い悪い、冗談だよ。そう焦るな。」
 目を眇め、彼は立ち上がる。僕より幾らか低い身長がごちゃごちゃと物の置かれたテーブルを迂回し、こちらのすぐ近くで立ち止まった。
「俺がテストを白紙で出すのはただの気分の問題だ。やる気が出ない、ただそれだけ。」
「でも勿体無いじゃありませんか。」
「勿体無い?こんなことに頭を使う方がよっぽど勿体無いんじゃないか。」
 その台詞は彼だからこそ意味のあるものなのだろう。だから僕が彼の言葉に頷くことは出来ない。
 それを解っているからか、彼は話題を切り替えるようにしてちょいちょいと手招きをする。
「なんでしょうか。」
「古泉、ここに立て。」
「あ、はい。」
 指示されて突っ立ったのは彼の目の前。もう一歩分くらいしか間が無い。
 気だるげだったその顔に今だけ違うものが混じっているように見えて、どうしてか僕はその事実が嬉しいような、ドキドキするような、不思議な心境に陥っていた。
「あの、一体何を・・・」
「必要なら目を瞑れ。」
「え、」
 何をするつもりですか、と問う前にネクタイを捕まれる。構えなんて当然していなかった僕の身体は彼に引っ張られるまま傾いだ。その先は―――。
 カチン、か、ガチン、か。擬音語なんてどうでもいいが、歯(唇?)に鈍い痛み。目を瞑り損ねた所為で眼前には冷めた瞳。そして痛みを訴えながらも唇がそれと同時に感じるのは湿った感触とやわらかさ。
「・・・な、にを、」
「実験だ。」
 淡々とそう告げる、彼。
 しかしながら彼とは違って一般的である僕の頭はいきなりのことに全くついて来なかった。
 僕のネクタイを解放した彼はキスしたばかりの唇に指を当て、思案するように視線を窓の外へと向ける。そして「おかしい」とか「心拍数の変化も無いなんて・・・」とか、先刻の出来事には不似合いなことばかり呟くではないか。一体何なんだ。
「どういうことですか、今のは。」
「言っただろ。実験だ、って。学年一位がそんなことをわざわざ訊くな。」
「だ、だってキスですよ!?僕達、初めて会話した間柄で・・・しかも男同士じゃないですか。」
「なんだ。嫌だったのか。それはすまないことをした。じゃあこの実験は続行不可ってことだな・・・。」
 最後の方は僕に聞かせるためではなく自分の世界に入り込みながら。いやそれよりも"続行"って。もしかして僕が嫌がらなければ今後もこうやってキスをするつもりだったんですか。
「そうだが、何か問題でもあるか?それにお前が嫌がるなら無理強いはしない。この実験を途中放棄してしまえばいいだけだからな。」
「別に嫌だとは・・・」
 って、何を言ってるんだ僕は!?
 同性にキスをされて嫌じゃなかった?そんな、まさか。いや、でも想像するような嫌悪感は全く無かったし・・・。あれ?ちょっと待ってくれ、一体どういうことなんだこれは。
「嫌じゃなかった?それならまたこの実験に付き合ってくれないか。俺一人じゃどうにもならんものだからな。」
 気だるげな瞳が少しだけ楽しそうに揺らめく。
 だから、なのか。僕は真っ赤になっているであろう己とは対象的に平素のままの彼を見つめて首を縦に振っていた。















■ハルヒ・BLEACH混合/役者設定/古キョン・浦一



「あ、いっちー?久しぶりー。」
 ドラマの撮影を終えてスタジオから楽屋へ戻る途中、見かけた顔見知りにわざとあだ名で呼びかけると、そいつはなんとも嫌そうな顔で振り返った。
 まあまあ、眉間に皺寄せんのはやめておけって。お前のその生まれつきらしいオレンジの髪と合わさって、なんとも不良っぽい雰囲気になるから。
「だったら最初からそんな呼び方すんなっての。」
 溜息混じりで"いっちー"こと黒崎一護は呟いた。
 その様子を苦笑しながら見守る金髪の男性は・・・浦原喜助さん、だっけ?
「おう。俺が今やってる『BLEACH』ってドラマで共演してんだ。浦原、こいつはキョン。『涼宮ハルヒの憂鬱』っていうドラマの・・・」
「ああ、彼でしたか。一護サンのお友達というのは。」
 にこにこと品の良さそうな笑顔を浮かべてそう答える浦原さん。うーむ、やっぱり大人って感じがするなぁ。古泉、お前もいい加減俺の横で固まってないでいつものスマイルくらいはやっておけよ。
 視線を正面から右に向けるとドラマで共演中の古泉一樹の姿。ただし奴は現在、愛想笑いの欠片も無く、俺を凝視して唇をわなわなと震わせていた。一体何なんだ、その世界の終わりでも来たような表情は。
「だ・・・だってあなた、彼のことを"いっちー"と・・・」
「それがどうした。お前にとって何か問題でも?」
 呼ばれて嫌がる黒崎本人ならともかく。
「問題!?大有りですよ!!」
 人前であるにもかかわらず古泉は俺の両肩をガシリと掴み・・・ウザイとか言ったら駄目かな。ってか顔が近い近い近い!離れろっ!!黒崎は呆れてるし、浦原さんなんて「おやおや」とか言って驚いて(笑って)るぞ!?
「そんなことはどうでもいいんです。」
「言い切ったな、お前。」
 すまん黒崎。申し訳ありません浦原さん。こいつには後で俺からよっっっく言い聞かせておきますんで。
 古泉は俺の肩を掴んだまま間近で真剣な表情を作り、そして。
「他の男のことはあだ名で呼ぶのに、どうして僕のことを"いっちゃん"と呼んでくださらないのですか・・・!」
 同じ『い』がつくだけに悔しさも倍増です、と力強く語るこいつを、俺は今すぐぶん殴っちまっても構わないだろうか。
 なあ、どう思うよ黒崎。



□■□



 本日の仕事を終えて帰宅するためにテレビ局の通路を歩いていた時、突然顔見知りに呼び止められた。俺と同じ年齢で、俺とは別のドラマの主役をやっているキョンと言う奴だ。それにしても、あいつの隣にいた美形の反応は面白かったなー。確か古泉一樹って言ったっけ?キョンと同じドラマに出てる。
 俺が知る限りでは王子様然としたいつも笑顔の絶えない優男だってのに、キョンが係わってくるとあんな顔になっちまうんだもんな。いいモン見たぜ。
「一護サン?何考えてるんスか。」
「さっき会った奴らのこと。」
「・・・キョン君と古泉君、ですか。」
「そ。」
 浦原が運転する車の助手席に背中を預けたまま、隣の奴の問いかけに答える。しかしながら浦原、どうしてそこで不機嫌そうな顔をするんだ。アンタは。
「俺がアンタと二人きりの時に他の男のことを考えてるのが気に入りません、ってか?」
「解ってるなら止めてくださいよ。アタシ、嫉妬深い男なんスから。」
「それはよく知ってる。」
 そう答え、次いで苦笑。
 知ってるよ。内も外もきっちり大人なアンタが何故か俺に関してのみ子供っぽい嫉妬心に駆られやすくなるってことくらい。
「困ったモンだな。」
「それだけキミを愛しているってことっスよ。」
 赤信号で車を止め、こちらを向いた浦原が淡く微笑む。こういう顔は、ああ敵わない、って思える大人の男のものなんだけどなぁ。
「・・・・・・・・・・・・って、このバカ。ここはアンタの家じゃねーんだぞ。誰が見てるかわかんねぇのに。」
「見たい奴には見せればいいんスよ。キミとアタシのキスシーンくらい。」
 ゼロ距離になっていた顔を離し、囁く声は本当に上機嫌なもの。キス一つでそうなるなんて、アンタも安い奴だな。
「一護サンのキスにはそれだけの価値があるんスよ。」
「あーはいはい。そうですか。」
 と言うわけでキョン。
 お前も大変そうだが、俺も実は少々厄介な恋人がいたりするんだ。実は。















(08.01.04up)














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