「拍手文 9」の続き、ハッピーエンドバージョン。
オリキャラ注意。






終末来たりて再び始まる/終末来たりて再び始める












4(黒崎一護/クロサキイチゴ)



夢か現か、そこは妙に居心地が良かった。
熱くもなく寒くもなく、痛い所も無い。
まるで羊水の中のようなその空間で優しく護られているのがわかる。
ふわりふわり。この身は僅かに浮かんだり沈んだり。
全身を包む生温かい感覚に酷く眠気を誘われる。
瞼を開いているのか閉じているのか、それすら曖昧。
ただ、眠い、と全身が訴えていた。
このまま意識を手放せたらきっと心地良いだろう。
しかしそんな言葉が浮かんできていた脳内に突如、異音が混じった。


黒崎サン。』
(なんだ・・・?)

スッと眠気が引いていき、微かに感じる音を明確に捉えようと意識がそちらへ向く。


黒崎サン一護サン聞こえてるお願いだから起きてください。


確かに何か聞こえる。
でもはっきりと聞き取れない。
音が小さいだけなのか、それとも俺の聴覚がおかしくなっているのだろうか。
でも、それでも何となくだけれど、とても優しい音だと思った。
同時に、聞いてる此方が胸に痛みを覚えるほど切ない音だとも。


アタシをもう一度見てくださいよキミのその力強い瞳で。』


誰かが俺に語りかけてきているのか。
そう感じて、俺は声の主に応えよう口を開く。
しかし。

(・・・あ、れ?)

体が動かない。
顔の筋肉はピクリとも反応せず、声を出そうと思っても喉が震えない。
何度やっても、他に何をやろうとしても体が反応してくれない。
自身の異常に気付いた途端、俺はとてつもない恐怖に襲われた。
安らぎを感じていたこの空間すら恐れの対象へと変わる。

(・・・っ、なんだ、これ!?)

嫌だ。こんな所にいたくない。
誰か此処から出してくれ・・・!


パニックに陥った俺は訳も分からずもがく。足掻く。
その時、思い通りにならない体の代わりに内から沸き上がってくる力があった。
巨大な、白い本流。俺の霊力。
感情に任せて暴走したそれに気付いたが既に遅く、力は外に向かって爆発した。
そして―――。















5(浦原喜助/ウラハラキスケ)



光を放つ培養槽に向かって語りかけていた時、突如として計器が異常を知らせた。
それと同時に感じたのは『彼』から溢れだす力の本流。
今まで一度も無かった事態に何事かと『彼』を見れば、オレンジ色の髪が揺蕩う培養槽の中、ピクリとその指先が動いたような気がして私は瞠目する。

「一護、サ・・・・・・ッ!?」

次の瞬間、名前を呼びきる間も無く、彼の内から溢れ出る霊圧によって強化ガラスの壁面が激しく砕け散った。
咄嗟に腕で体の重要部は庇ったものの、至近距離で鋭利な刃物と化したガラス片は鋭い痛みと共に此方に突き刺さってくる。

(一体何が・・・。)

培養液で濡れそぼったまま腕を退けて私は前を見た。
そして息を呑む。

「・・・ッ、」

音として聞こえたのは自分のものか、それとも彼から零れたものか。
培養槽があったはずの場所に、今は彼が膝をついていた。
片手は体を支えるためか、床に。
そしてもう片方の手を喉元にやって何度か咳き込む。

「ゴホッ・・・、ぐ、ぁ。ガハッ!」



ぴしゃっ

ばしゃばしゃ



彼から吐き出されたのは水よりもやや粘度の高い液体。酸素や栄養を供給していた培養液そのもの。
私は痛みも忘れて手を伸ばす。
長く伸びた髪はべったりと彼の体に絡みつき、ただでさえ俯いていて見え難い表情を更に確認し辛くしていた。
それを、まるで壊れ物を扱うように細心の注意を払って退ける。
指の感触に気付いたのか、肺に溜まっていた液体を吐き終わった彼がそこで初めて私を見た。

「あんた、は・・・」

視界が明瞭ではないのか、しきりに瞬きを繰り返す彼。
私が誰か判らないのだろう。
表情と、今は収まりつつあるその霊圧に訝しげな色が混じった。

「黒崎サン、わかります?アタシっスよ。浦原商店の浦原喜助です。」
「ぅら、はら?・・・うらはらさん?」
「ええ。だから安心してください。此処には、キミを脅かすものは何一つありません。」
(藍染も破面も、何もいませんから。)

そう言って細身の濡れた体を抱き締める。
歓喜に暴走する感情を何とか押さえ込んで、出来るだけ優しく。彼が安心できるように。

「・・・そっか・・・・・・よかった。」

肩口に額を押し付ける格好で少年がポツリと漏らした。
そして安堵の息をついたその身はくたりと力を無くし、此方に気を失ったのだと知らせる。



「一護、サンッ・・・・・・一護サン・・・!」

何百年ぶりにその声が聞けたのか。
何百年ぶりにその瞳に映ることが出来たのか。
止まっていた時間が動き出すような喜びと幻ではない確かな感触に、頬を培養液ではない何か熱いものが伝ったような気がした。















6(黒崎一護/クロサキイチゴ)



俺が“あそこ”から出てきて数日ほど経った。
現在いる場所は静かな和室に敷かれた布団の上。
長い間動かしていなかった体は急な活動に耐えられないらしい。
だからまずは培養槽から出てきたばかりのこの身を外気に慣らし、そして少しずつ元の状態に戻れるようリハビリを行うのが良いのだそうだ。
とは言っても、ずっと眠っていた俺に時の流れが分かるはずも無く、己の体が少々動かし辛いということ位しか認識できなかったのだが。
そして体を慣らすという名目で時間を持て余していた俺は、浦原さんから俺が培養槽に入る切欠となったことと、眠っていた間に起こった出来事を(あらまし程度だが)教えてもらっていた。

「藍染を止められたのは良かったけど・・・どんだけ眠ってたんだ、俺。」
「でもまだマシな方なんスよ?もしかしたらキミ、力の使い過ぎで魂ごと消滅してたかもしれないんですから。」
「・・・う。まぁあン時はそうするしか方法が思いつかなかったからなァ。・・・・・・浦原さん?」

俺的時間の流れとしてはついこの前の、本当の時間の流れとしては随分昔のことを思い出して苦笑すれば、目の前の師匠でもある男の表情が僅かに曇った。
名前を呼んで顔を覗きこむと不思議な色合いをした瞳とかち合う。
現世にいたころは殆ど帽子で隠され見ることが叶わなかったそれに、ふと胸の違和感を覚えた。

(・・・?まぁいいや。)

自分の異変よりもまずは相手のこと。
脱線しかけた思考を元に戻して俺はもう一度浦原さんの名を呼んだ。

「浦原さん?どうかしたのか?」
「今こうやって目覚めることが出来たから軽く言ってられますけど、本当に心配したんですよ。」

浦原さんはそう言って困ったように笑う。

「キミは他人のことばかりで自分を全く省みない。確かにアレはキミにしか出来ないことだったかもしれませんが、それでもやっぱりキミがいることを望む人達は沢山いるんです。」
「悪ィ。」
「ああそうじゃないんです。キミを責めるつもりは無い。・・・ただ、皆キミが大切なんです。それを解っておいてくださいな。」
「・・・ああ。」

微笑みながらそう言われ、顔に熱が集まってくるのに気付いた。
布団の上で上半身を起き上がらせた格好のまま浦原さんの話を聞いていた俺は恥ずかしさに染まった顔を隠すように俯く。
横では小さく吐息を零す笑い声。
そこは培養槽の中にいたときよりも、もっとずっと優しい空間だった。






「あ。黒崎サン、お腹減ってきません?軽いものなら今すぐ用意出来ますけど。」

お昼時、ふと掛けられた声に俺は違和感を覚えた。
内容自体におかしな所は無い。それでは何故・・・。
そう考えて思い至った一つの事柄に、俺は眉間の皺を深める。

「黒崎サン?」

此方の表情を見てか、浦原さんは不思議そうに俺を呼んだ。
また、眉間の皺が一本増える。

「どうかしたんスか?」
「・・・・・・一護でいい。」
「はい?」

僅かに見開かれた双眸と視線を合わせてハッキリと告げる。

「その呼び方。確かに前は黒崎サン呼びだったけど、今はもういいから。・・・アンタなんだろ?眠ってる俺にずっと語りかけてきてくれたの。・・・一護サン、て。」
―――だから今更俺の前でわざわざ訂正してくれなくてもいい。

そう言った俺に、浦原さんは喜んでいるのか困っているのか、此方としても判断し辛い表情を作る。
だが俺の方はそんな彼を見ていると自然と笑みが零れた。

夢現の中で聞いた声。
今思えば、あれは浦原さんの声だった。
そして優しく、時に切ない声音で呼ばれていたのは俺の名前。
一護サン、と。

思い出すだけでこの胸が満たされるような気がする。
だからまた呼んで欲しくて自分はわざわざこんなことを言っているのかも知れない。

(そりゃまぁ何百年も呼ばれてたらそっちの方が慣れるのは当たり前かもしんねぇけど。)

胸中でのみ苦笑して「な?」と同意を求めてみる。
返って来たのは俺が初めて見る照れくさそうな笑顔だった。




「浦原さん。俺、お腹空いた。」
「今すぐ何かお持ちしましょ。大人しく待っててくださいね、一護サン。」
「おう。」















7(紺野樹/コンノイツキ)



浦原局長が技術開発局にいらっしゃらない。
そんな状態がこのところ続いていた。
色々な憶測が飛び交う中、正確な理由は不明。
最初、僕は単に体調を崩したのか、とも思ったがどうやら違うらしい。
ただ私的な用事があって屋敷を離れられないとか何とか。
助手で、しかも“あの部屋”にまで付き添っていた僕ですらそれ位しか知らなかった。
でも・・・そう。あの部屋。
浦原局長が定期的に訪れていた――鍵を持っているのは局長なのだし、もしかしたら僕が知らないだけでしょっちゅう行っていたのかも知れないが――あの部屋にはもう何日も入っていない。
今までは検査という名目で定期的に訪れていたのだが、それがぱたりと止んでしまっていたのだ。
だから僕は愚かにも「もしかして・・・」と考えてしまうのだろう。
もしかして『彼』が目覚めたのではないか、と。

そんなことを日に何度も思い出し、僕はその度に頭を振った。
けれど気持ちは膨らんでいくばかりでちっとも払えやしない。
一度だって見たことなど無いのに目を閉じれば流れ出す映像。
それは、培養槽の中で漂っていた鮮やかな色の髪が自由に風の中を泳ぐ様。
瞼の奥に隠された瞳の色がゆっくりと露になる様。




「・・・って、ああもう。まただ。」

数枚の書類と向かい合ったまま僕はうんざりと呟いた。
一つ溜息をついてから、こめかみをぐりぐりと刺激してぼんやり気味の頭をハッキリさせる。

「休んでる局長の分もやれるだけやっとかなくちゃいけないってのに。」

副局長と分担して書類整理に当たっていたのだが、言ってる傍からトリップしてしまっていた。
まだ殆ど手のつけられていないペラペラの敵を半眼で見つめて二つ目の溜息。
机上の仕事など決して嫌いでは無いはずなのに、今日は・・・否、『彼』の目覚めを疑ってからはずっとこんな調子が続いている。

「集中だ集中。こんなのちゃっちゃとやっつけて早くラボに行かないと。・・・・・・・・・あれ?」

手にとった書類の中に一枚、他とは違うものを見つけて僕は軽く目を見開いた。
紙質はどれも同じなのだが、それだけ唯一人の署名を必要とするものだったのだ。
僕の権限でも、そして副所長の権限でも駄目なそれは、浦原局長の署名でないと上に回せない代物。
珍しくこんなものが回ってきた時に肝心の人がいなのだから、本日三度目の溜息が早々に口から零れ落ちる。

「えーっと、期限は・・・今日か。」

良くないことは続けてやってくる、とは誰の言葉だったか。
ただでさえ最近顔を見せていない人だと言うのに、こんなもの絶対間に合うはずがない。
どうしよう、と頭が回りだす。

と、その時。
僕はふと一つのことを思いついた。

(これを理由にすれば、局長の御宅を伺える・・・?)

あわよくばそこで彼の人が何をやっているのか判るかも知れない。
可能性は少ないがやってみても構わないだろう。
どうせこの書類は局長の署名を待っているのだし。

そう思い立った僕はすぐさま準備をして技術開発局を出た。









知らないことも無いが行き慣れない道のりを進み、ようやく辿り着く。

(相変わらず大きい家だなぁ。)

門を見上げ、胸中で一言。
血筋も決して悪くないらしい局長のお屋敷は彼の立場に見合う素晴らしいものだった。
敷地面積は勿論のこと、外壁や門に施された細工は素人目にも相当のものだと知れる。
しばし此処まで来た目的を忘れ感嘆の吐息を漏らしていた。
だがそうそう長く呆けていられるはずもなく、意識を呼び戻した僕は門の横に取り付けられたインターフォン――門番を置くのではなく機械任せにしているところが局長らしい――に向かって呼びかける。

「技術開発局の紺野です。浦原局長に至急見て頂きたい物があって参りました。お目通りをお願い致します。」









迎えはすぐに来た。
何度か顔も合わせたことがあるテッサイと呼ばれる巨漢に案内され、奥へと進む。
そしてある部屋に通されると此処で待つよう言われた。

「浦原様をお連れしますので、今しばらく。」
「あ、はい。すみません。」

返事を返すとその男は大きな体に見合わず音一つ立てないまま障子の向こうに姿を消す。
しかし音は無くとも霊圧を辿れば、おそらく離れの方に向かっているのだろう、と見当がついた。
珍しいこともあるものだ。
大抵の場合、浦原局長を連れてきてもらうときにテッサイ殿が向かう先は離れとは別方向にある研究室なのだが・・・。

(誰かお客さんでも来てるのかな。)

もしかすると局長が休んでいる理由である“私的な用事”とはこの事か。
そんな考えを巡らしながら待つこと十数分。
決して此処からは遠くないはずなのにすぐに来られなかったのはやはり客人のためかと自分の想像に幾らかの確信を強めて、僕は久しぶりに姿を見た浦原局長に頭を下げた。

「お久しぶりです、浦原局長。いきなりお訪ねして申し訳ありません。」
「・・・いいっスよ。別に。・・・で、仕事のことですか?」

返答の前に一瞬の空白。
かなり判り辛かったが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる局長がいた。
しかしそれもすぐに消え去っていつもの姿に戻る。
僕もその変化に驚いたがあえて気にせず、局長の前に技術開発局から持ってきた一枚の書類を差し出した。

「これ、局長の権限じゃないと無理なんです。しかも締め切りが今日で・・・」
「あー・・・それはそれは。わざわざ申し訳無いっスねぇ。・・・それ一枚だけ?」
「はい。あとは副局長と僕でなんとか。」
「世話かけますね。それじゃァぱぱっと此処で片付けちゃいましょうか。」
「お願いします。」

言って、局長はすぐさま書類に目を通す。
眼球の動きが並じゃない。
よくアレで内容理解出来るな、と思うのだが、それでなければ技術開発局の局長なんて職には就いていなかっただろう。
感心と尊敬と僅かな呆れでその様を見守っていると、あっと言う間に読みきってしまった局長がテッサイ殿から筆を受け取って(何処から出してきたんですかテッサイ殿・・・)さらさらと自身の名前を書き終えた。

「はいどうぞ。」
「ありがとうございました。」

戻ってきた書類を受け取り、礼を言う。
と、その時。
僕はふと違和感を覚えた。

(霊圧・・・?)

いつも気配の希薄な浦原局長から、今だけは霊力の流れのようなものを感じる。
局長自身のものかとも思うがそれも違う。
冷めた月か刃のような局長の霊圧とは違い、目の前の人物が纏っているのはもっと優しくて暖かなものだった。
まるで太陽を思わせるような・・・。



「樹クン?」
「っ、あ。はい!何でしょう!?」
「どうしたんスか。ぼうっとして。」
「いえ、何でも無いんです!お邪魔してしまってすみませんでした。・・・それじゃあ僕はこれで。」
「ええ。」

落ち着いた局長とは違い、あたふたしながら腰を上げる。
ぺこりと御辞儀すれば、「では・・・」と言ってテッサイ殿が門まで送る仕草を見せた。

「局長、あまり休み過ぎないでくださいね。局長がいないと回らないところって沢山あるんですから。」
「わかってますよ。でももう少し、ね。」
「・・・?そうですか。」

飄々とした、でも含みのある物言いに首を傾げるが、局長のことは考えても無駄なので促されるままテッサイ殿の後に続く。
しかし部屋を出て廊下を数歩進んだところで僕も、そしてテッサイ殿も足を止めた。

「なん、ですか。この霊圧・・・」

視線をやった先には先程局長がいたであろう(つまり局長の客人がいるであろう)離れがあるはず。
そこから感じるのは目を剥くような霊圧だ。
浦原局長が纏っていた微かなそれを思い切り強めたものが突然、感知出来るようになった。

「・・・御自身で出て行かれるとは。結界が無駄になってしまいましたな。」

テッサイ殿の呟きで“突然”だった理由に気付く。
どうやら元々高い霊圧の持ち主がいたのだが、結界でそれを外から隠していたらしい。
だがそれに関する疑問は解決されても好奇心は消えなかった。

一体誰なのだろう。
こんな強くて眩しくて、そして暖かな霊圧の持ち主は。

視界に浦原局長が映った。
僕らと同じく霊圧を感知して部屋から出てきた局長は「あの子は・・・」と仕方なさそうに零しながら頭を掻く。
その間にも近づいてくる霊圧の持ち主。
此処と離れにそれほど距離は無い。
だからその人物が姿を現わしたのもすぐだった。



「浦原さーん、ちょっと言い忘れてたことが・・・って。あれ?」

そして僕は息を呑む。
穏やかな声のその人は紺色の浴衣を身につけ長い髪を後ろの低い位置で一つに纏めていた。
その、髪の色が。


「貴方は・・・」

「一護サン、まだ万全じゃないんですから一人で出ちゃ駄目だって言ったでしょ?」
「悪ィ。でももう結構いけると思うんだけど・・・。それはともかくお客さん?もしかしなくても邪魔しちまったか?」
「もうお帰りになるところですから大丈夫っスよ。」

局長は僕が今まで見たことの無いような穏やかな表情で『彼』のオレンジ色の髪を撫でた。
『彼』はくすぐったそうに目を細めるが、僕の存在に気付いて「子ども扱いすんな。」とその手を払う。
そしてその瞳で僕を見た。

「えっと、すみませんでした。お邪魔してしまって。」
「・・・いえ、あの。黒崎一護さん、ですか?」
「はい。そうですけど?」

浦原局長に対するものよりも少し丁寧な口調で彼は、黒崎さんは答えた。
どうして自分の名前を知っているんだろう、と琥珀色の瞳が訴えている。

「浦原さん、この人は・・・」
「助手っスよ。技術開発局のね。」
「へぇ。」

「こ、紺野樹と申します。はじめまして。」

渋々と言った様子で局長が僕のことを紹介し、僕は黒崎さんに頭を下げた。
緊張のあまりどもってしまったことは無視して欲しい。

「こちらこそ、はじめまして。」

黒崎さんはそう言って眉間に皺を寄せながら笑う。
伝わってくるのは彼そのものを示すような暖かい霊圧。
それを受けながら僕は思った。

あぁだからか、と。

局長が休んでいたワケ。
その本人が苦虫を噛み潰したような複雑な表情を浮かべつつも幸せそうなワケ。


(良かったですね。局長。)


そうして僕も笑った。















8(番外編)(朽木ルキア/クチキルキア)



あの男を殴ってやりたいのは山々だったが、私はまず力いっぱい『彼』に抱きついた。


「・・・一護ッ!!」


その霊圧を感知した時、私は気のせいだと思った。
その姿を視認した時、私は幻覚だと思った。
その声を耳にした時、私は幻聴だと思った。
彼はもういないのだと。一護はもういないのだと思っていたから。

でも違った。
一護は此処にいた。

手に伝わる確かな感触に涙が止め処なく溢れだす。
誰が見ていようと構いやしない。
私は私が思う侭に一護の体を抱き締め続けた。


「ルキア、」
「莫迦者!私がどんな思いをしたと思っている!?私が・・・ッ!」
「・・・その、悪かったな。」
「謝るなっ!そんな言葉など欲しくない!」

優しい言葉が降ってきて、優しい手の平が頭を撫でる。
まるで幼子に対するような仕草だが、今は体がその優しさと温もりを果てしなく渇望していた。
心が満たされていく。
あの頃と変わらぬ黒崎一護と言う存在によって。

(変わったのは髪の長さくらいか・・・。)

一護の胸に顔を埋めて泣きながら、彼の背に回した手に当たる感触にそう思う。
眩しいくらい鮮やかなオレンジ色は相変わらずだが、元は短髪だったのが今は腰に届くほど長く伸びていた。
でもそれ以外は全て同じ。
私が知っている黒崎一護だ。


「・・・おかえり。一護。」
「ああ。ただいま、ルキア。」













「ちょーっと、お二人サン。アタシ無視して世界作らないでくださいませんか?」
「なっ!せ、世界って!?アンタ何言ってんだよ!俺はただ・・・!」
「浦原、邪魔をするな。貴様はさっさと何処かに行っておれば良かろう。私はもうしばらく一護を堪能するからな。」
「る、ルキア!?お前もいきなり何を、」

折角一護と再会の抱擁を交わしていたのに無粋な邪魔が入った。
私は男こと浦原を睨み付け、しっしと手で合図する。

「一護サンを甦らせたのはアタシっスよ。」
「だからと言って一護がお前のものになるわけが無かろう。それより、散々一護の身を独占していたのだ・・・私にもこれくらいの権利はあるはずだろう。」
―――な、一護。

最後は一護の顔を見上げて賛同を求めた。
同意を求められた本人はと言えば返答に困ってまともな単語を声に出せないようだ。
「あ」とか、「え」とか、「その」とか。そんなものばかり。
目元も羞恥に染まり始めている。

そんな彼の様子に私は声を上げて笑った。
本当に、何百年かぶりに。
心の底から。















実はルキア女史が既に隊長羽織保持者だったりするんですが、その設定本文中に全く出てないです。

・・・この後、一護が死神業復帰でルキアの副隊長になるとか?浦原氏は既に引退してますしね(笑)


補足

一護が「外」に出てきたのは本人の意思。

とりあえず今までの経緯を現在の総隊長に話して死神業に復帰するつもり。

そんでもって、一番隊隊舎を突撃訪問する途中にルキアと遭遇。

きっとこの後まだまだいろんな人と会うことが予想されます。

大きくなった冬獅郎とか、いつまで経ってもあのままな乱菊さんとか、ちょっと老けた恋次とか(ェ)


(07.03.26up)















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