エイプリルフール話
「・・・う。おき・・・・・・さい。・・・う。」 ゆさゆさ。ゆさゆさ。 夢現の境界線上で大きな霊圧に包まれる。 「おきて・・・さい。たい・・・ょう。」 ゆさゆさ。ゆさゆさ。 声は、己を呼んでいるのか。 起きろと促す声に従って浦原はゆるりと目を開けた。 視界に映るのは死覇装を纏った愛しいあの子。 「黒崎サン・・・?オハヨウゴザイマス。」 「お早うございます。」 ニコリ、とあの子が微笑む。 眉間の皺はそのままだが、彼の魅力を損ねるものでもない。 かえって一層引き立たせるほど。 けれどそんな彼に違和感。 そもそも、なんで丁寧語――― 「浦原隊長。今日も判子待ちの書類が山ほど来ていますので頑張ってくださいね。」 「・・・はい?」 ちょっと待って。今、聞き捨てならない単語があったような。 一瞬スルーしかけ、そのあと一瞬固まり、そして解凍してから、浦原は目を瞬かせた。 そんな浦原に一護はクスリと苦笑して「寝ぼけてらっしゃるんですか?」と、また丁寧語。 「もしかして可笑しな夢でも見られました? 技術開発局創設者にして現局長、そして護廷十三隊十二番隊隊長を兼任なさってる浦原喜助様?」 長ったらしい役職名を並べ、一護は脇に置いてあったものを差し出す。 呆気に取られている浦原は素直にそれを受け取ってしまい、一護の「俺は外で待っていますので。」という声の後、ようやく我に返った。 「・・・・・・。」 手元には黒綸子の死覇装と背に「十二」と書かれた白羽織。 記憶にあるものと寸分違わぬこの二点を見て、浦原は「はい?」と再度呟く。 障子の向こうには一護の気配。 己がこれに着替えるのを待っているのか。 「アタシ、まだ寝ぼけてるんスかねぇ。」 なんで隊長。なんで死覇装。 自分は現世で商店を営んでいたのでは? しかもあの子は部下じゃなくて、現世で死神業代行中の人間ではなかったか? 「・・・いやまぁ、とりあえず。」 悩んでいても仕方がない、と浦原は羽織を置いて死覇装に手をかけた。 「黒崎サーン?」 「・・・・・・・・・・・・本当に着ちまったよこの人。」 障子を開けて姿を見せれば、一護が目を点にしてそう言った。 「えーうわ、ちょっとアリエネー。寝起き効果?スゲェよ本当。・・・なぁ写メっていい?」 そして浦原が何かを言う前に懐から取り出した携帯電話でパシャリ。 擬似シャッター音の後、一護は感嘆の息を漏らす。 曰く、格好良い、だそうだ。 「えーっと。・・・容姿を誉めていただけるのは嬉しいんスけど、一体どういうことっスか・・・?」 戸惑う浦原に一護は「ん?」と顔を向け、先刻と同じようにニコリと微笑んだ。 「浦原、今日は何月何日だ?」 「昨日で三月が終わりましたから、四月一日ですよね。」 四月一日。その日の別称は。 「・・・四月馬鹿?」 「ご名答。」 やられた。 浦原はヘナリと苦笑を浮かべた。 その後 浦「そう言えば、アタシの死覇装とか羽織はどうしたんスか?」 一「ああソレ?テッサイさんに言ったら貸してくれた。 んで、お前の現役時代の様子については夜一さんに教えてもらった。」 浦「・・・あの二人。」 一「実に興味深かった、とだけ言わせてもらうぜ。(ニヤニヤ)」 浦「一体何を吹き込まれたんですか・・・!(ガクリ)」 浦「・・・でもまぁ、」 一「ん?」 浦「せっかく着たんですから何かいつもと違うことやりたいっスよね。」 一「例えば?」 浦「イメージプレイとか。」 一「(石化)」 浦「アタシが隊長なら黒崎サンは副官っスねv 上官命令は絶対ですよv」 一「・・・うぇぇぇぇえええ!?(石化解除&マッハで後ずさり)」 浦「さぁさぁ黒崎サン・・・それとも“一護”呼びっスかねぇ。 アタシを騙した分、きっちり償ってもらいますよvv」 一「やるんじゃなかった!」 (終) |