最愛の手駒













「おい、もっと足開け」
「無茶言わないでください。私、身体硬いんですから」
「ちっ」
 素っ気無いそんな返答に思わず舌打ちが漏れた。これなら最初から四つん這いにさせとくんだったぜ。とは思いつつも、正面からいっちまったのだから今更どうにもしようがない。それに今日はなんとなくこいつの快楽に歪んだ顔を正面から見てみたかったのだ。この、『死神』と言われる人間の顔を。
「なんですか」
「気にするな。……ほら、指舐めろ」
「今回もですか? どうせならローションとか用意してくださいよ。唾液だけっての、結構辛いんですからね」
「じゃあお前が用意しとけ」
「……それが上官命令なら」
「可愛くない」
「当然です」
 二人とも真っ裸でそういうコトをやってるって言うのに、会話には全くもって色気が無い。でもその原因の大半はこいつにあると俺は思うね。俺のことちゃんと上官とか言っておきながら、こういう行為の際には全然そんな様子を見せやしねえ。ま、やってることがやってることだから、相応しくないわけでもないんだろうけどよ。
「にしても、お前って細っこいよなぁ」
 正面向いて組み敷いた身体は成長期を終えた俺と比べてあまりにも細い。これから伸びるって気配を見せるその身体は骨ばかり伸びて筋肉の成長が追いついていないのだろう。妙に筋張っていた。
 確かこいつは現在15だったはず。更に俺の記憶が正しければ、来月にやっと16になるはずだ。俺だって21歳の割には准将だなんて立派な位を頂いちゃいるが、まだ16にもなってねぇこいつがまさか少佐の地位で何千って兵士達を操る作戦を立てる人間だとは思えねえわな。
 が、これが事実。しかもその能力の高さと作戦の残酷さ――効率が良すぎるとも言い換えられる――ゆえに、敵味方問わず『死神』だなんて呼ばれ始めている。上層部がこいつの情報開示を頑なに拒む所為で、その勢いは増す一方だ。
「いいんですよ、これからしっかりして来るんです」
 俺の思考を遮るように、やや遅れて奴がそう答えた。顔はそっぽを向き、これまた筋張った首が露わになる。少年特有と言うべきか、危うい均衡を保つその身体に、俺の喉は意図せず唾を飲み込んでいた。そして誘われるまま、その首筋に顔を埋める。
「……っ」
 強く吸い、顔を離せば赤い痕が付いていた。その刺激に息を呑んだこいつも、俺が何をしたくらいかは判っているのだろう。ギリギリ制服で隠れる箇所へとつけられたそれに、苦い顔を浮かべていた。それを見て俺はふと吐息だけで笑う。
 この年若い死神は俺のもの。俺の下で俺の軍を動かすために、俺の軍の敵を殺すために作戦を立てる愛しい死神だ。
「ほら、指」
「……わかりましたよ」
 改めて口の前に指を差し出し、それを含むよう指示する。奴も、いつまで問答していたって無駄だし、それどころかこれからのためには必要なことだと理解しているゆえに、今度は渋々俺の指を口の中に迎え入れた。
 冷めた態度とは反対に奴の口腔内はひどく熱い。互いに軍部内で溜まった欲を吐き出すため、都合よく見つけた相手にこうしているわけだが、俺としては公務を離れてそれ専用の女を買うより、こいつに相手してもらった方がずっと気持ちよくなれるんじゃないかと最近思う。これが身体の相性ってやつなんだろうかね。
 内心で苦笑しながら熱いものにつつまれた指を動かす。んぅ、と苦しそうな声が聞こえるが構うものか。どうせ舌を摘まんだり上顎を撫でたりするうちにこいつだって気持ちよくなってくるんだからな。……ほら、言ってるそばからこれだ。
「……っ、ふあ……ん」
 刺激のために(感情のため、であるはずがない)こちらを見据える瞳にはうっすらと涙が溜まっている。意図してのことではないだろうが、それでもそんな目を向けられているこちらとしては下腹の方に熱が溜まって仕方ない。
 衝動を堪えるようにもう一度唾を飲み込んで、俺は充分に濡れた指を奴の口から取り出した。
「んじゃ、出来るだけでいいから足開いてくれ」
「りょーかい、です」
 太腿を自身の両手で抱えさせ、覗いた後ろの窄まり濡れた指を宛がう。息を詰める気配に口元を吊り上げ、しかしながら何も言わずに俺の指をその中へと侵入させた。
「ぁ……く」
「相変わらず狭いなぁ……何回俺のを受け入れたと思ってんだよ」
「そこ、は、それ専用の器官じゃ、ない……から、いいん、です……よ」
「……ま、俺しか使ってないって証拠みたいなもんだから別にいいけどな」
「うわっ……それ、物凄く、私に……失礼、ですよっ!」
「そりゃすまん」
 軽く謝ったら睨まれた。ああはいはい、悪かったよ。冗談だって。お前はそんなに節操の無い奴じゃないからな。それはお前に補佐官やってもらってる俺が一番よく知ってるよ。
「……わかれば、いいんです。…………は、ゃ……あっ!」
 ビクリと目の前の身体が跳ねた。同時に腸内を動く指がやや硬い箇所に当たる。
 もう簡単に見つけられるようになった前立腺を狙って強く擦り上げれば、さっきとは比べ物にならないくらい大きな嬌声がその口から漏れ出た。
「や、はんっ……ああ!」
「ほーら、そんな大声だしてると外に聞こえちまうぞ?」
「くぁ……ん、そんな、こと、ありえません、ね! "准将閣下"の部屋なん……ですから、防音の一つや二つ、してなくてどう……するんです、か!」
 あーもう、気持ちよすぎて真っ赤になってるくせに、まだまだ頭は回るんだからな。優秀な兵士であることを喜ぶべきやら、情事の相手として悲しむべきやら。
 生意気な副官殿への意趣返しも込め、指を一本ではなく一気に二本増やす。「ひあ!」なんて高めの悲鳴に気分を良くして俺は三本の指をバラバラに動かした。その度に未発達な身体が大きく跳ねる。
「ぁ……っ、そこはっ……!」
「こんなもんか」
 充分解れたと見て、ずるりと指を引き抜く。最初に使った唾液と、異物排除のために分泌された腸液で三本の指は付け根までテラテラと光っていた。でもやっぱりもうちょっと潤滑油が欲しいよな……今度からはちゃんとローションを用意しておこう。この行為は互いに欲をスッキリさせるためのものなんだから。
「じゃ、入れるぞ」
「どうぞ……」
 既に怒張して立派に天を向いた我が息子を解したそこに宛がう。指を触れさせた時と同じく奴からはまた息を呑む気配がしたが、俺だってもう我慢の限界だ。遠慮なくいかせてもらう。
「……は、…………ぁ……んん!」
「きっつ……」
 キツイ。が、それもまた快楽を高めてくれるいい材料だ。最初を入れ終えれば、あとは結構すんなり迎え入れられる。そして全体を包む、口腔と同じかそれ以上に熱いナカ。ふっと息を吐き出し、身体が望むまま早々に動き出す。
「ちょ、はやっ!」
「許せ!」
 どうせお前もあっという間に気持ちよくなる!
 ずくりと奥を突いてギリギリまで引っ張り出す。奥に侵入するほど熱いナカがしっかりと絡み付いてくるし、引けば放さないとばかりに絞るような力が増した。ああ、すっげぇ気持ちいい。
「お前、サイコーの副官だよ。絶対放したく、ないな」
「それっは!……ひゃ、あっ……光栄です、っね!……あ、やぁ!……くっ」
 俺の愛しい愛しい死神。周りじゃこいつの呼称に合わせて俺のことを『死神つき』やら『死神に愛された男』という奴までいるらしい。普通じゃ絶対遠慮したい呼び名だが(だって死神がついてるってことは、そのうち死ぬってことだろ。普通は。)、こいつを指して死神と言うなら大歓迎だ。この死神は誰にも渡したくない。俺の出世のためにも、こういうことのためにも、さ!
「ほらっ、先にイけ!」
「あ、待て……ぁ、ああっ!」
 べちゃりと腹部に熱い飛沫が掛かる。それに続くように、ぎゅっとナカに力が篭ってその刺激に俺も逆らわず吐き出した。頭の芯が痺れるような感覚は、最近じゃどんな女を買っても得られない。こいつだけが俺に与えてくれる快楽だ。
   はぁはぁと荒い息を互いに交しながら、それでも呼吸を後回しにして唇を合わせた。愛? そんなもんじゃねーだろうな。これもまた気持ち良いからやってるだけだって、こいつは返すだろう。それで充分。俺もそうだからな。
 くちゅくちゅと恥じらいもせずに水音を立て、舌を絡ませ唇で遊ぶ。しばらくその熱さと気持ちよさを堪能したら、数センチの距離を取って相手の双眸を見つめる。で、
「もう一回いっとくか」
「そうですね」
 気丈な返答にニッと笑う。
 まだまだ、終わらせる気はねーよ。放す気も無い。俺の愛しい愛しい『死神』殿。


















僅かな愛情はあるでしょうが、『愛』はどちらにもありません。


(2009.04.11up)
















BACK