「たとえば、どうして神のような力を持っているのが可愛らしい女の子だったんでしょうか。たとえば、どうして宇宙人がただ一人に対してのみ心を開く寡黙な少女だったんでしょうか。たとえば、どうして未来人が男の子好みの守ってあげたくなるような容姿をしていたんでしょうか。ねえ、キョンくん。どうしてだと思います?」

「朝比奈、さん・・・?」

誰もいない部室にお決まりの置き手紙で呼び出され、向かった先で待っていたのは朝比奈さん(大)からの突然の問いかけだった。
美の女神もかくやと言わんばかりの神々しいお姿をしたそのお方は、窓から入る赤い夕陽に照らされてどこかいつもとは違う印象を受ける。
なんだ、この感覚。
それに朝比奈さん(大)が発した問いかけは。

困惑して名前を呼ぶだけしか出来ない俺に、朝比奈さん(大)は「うふふ。」と上品に微笑んで俺のあだ名を繰り返す。

「キョンくん、考えてみて。どうして不思議を望む涼宮さんに自覚出来る不思議が訪れず、その一方で涼宮さんに巻き込まれてしまったキョンくんがその不思議を体験してきたのかな。対外的に示していたかどうかの差はあったけど、二人とも同じように非日常を望んでいたはずなのにね。どうして力を行使している涼宮さんは日常に生きて、一般人であるキョンくんが非日常に足を突っ込んじゃってるんだろう。」

何を、言いたいんですか。あなたは。
その問いの答えを俺に言えって言うんですか。
―――俺に、何をさせたいんですか。朝比奈さん。

「キョンくんに特別何かして欲しいわけじゃないわ。ただ今のわたしには禁則事項じゃなくなったから・・・禁則事項だなんて言って口を噤まなくてもいいように頑張ってやっとここまで来れたから、キョンくんに言おうと思ったの。」

そう言った朝比奈さん(大)の瞳は少し潤んでいて、俺は思わずゴクリと喉を鳴らす。
これで何も思わない男は、ハルヒが言うところの"5%"だ。
つまり「ゲ」で始まって「イ」で終わるもの。もしくは「ホ」と「モ」。
とにかくそれくらい、息を呑むほど蠱惑的なお姿だった。

「えっと・・・俺はこの場合、ありがとうございますって言った方が良いんでしょうか。そこまで行くのってきっと大変だったでしょうし・・・。」
「うふふ。やっぱりキョンくんは優しいね。」

夕陽の時間も終わりが見え始め、紺色が混じりだした中で、朝比奈さん(大)はゆっくりと此方に近づいて来る。
俺の顔を両手で挟み込み、いやいや朝比奈さん!?それはちょっと近過ぎやしませんか!?

「逃げないの?」

逃げるも何も、ぶっちゃけ嬉し・・・じゃなくて、女性の手を振り払うのは男としていかんでしょうとか何とか言っちゃって良いですか。

誰もが見惚れるご尊顔が近づいて来る。
俺だけを映すその大きな瞳には嬉しそうな悲しそうな、複雑な色。

「あさ、ひ・・・」
「だから"優しくしないで"って言ったのに。」
「・・・え?」
「いけないことだって解ってたんですよ。でもわたし、」









「神様を好きになってしまったんです。」

俺は何かを言おうとしたけれど、その何かはゼロ距離になったやわらかな口唇に全て封じ込められていた。








神に恋した少女の話









一度はやりたい「キョン=(無自覚な)神」説。
未来人にとっては「ハルヒ(力を持った人間)=神」ってわけじゃないみたいですが、
朝比奈さんに最後の台詞を言わせたいがためにやってしまいました。「神」呼び。