「ねぇ会長、甘いコトしましょう。」


場所は生徒会室。時間は生徒の下校時刻を幾らか回った程度。
そして俺は床の上。
膝を跨いで眼鏡を奪ったそいつは、蕩けるような声音を伴ってうっそりと微笑んだ。

眼鏡はどうせ伊達だ。有ろうが無かろうが関係ない。
しかしまあ、例え眼鏡が必要な視力であったとしてもこの距離ならばそれを必要とすることも無いだろう。
それくらいヤツと俺の距離は近かった。
吐息を感じられるほど接近して弧を描く口元が目を引きつけ、舌で唇を濡らす仕草にゴクリと喉が鳴る。

「なんのつもりだ。・・・そこを退け。」
「嫌ですよ。俺が退いたら逃げるでしょう?」
「当たり前だ。というか何故こんなことをする。」
「それはこんなことを許す会長自身が解っているんじゃないっすか?」

くつくつと喉を震わせて笑う。

ああ、そうだな。そうだとも。予想はついているさ。
むしろ期待していると言ってもいい。
だからこんな馬鹿らしい格好を許すし、右手がお前の顔を撫でてるんだ。

「会長の手って本当に綺麗っすよね。指が長くて少し骨ばっていて、女性みたいとは言えませんけど滑らかな肌をしている。そして俺に触れる時はとても優しい。」

気持ち良さそうに目を細めてヤツは言う。
今にも猫のようにゴロゴロと鳴きそうで、そんな様子を見ているとついつい手が顎の下へと移動した。

「・・・俺、猫じゃないんですけど。」
「そうだな。でも俺の『寝子』だろう?」

答えの代わりにヤツは俺の手を取って指を舐める。
ぴちゃりぴちゃりと子猫がミルクを舐めるように。稚拙で、丹念で、しかし正反対に艶めかしく。

「寝子、ですか・・・。そうっすね、外れちゃいないか。」

唾液に濡れた五本の指を見て「でも、」と愉しそうに続けた。

「あなたの寝子で終わるつもりはないので、あしからず。」
「はっ、俺は練習台ってわけか。」
「よくお解りで。」
「あいつも散々な奴に好かれたもんだな。」

目の前の奴の"本番"に当たるだろう人物の顔を思い出して吐き捨てる。
俺を今の地位に押し上げた黒幕とでも言うべき存在を。その末端だと名乗る人間を。
つい脳裏に浮かばせてしまった微笑を打ち消しながら舌打ちして、嬉しそうな、そして同時に此方を見下しているような双眸と視線を合わせた。
相手は変わらず目を細め、口元に弧を描いたままだ。
何がそんなに面白い。
あの男のことを考えるだけで、お前はそんなに幸せなのか。そして俺を哀れだと思うのか。
ふざけんな。

「あ、会長。やっとヤる気になってくれたっぽい?」

噛み付くようなキスを終えるとヤツは楽しそうにそう言った。





下だけを乱した格好でヤツは快楽に溺れていた。
俺の上に跨ったまま思い通りに腰を振り、また此方の突き上げを感じて小さく啼く。
AVの女のようにアンアン間抜けな声を上げるのでなければ、歯を食いしばって我慢するでもない。少し掠れた高い声が程好く呼気と共に吐き出されて、聞く者の身体を熱くさせた。
絶頂を迎えるまでにはまだ余裕がある。
それでも普段の怠惰な様子からは想像もつかない積極さと妖しさで此方を追い込み続けているのは紛れもない事実。
声が、表情が、匂いが、熱い熱いナカが。俺の感覚を侵していく。
生徒どころか教師まで上手く操れるようになった俺が、操れて当然と思っていた対象にこれ程まで翻弄されるなんて。
気に入らない、と判断したのは快楽に忠実な本能を押し退けた俺の理性だろうか。

「・・・・・・古泉が見たらどう思うだろうな。今のお前を。」

皮肉げに嗤って台詞を選ぶ。
そして選んだそれは目の前のコイツの弱点であるはずだった。
しかし目の前の相変わらず不敵な表情は何だ。
ヤツは喘いでいた口を引き締めてその端を緩く持ち上げると、薄く開いていた双眸で此方をひたと見据える。
そして。

「バレなきゃいいんですよ。俺はあいつの前でだけ、俺であればいいんですから。」

艶笑を伴って吐き出した唇が、俺のそれと重なった。




だから、きっとアイツは知らないままなのだろう。
こんなコイツの、こんなカオ。








皮肉な









病キョン?狂キョン?なんだか異様に古泉スキーなキョンになってしまった。
そして生徒会長様、すみません。本当は大好きなんです。本当は。