生徒会長といっしょ
「会長。」
ヤツは俺をそう呼ぶ。 名前なんか此方が直接名乗らずとも生徒会選挙の時かもしくは古泉から聞いて知っているはずなのに、だ。 「会長、離して下さい。」 「"会長"じゃねえよ。しかも此処は学校じゃねーんだからな。敬語も止せ。」 背中越し。腕の中に閉じ込めたまま、耳元で囁く。 ぴくり、と反応する身体に笑みが漏れた。 俺の声の良さは俺を生徒会長に推した古泉の折り紙付だ。 その上で更に意図して低い声を出せば、対象がどうなるかくらい簡単に想像がつく。 「かい、ちょ・・・。耳元で笑わないでくださ、い。」 「だから敬語は不要だっつってんだよ。」 「あなたは俺の一つ上。上級生っすよ。敬語使って何が悪いんですか。」 「俺が気に入らん。」 「それって横暴で・・・ひゃ!」 すぐ傍の耳殻を舐め上げれば甲高い声。 気に入らん台詞を途中で止めることが出来たし、それにイイ声まで聞けたのだから一石二鳥というものだ。 「ちょ、何してんですか!」 「何とは何だ。訊くまでもないだろう。耳を舐めた。」 「何をやったか、なんて訊いてません。なんでやったか、を訊いてるんです。」 「お前が俺に逆らうからだな。」 「最悪だ。」 そう言ってヤツは項垂れた。 しかし俺の腕の中で未だ捕らわれ続けていながらそれをすると言うことは、つまり俺に首筋を晒すと言うわけで、これはもう次のターゲットを自ら差し出したと言うしかない。 そう判断を下し、俺は俺的自然の摂理に乗っ取って程よく日焼けした首筋に噛み付いた。 「いっ・・・!?会長!」 「お前は自分が他人の目にどう映ってるかもう少し考えるべきだな。」 「だからって何で噛むんですか!!」 「だからそれを考えろと言ってるんだ。」 ふんっと鼻で笑い、首を回して此方を見据える瞳と視線を合わせる。 そしてまた内心で呟いた。 会長、ねぇ。 この期に及んで、言ってしまえばこの体勢で、役職名呼びされるのは単に嫌われているからだとは思わない。 だからまあひょっとすると、これはヤツなりの意趣返しなのかも知れないとは思う。 俺自身、ヤツを名前で呼んだことが無いのだから。 仲間内ではシカ科の動物と同じ愛称で呼ばれ、俺はただ「お前」と呼ぶ。 それなら俺もお前の友人達と同じように何とも言えない愛称で呼んでやろうか? なんてな。言わずともその後返って来る反応は簡単に想像がついた。 本人が好んでいない愛称なのだから、まず最初に嫌そうな表情は避けられない。 それから呼んだ本人が俺だと解って気味悪がって見せるだろう。 もしかすると「キャラが違う。」とか、そう言う台詞まで付いてくるかも知れないな。 互いに名乗りあった覚えはない。 しかしヤツは俺の名を知らざるを得ない立場であって、俺は古泉経由で把握済み。 なのに一言も口にしたことが無いなんて――― 「なあ、」 「・・・なんですか。」 「俺の名前、言ってみろ。」 「はあ?いきなりっすね。」 「呼べよ。名前。」 「なんで。」 「呼べ。」 「・・・・・・。」 うだうだ色々考えてみたが、結局はそう言うことらしい。 意趣返しだろうが何だろうがヤツ自身の理由なんて関係なく、呼ばれたことが無いことに気付いて、そうして呼んで欲しくなったのだ。 おいおい。大丈夫かよ俺。"会長"の仮面の被り過ぎか? そんなわけないがな。 仮面を顔に同化させた覚えはねえし、もし同化したとしても"会長"はそんなキャラじゃねえ。 だがそんなことはこの際どうだっていい。 ほら、早く呼べよ。 「俺は上級生で生徒会長なんだろ?」 「・・・、」 くすくす笑いながら囁いて、耳朶をゆっくりと舌で愛撫して。 ヤツの呼び方を逆手に取った方法で「命令だ。」と付け加えようとした時、ようやく観念したのかヤツは大きく息を吐き出した。 「わかりましたよ。呼びますって。・・・・・・・・・ 。」 これでいいですか?なんて続けてくるが、いや、ちょっと待て。 拘束する腕の力は弱めなかったが、何となく全身の力が抜けて、しかし顔面に血が集まってくるのには気付いて、俺はそのまま晒されっぱなしの首筋に顔を埋めた。 今度はかくん、と凭れ掛かるように。 「か、会長!?いきなり何なんすか!」 もう呼び方元に戻ってるし。 慌てるヤツをそのままに、だァもう、と音も無く毒づいた。 ありえん。ありえんぞ、俺よ。 何だその反応は。 意味不明だ。 自分自身の反応に混乱して頭を抱えたくなっだが、それも抱えたくなっただけで行動には移さず。 代わりと言っちゃあ何だが、俺はとりあえず顔を上げて形の良い耳朶に音を吹き込んだ。 「 、」 「・・・っ!」 俺と同じ反応を返す腕の中の存在に満足感を覚え、俺は笑った。 鬼畜生徒会長とかツンツンなキョンも大好きですが、名前呼ばれただけで真っ赤になる二人も良い。 古泉はそれ見てハンカチ噛み締めてれば良い(鬼) 会長×キョン←古泉とか大好き。 |