――こんにちは、竜ヶ峰さん。○○出版の萩野です。今日は当社のインタビューのためにお時間を取っていただきありがとうございました。
「いえいえ、僕なんかの事で記事になればいいんですけど……よろしくお願いします」
 ――こちらこそよろしくお願いします。では早速始めましょうか。
「はい」
 ――まずは竜ヶ峰さんの自己紹介をお願いします。
「名前は竜ヶ峰帝人。一応言っておきますけど本名ですからね。ペンネームとかラジオネームじゃないですよ。年は三月で二十五になります。仕事は警察官で、サンシャイン前交番に勤めています」
 ――お名前の方は……ひょっとして過去にペンネームか何かと間違われた事が?
「いやぁ……高校入学の時に上京してきたんですが、そこで仲良くなった方からそう聞かれちゃいまして。確かにゴツい名前ですよねー。僕には今も昔も似合わないです」
 ――ご謙遜を。池袋の『最強』には見合ったお名前じゃないですか。
「……その池袋の『最強』なんですが」
 ――? このインタビューは「池袋人が思う最強は誰だ!?」というアンケート調査で浮上した方からお話を伺うものですからね。そんな苦い顔しないでくださいよ。正真正銘、竜ヶ峰さんは池袋人から選ばれた『最強』です。
「どこをどう調査すればそんな結果に……。やっぱりこの街で強い人と言ったら自動喧嘩人形なんて呼ばれてる平和島静雄さんとか、露西亜寿司のサイモンさんとか。あと警察である僕が言って良いのか判りませんけど、暴力団やカラーギャングの子達も強いですよね。それに黒バイク! 僕が上京した当時からいたんですけど、あれはもう本当に凄い方です。しかも力だけじゃなくてお話したらとても丁寧な対応をしてくださって……。こう言うと交通課の方に怒られちゃいそうですけど、昔から僕の憧れなんですよ。黒バイクさん」
 ――警察の方とあの都市伝説が個人的なお知り合いとは驚きました。今度是非取材のお願いを。
「ご本人がOKをくださったらと言う事で。それでまぁやっぱり記者さんも食いついてくださったように、僕よりも凄い方なんてこの街には沢山いらっしゃるでしょう? それでどうして、あえての僕だったんですか。僕なんてこの通り、ひょろひょろの新米警官ですよ?」
 ――それなんですが……。先程竜ヶ峰さんのお話にも出た強い人間の中に平和島静雄さん、いらっしゃるじゃないですか。
「ええ」
 ――当時私はまだこちらで記者をしていなかったのでよく知らないのですが、その平和島さんと街で争っていたもう一人の方……。
「ああ、折原臨也さんですね」
 ――はい。その折原さんも『最強』の人間の中にお名前が上がってきていたのですが、そんな二人の戦争とも言われる喧嘩を竜ヶ峰さんは毎度毎度見事に仲裁して見せた、と。しかもそれが原因で池袋以外で勤務する事を上から却下されているとか。
「………………(溜息)」
 ――あの、竜ヶ峰さん?
「すいません。今もちょくちょく争いはありますが、あの頃は本当に大変だったもので。まあ慣れた事と言えば慣れた事だったんですけど」
 ――それはあの二人と竜ヶ峰さんが同じ高校だった事も含まれていらっしゃるので?
「そこまで調べてるんですか。……ええまあ、そうですね。僕も折原さんと平和島さん……って言うかもう呼び捨てにしちゃいますけど臨也と静雄の二人ですけどね、僕らは高校で初めて一緒になったんです」
 ――当時の来神高校、今の来良学園ですね。
「そうです。それで出会った当初からあの二人の仲は最悪で。臨也も手を出さなきゃいいのに、事ある毎に静雄をからかうものですから、そりゃもう顔を合わせた瞬間に戦争勃発ですよ。静雄は皆さんご存じの通りあの力でしょ? そして臨也も頭はキレるし裏から手を回すのも大好きだし、それに何でしたっけ……パルクール? そんな事もできちゃうので、とにかく一度戦争が始まると教室が滅茶苦茶になってしまうんですよね。流石にテスト期間中にまで教室を破壊しようとした時には僕も思わずボールペンを……あ、今の無しで」
 ――ボールペン?
「聞かないでくださいお願いします。とにかく大人しい子だった僕もちょっとキレてしまいまして。まあそれが良かったんでしょうか。普段その他大勢の中に埋没していた人間がいきなり怒鳴ったものですから、あの二人も驚いたみたいですよ。それがあの二人の頭に刷り込まれたのかどうかは判りませんが、以降は僕がお願いすればなんとか喧嘩も止めてくれるようになりましたね」
 ――お願いって部分に引っかかりを覚えるのですが……。あとボールペン。
「え?」
 ――いえ、何でもありません。ともかく、そうやって高校時代に調きょ、じゃないですね。えっと、条件反射的なものがついてしまったために、大人になってもそれが有効だったという訳ですか。
「だと思いますよ。でなきゃ体力面でどちらにも劣る僕が何とかできるはずないですし」
 ――なるほど。それでお二方のうち一方、折原臨也さんについてですが、現在は池袋ではなく新宿にお住まいだとか。平和島静雄さんと対峙する程ですから当方も折原さんを“池袋の”最強としてピックアップするのはどうしようかという話も出ていたのですが。この折原さんの移住にも竜ヶ峰さんが関わっていらっしゃるというのは本当ですか?
「どこからそんな情報が出てくるんでしょうねえ」
 ――壁に耳あり障子にメアリーですよ。
「メアリー?」
 ――メアリーです。とても多くの色んな事を目撃している子なんです。
「なにそれ非日常」
 ――即行で食いつきましたね。流石非日常マニアさん。
「本当にどこからそんな情報が。正臣? 正臣からなの?」
 ――情報ソースは開示できませんのであしからず。ちなみにその正臣さんとやらは竜ヶ峰さんの親友である紀田正臣さんで?
「うわぁなんだか凄い所まで調べられてますね。静雄なら有名だし名前出してもいいとは思うんですけど、正臣の方は後で伏せ字にでもしておいていただけます? あ、勿論本人から出しても良いって許可が出れば僕はどちらでも構わないんですけど」
 ――わかりました。では紀田さんに後程ご連絡致します。許可がいただけなかった場合は雑誌に掲載する際に隠すという事で。
「お願いしますね」
 ――はい。話が脱線してしまいましたので戻します。折原さんが池袋から新宿に移られる結果となった件ですが、二年くらい前ですよね。
「ありましたねー。臨也がまた悪巧みして静雄に罪を擦り付けたやつです」
 ――その際には竜ヶ峰さんのご活躍で平和島さんが冤罪で捕まる直前になんとか誤逮捕せずに済んだとか。しかも当時は竜ヶ峰さんが警察官になられてまだ間もない頃の話ですよね。
「その辺りはベテラン警官の葛原さんが協力してくださって。あの後、静雄と二人で葛原さんにお礼しに行きましたよ。本当に警察官として見習うべき方です」
 ―― 一族から多くの警察官を輩出しているという方ですね。その方のご親戚の一人も今回の『最強』に名前が上がっていました。ともあれまずは竜ヶ峰さんご本人のお話の方を。その一件で平和島さんの無実を証明しただけでなく、池袋最大の喧嘩もとい戦争の一端を担う折原さんを池袋から新宿に引っ越させたとお聞きしたのですが。
「ああー……」
 ――本当なんですね。一体何をされたんですか?
「いや……何をって言われても。ああ、先程記者さんは臨也と静雄の喧嘩を僕がいつも仲裁しているような感じで話されてましたけど、実際には半分くらい僕じゃなくてサイモンさんが対応してくださっていまして」
 ――露西亜寿司の?
「ええ、あのサイモンさんです。それで、僕がいない時にサイモンさんが仲裁してくださっていたんですけど、あの人も仕事があるのに毎回出動していただくっていうのもご迷惑じゃないですか。それであの一件の時にとうとう僕も堪忍袋の尾が切れたと言いましょうか……」
 ――他の方にご迷惑をかけ続ける訳にはいかないという気持ちと、大事になった一件で竜ヶ峰さんがプチンと?
「お恥ずかしながら。あそこまで怒ったのは高校以来でしたねー。それでまあ、物理的な距離があれば多少なりともマシになるだろうと思って臨也の方に引っ越しをお願いしたんです。静雄は当時既に池袋で働いてましたしね。どちらを動かすか考えた時に、別に池袋で働いてる訳でもない臨也を動かした方が二人の遭遇率も下がりそうだっので、そうしてもらいました」
 ――折原臨也さんに“お願い”ですか。一体どんな風に、とお訊きしても?
「どんなにって。普通ですよ、普通。流石に昔、一年下の後輩にやったような事は……」
 ―― 一年下の後輩? それに『昔』とはいつ頃の。
「あ、来神の時です。僕は高校二年生になったばかりでしたね。まあこの辺のお話はあまり関係ないので黙秘って事で。ともあれ僕が臨也にしたのは普通のお願いですよ。もし詳細をお知りになりたいなら臨也本人に訊いてみてください」
 ――うーん。どうにも話していただけるご様子ではないですね。では後日、折原さんにお訊きしてみます。それで竜ヶ峰さんが『最強』という事についてですが、私個人としては正しいのではないかと思います。“お願い”一つで最強の候補に挙がる人間を引っ越させてしまえる程ですし。
「あ、やっぱりそうなるんですか」
 ――なりますよー。それでですね、そんな『最強』の竜ヶ峰さんに最後の質問が。
「はい、何でしょう」
 ――『最強』の竜ヶ峰さんが敵わないと思う方はいらっしゃいますか?
「僕の敵わないと思う人ですか……。体力面なら僕はむしろ平均以下ですしねえ。頭だって僕より良い人は沢山います。でも、そうですね……あえて言うなら」
 ――言うなら?
「好きな人には何をやったって敵いそうにないな、とは思います」
 ――それは好きな女性という意味と捉えてもよろしいでしょうか。
「ご自由にどうぞ」
 ――お名前をあげていただく事は……。『最強』よりも強い方という事になりますし。
「二人いるんですけど」
 ――二股ですか。
「好きとは言っても片思いと憧れの存在って事ですよ。片方は一般人なので伏せてもいいですか」
 ――できればお二人とも。
「駄目ですって。彼女にはどうしても迷惑をかけたくないんです」
 ――と仰ると言う事は、もう片方には迷惑をかけてもいいと。
「えーそれじゃあご本人とその大切な方に怒られちゃいますって。あの方はたとえ名前が出ても皆さんそう易々と辿り着けないでしょうから」
 ――それは……。
「黒バイクさんです。最初の方にも言ったじゃないですか。僕はきっとあの方には敵いません。本当に本当に素敵な方なんです」
 ――確かに池袋の都市伝説では一般人も簡単には近付けませんね。
「でしょう? 質問の答えはこれで良かったですか」
 ――あ、ああ。はい。今日はありがとうございました。また原稿ができあがりましたらお届けしますので。
「はい。よろしくお願いします。ありがとうございました」



* * *



「ちょ、昨日発売の雑誌! 帝人君これ一体どういう事!?」
「どうもこうも、そのままじゃない? あと臨也、玄関前で大声上げないでよ恥ずかしい」
 とある週刊誌を握りしめて自宅に突撃してきた旧友を見やり、帝人は隠す気も無く溜息を吐いた。ちなみに目の下にはくっきりと隈が浮かび上がっている。本日は仕事が休みであるのだが、その前夜、臨也と同じくインタビュー記事を読んだ岸谷新羅――黒バイクことセルティ・ストゥルルソンの恋人――から電話がかかってきて「帝人君もセルティが好きって事なのかい!?」という叫び声から始まって抗議やら惚気やら、延々と垂れ流されたのだ。
 完璧に寝不足状態へと陥った帝人は、夜が明けたら明けたで訪問してきた黒いコートの男に怒鳴る気力も失う。
「しかも『お願い』って何!? 俺にとってあれはマジで最低最悪の脅しだったんだからね!」
「はあ? あれが? ただ『池袋から出ないと絶交するよ?』って言っただけじゃん」
「それが最悪だって言ってんの! あと『もう二度と口もきかないから』って言ってた!!」
「それが一体なに」
「〜〜ッ! それが俺の気持ちを知ってて言う台詞!?」
「やだなぁ」
 目尻に透明な液体が浮かび始めた臨也を眺め、帝人は寝不足の頭のままにっこりと、それはもう輝かんばかりの笑みを浮かべた。
「知ってるから言ったんだよ。じゃ、おやすみ臨也」
 そしてバタンッ! と勢いよく玄関の扉を閉める。「ひどいっ!」と臨也の抗議の声が聞こえたが、帝人には無視をするという選択肢以外存在しない。ギャンギャン叫ぶ臨也に、明日以降ご近所さんから嫌な目で見られたらどうしようなどと思いつつ、それでも睡眠優先の帝人はさっさと布団に潜り込んだ。






レッツ☆街角アンケート

〜池袋の皆さんに聞きました〜






「帝人君帝人君帝人くーんっ!!」
「うるさい臨也! 公務執行妨害で逮捕するよ!?」
「君に逮捕されるなら大歓迎さ!」
(……静雄でも呼ぼうかな。いや、余計に煩くなるか)







「警察官帝人くんの池袋生活」をリクエストしてくださった匿名様に捧げます。
ありがとうございました!