絶対防御だな、と滝口は思う。
(何がってそりゃあ目の前の光景に他ならない)
 昼休み。屋上でパンをかじりながら見つめる先には、この来良学園でも徐々に有名になりつつある仲良し三人組が和気藹々と食事をとっていた。
 主に騒いでいるのは明るい茶髪にピアスの少年で、彼の冗談に対して控えめに笑みを浮かべる少女と、容赦ない突っ込みを入れる少年。名前は順に紀田正臣、園原杏里、そして竜ヶ峰帝人と言う。
 男女三人であるにも拘わらずドロドロした恋愛事情を感じさせず、見ているとどこか甘酸っぱさや微笑ましさを覚える三人組は、同じ学年ならばそこそこの人間に知られていた。
 だが滝口は彼らが有名になる前―――入学してまだ間もない頃、もう既に帝人と正臣の存在を知る事となっていた。何故ならばあちらの方からコンタクトをとってきたからだ。
(俺がダラーズの人間なのかってな)
 カラーギャング『ダラーズ』。他のカラーギャングとは趣を異にし、縦の繋がりは殆どない。皆無と言っても良いレベルだ。ネットという希薄かつ広大な横の繋がりだけが存在し、皆が自由に過ごしているチームである。専用のWebサイトに登録するだけでメンバーとなれるそんなチームに滝口も属しており、入学早々『ダラーズ』について興味を持っていたらしい帝人とその付き添いの正臣が滝口の所へ話を聞きに来たのだった。
 正臣はともかく、大人しそうな帝人がカラーギャングに興味を持っている事に内心少なからず驚いた。それ以降、何かにつけて帝人を目で追ってしまっているのだが、彼が視界に入る度に同じく認識する人影を滝口は最近こっそり「絶対防御」と呼んでいる。
 帝人の傍にいつもいる人影。珍しく姿が見えず、「今日はいないのか」と思ってもすぐさまどこからともなくやって来て、冗談を言ったり帝人にじゃれついたり、鋭いツッコミを入れられてヘコんだり一瞬で復活したり。一見して、否、二見しようが三見しようが、普通ならばその人物の事をただの仲が良い帝人の友人だと思うだろう。
 だが滝口は気付いてしまった。ずっと帝人を見ていたから気付いてしまったのである。その人物―――紀田正臣が帝人の傍にある時、彼は帝人に近寄る人間全てに対して警戒と牽制をしているのだと。
 現に正臣が帝人の近くにいる際、園原杏里を除く他人にはまず正臣が視線を向け、また多くの場合は正臣が先行して口を開いている。初っ端からその他者と帝人が会話をする事は殆どない。見ようによっては正臣からOKが出てようやく帝人との会話が可能になる。むしろ杏里が相手であっても、三人が揃った時には正臣が口火を切る事が多かった。
 まさに絶対防御。帝人と言葉を交わすにはまず紀田正臣のこれを突破する必要がある。でなければ上手い具合に誤魔化されて“お近付き”にはなれないのだ。
(お陰様で俺は未だにただの知り合い……ってね。いや、ひょっとしたらそれ以下か)
 胸中で独りごちて虚しくなった。
 どうやら正臣は帝人の好奇心を見守るつもりはあるようだが、一歩踏み出す事にはかなりの用心をしているらしい。
 そして滝口は普通の学生でありながらもカラーギャングの一員である。帝人と会話する友達でさえ選ぼうとする正臣がそんな滝口の必要以上の接近を好ましく思うはずもなかった。
 パンの最後の一欠片を口の中へ放り込み、租借して飲み込む。
(どうにかしてもうちょっと近付けないもんかな)
 紙パックのコーヒーをずるずると啜って飲み干し、空になったパンの袋と一緒に近くのゴミ箱へ投擲。それが入ったのを確かめて滝口はベンチから腰を上げた。
 向かう先は教室……ではなく、同じく屋上で昼食をとっていた帝人達がいる場所。
 ほんの少し近付いただけで正臣が反応する。視線を向けてきた彼に片手を上げる事で挨拶しながら、滝口は声を出す前にもう一言だけ胸中で呟いた。
(障害は大きそうだけど、まずは竜ヶ峰に友達認定されるところからってね)
 たった一回の接触では満足なんてできない。
 だから滝口は紀田正臣という壁を取り払って帝人と直接会話できるようになりたいと望むのだ。
「よう、紀田に竜ヶ峰、それと園原さん。三人もここで昼飯食ってんだな」
 何気ない態度で話しかける。
 帝人が何か言う前に「滝口もここが定位置かー」と笑う正臣へ頷きを返し、滝口は人の良さそうな笑みを浮かべた。
「そ。俺もここでよく昼飯食ってんだ」






弾丸装填完了、発射用意

(防御壁を撃ち砕く用意はできている。だからさ、まずは『友達』になってみねえ? なあ、竜ヶ峰)







「滝口君×帝人」をリクエストしてくださった匿名様に捧げます。
ありがとうございました!

もはや滝口×帝人ではなく正臣(過保護)×帝人←滝口ですね(汗)
申し訳ありません。そして良い人・滝口君のはずが、妙に黒い……。