「手応え無いなぁ。」 斬魄刀を指で摘まんでぷらぷらさせながら、ディ・ロイはその刀の持ち主であり現在は彼の足元に倒れ伏している破面を足先で小突いた。 すでに致死量の血を体外に排出してしまった破面は勿論反応を示さない。 ディ・ロイの左手に貫かれた胸にぽっかりと穴を開け、死神に斬られた時のように白い破片となって昇華することもなく、その足先で弄ばれるままになっている。 かつて(いや、ほんの数刻前まで)最強の破面として「1」の番号を冠していたその"物体"をつまらなさそうな顔で見つめ、ディ・ロイは溜息を一つ。 「4」の「彼」であの実力なのだから、(「彼」がその力をほとんど表に出していなかったことを考慮しても)「1」はもう少し手応えがあると思っていたのだ。 せめてこの身体に傷をつけるくらいには。 もしくは左手一本だけではなく、もう片方の腕か足を使わざるを得ない状況になるとか。 しかしその期待は思いきり残念な方向に外れて、下手をすれば左手の指一本だけで勝負が終わってしまいそうな程度。 それは流石にマズいと思って左手を丸々使ってみたのだが、おかげで物足りなさが嫌でも増した。 こんな彼らの上に立っていた三人の死神達が相手だったとしても、やはりそれ程楽しいことにはならなかっただろう。 途中から分かれて行動していたその「4」を持つ相手のことを思い出しつつ、ディ・ロイは落胆の意を込めてもう一度溜息を吐き出す。 「4」を持つ相方は、現在、その三人の死神を相手にするため此処よりもう少し先に進んでいるはずだ。 もうそろそろ、やることを終えてしまった頃だろうか。 なぜこのような状況になっているのかと言うと、自分が三人の死神の前へ出て行って遊んでみるのも捨てがたい選択肢ではあったが――今思えば馬鹿らしく感じることだ。期待しすぎ、である――、一見忠誠を誓っていたウルキオラが彼らに刀を向けるのもまた一興と思ったため。 しかし「4」の彼の反乱に度肝を抜かれたであろう彼らの様子を見ることも叶わず、今や唯一となってしまっていた小さな楽しみさえもう得られない状況に、ディ・ロイはこの「1」相手で少々遊び過ぎてしまったことを酷く後悔した。 こんなことなら僅かでも「1」との戦いに楽しみを見出そうと粘ってみるのではなく、さっさと「彼」に追いつけばよかった、と。 もう一度溜息を吐き出すディ・ロイだったが、その直後、こちらに近づいてくる霊圧を捉えてパッと表情を明るいものに変えた。 やがてコツコツと硬質な足音と共に奥へと続く暗がりから現れた姿を目にして、その人物の名前を呼ぶ。 「ウルキオラっ!」 ディ・ロイの相方こと「4」を持つ破面、ウルキオラ・シファー。 期待以下だったこの反乱の結果はさておき、彼がいるならばまぁこれからもそれなりに楽しいことを見つけていけるだろうと、表情と共に思考を切り替えたディ・ロイは、相変わらず静謐な雰囲気を纏うウルキオラの正面に立って苦笑を浮かべた。 「その様子だと感想は俺と同じかな。」 「つまらなかった、か?」 「まあね。でも、もういいよ。」 次を探すから、と表情を苦笑から子供が浮かべるような純粋な笑みに置き換えてディ・ロイはウルキオラに手を差し出す。 「行こう。『次』に。」 「ああ、そうだな。」 差し出された手を取り、無表情だったウルキオラもほんの微かな笑みを口元に乗せた。 その反応に満足げに頷いてディ・ロイは己と対して変わらない細めの腕を引き、部屋から出る。 あとに残ったのは"もの"になった肉塊と、壁に飛び散る血痕のみ。 それもやがては『時間』という抗いがたい存在によって消されていくのだろう。 ただし、この二人にとってそんなことはすでに興味の対象外であるのだが。 り の 果 て (猫被りはもうおしまい!さあ、これからどこに行こうか。) |