瓦礫の中、古里炎真は傷ついた綱吉の身を抱き起こした。
「ツナ君……」
 双眸には憂いが溢れ、炎真との戦いで身動きも満足にとれない状態となった綱吉を心から案じている様子が窺える。矛盾しているかもしれないが、それが炎真の真実だった。
「ツナ君、ごめん。本当はここまでするつもりじゃ……」
 そっと綱吉の身体を抱き起こし、炎真は呟く。
 彼の言葉か、はたまた抱き起こされたことによるものか、その時、綱吉が反応を示した。額に灯るはずの炎は消えたままだったがうっすらと見開かれた双眸には意志が宿り、炎真の手から逃れようと右の拳に力を込める。
 しかし炎真が綱吉の動きに気づかぬはずもなく、視線は握りしめられた拳に向き、少年はその手を優しく包み込むように腕を伸ばして―――
 ボキ、リ。
「ぁあが、あああああああああ!!!!!」
 まるで地面に落ちていた小枝を手折るように、綱吉の指を一本、関節を無視した方向に折り曲げた。瓦礫に囲まれた空間に綱吉の悲鳴が響き渡る。
 その声を聞きながら炎真はしゅんと眉尻を下げた。
「ごめん。これ以上抵抗しないで。僕を攻撃しようとしないで。じゃないと僕はツナ君をもっと傷つけないといけなくなる」
「エン、マッ……!」
 こんなこと望んでなどいないのだ、と言いたげな炎真の台詞に綱吉は目を怒らせた。彼の言葉と行動が噛み合わない。ふざけるな、と歯を食いしばって腕を振るい炎真から距離を取る。
「ツナ君……」
 本当なら傷ついた今の綱吉の力でほぼ無傷な炎真を退けられるはずがない。しかし炎真は綱吉に逆らうことなく何歩か後退し、よろよろと立ち上がろうと地面に手をつく綱吉を眺めていた。
 不思議な紋様が描かれた双眸に宿る憂いは変わらない。綱吉の名を呼んだ時も、傷ついた身体を優しく抱き起こした時も、指を折った時も。
 炎真は何度も立ち上がろうとして失敗している綱吉に再びそっと近付いた。
 地面に這い蹲った状態の綱吉はそれを憎々しげに睨みつける。きつい視線に晒された炎真は殊更悲しそうに表情を歪め、
「だからさぁ、ツナ君」
 何気なく右足を地面から浮かせたかと思うと、次の瞬間、思い切り綱吉の向こう臑を踏みつけた。
「――――――ッ!!」
 綱吉の喉からは音にならない悲鳴が迸る。
 踏みつけると同時に炎真が力を使ったのか、そこは同じような体格の人間がやったとは思えない惨状になっていた。骨は完全に砕かれているだろう。黒いスーツだったため詳しくは判らないが、血も滲んでいるようだった。ひょっとしたら折れた骨が皮膚を突き破ったのかもしれない。
 綱吉の片足を踏み砕いたまま炎真はハの字眉で相手を見下ろす。
「抵抗しないでって言ったよね?」
 ひどく、ひどく悲しそうな目で。
「君は大人しく僕の言葉に従っていればいい」
 けれどもそう続けた口元は愉しげに笑っていた。
 大空すらも従える大地の覇者として。






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