「っ、あ……!」
「うわー。シズちゃんってばもうココこんなにして」 くつり、という喉の奥で奏でられた笑いと共に、細く長い指が静雄の肌の上を滑る。その度にビクリと震える身体。薬に侵された四肢はろくな抵抗も出来ずに強すぎる快楽を脳に叩き込んでくるだけだった。 そんな様を眺めながら臨也は、ちゅぷ、と水音を立てて、相手の肌に滑らせていたのとは逆の手を引き抜く。先ほど使用したローションのピンクと、それとは別の無色の液体が混ざり合って指だけでなく銀色の指輪までてらてらと濡れ光らせていた。 すっかり解れたソコに満足気な笑みを浮かべながら、臨也は快楽と屈辱でぐちゃぐちゃになった静雄の顔に視線を向ける。 「シズちゃんも馬鹿だよねー。新羅に渡された薬だからって警戒しなかった? あっは! あいつは闇医者で非合法な薬も沢山持ってる。それを知る俺が何もしないと思ってた?」 とある事情で静雄が闇医者としての新羅の世話になった際、臨也がこっそりと薬の入れ替えを行っていたのだ。驚異的な膂力を誇る静雄の四肢の自由を奪い、その代わりとでも言うように皮膚の感覚を鋭敏化させるドラッグに。 「ああ、でも安心しなよ。一応、依存性は軽いモノだから。シズちゃんなら全く問題ないんじゃない? ……ま、依存性の強いクスリにしてこのまま君を俺に縛り付けるってのも楽しそうではあるけどね」 ニィ、と口の端を吊り上げて臨也は両手を静雄の頬に添えた。 思考すら半ばまともに働いていないだろう金髪の男の唇を舌でちろちろと舐め上げ、嗤う。 「とりあえず今はクスリよりも俺に溺れさせてあげるよ、シズちゃん」 * * * 「って何コレ!?」 「イザシズ18禁同人誌です。臨也さん」 「じゅ、じゅうは……帝人君まだ16歳だよね!?」 ぺらい本を手にしたまま折原臨也は傍らの少年に叫んだ。その顔色は青を通り越して白くなっており、普段から浮かべられている余裕たっぷりの笑みは一切片も残っていない。 「そうですねー」 「そうですね、じゃないよ! こんな物どこから手に入れてきたの!」 「どこかから手に入れたんじゃなくて、作ったんですよ」 「……は?」 サラリと告げられた帝人の台詞に、臨也は叫ぶのを通り越して呆然とした。あまりの衝撃に脳が理解を拒んでいる。だが、その停滞も長くは続かず、臨也はまるで糸で縫い合わせたかのように堅くなった口を無理矢理開いた。 「帝人君が、書いたって事……?」 「はい。僕的には臨也さんがどこで誰とナニをしていようが別にどうだっていいんですけどね。こういうのを書くと結構良いお金になる事が判りまして」 にこりと笑う帝人。 その瞬間、臨也の脳裏には“こういうもの”を喜びそうな知人の顔が浮かんだが……まずは目の前の少年の事だと判断して、華奢な肩をがしりと掴んだ。 「帝人君!!」 「はい、なんでしょう?」 「やめて! こういうの書くのは本当にやめて! 俺の精神的苦痛もそうだけど、もしシズちゃんが知ったら、あいつ問答無用で新宿まで俺を殺しに来るから! いつもの『池袋に来てんじゃねえ!』レベルじゃ収まらないから!!」 「あ、臨也さんってば涙目」 「そりゃ泣きたくもなるよ!!」 ずび、と美形に似合わぬ音を立てて臨也が鼻を啜る。 「帝人君はシズちゃんの恐ろしさがいまいち解ってない! だからこういう物が書けるんだよ! でもね、たとえフィクションの中でも弄っていいものと悪いものがあるってちゃんと理解してる!? 知らなかったじゃ済まされない事が世の中には沢山―――」 「やだなぁ臨也さん」 ふわり、と。例えるならば宗教画に描かれる聖母マリアのような微笑を浮かべて帝人は臨也の言葉を遮った。 「全部解ってるからやってるんですよ。――――――早く静雄さんに殴り殺されればいいのに」 「みみみ帝人君ーっ!?」 微笑を保ったまま最後にぼそりと付け足された少年の本音(?)に激しく打ちのめされながら、新宿の情報屋はその場でサラサラと真っ白な砂になっていった。
無知は言い訳にならない
(なにせ知っててやってる事ですから☆) (やめてそのキレイな笑顔!!) |