気味の悪い幼子だと思った。





暦の上では秋であるこの季節、しかし未だ日差しの強い屋外で、溶けやしないかと心配したくなるような雪色の髪の幼子が一人、しゃがみ込んで熱心に何かを行なっていた。
その幼子は髪の色と合わせるように、白、黒、灰、薄紫、といった寒色系の着物を纏っている。
少し離れた所からその背を窺っていた元就は髪の色ならず着物の色までが今の気候とは正反対であることに、知らず顔を顰めた。

木々や草花が生い茂り、眩しい陽光が降り注ぐこの生命力溢れる空間で、死の季節と表現することも出来る冬の色を持つ幼子。
しかも他の同年代の子供達が走り回るだろう状況であるにもかかわらず、幼子は元就に背を向けて手を動かすだけ。
死の色をした幼子が一体何をしているのか元就の位置からでは窺えない。
幼子が振り返れば判ったのかも知れないが、元就が足音を忍ばせることもなくこの距離にまで近づいても、幼子はよほど何かに心を奪われているらしく、気付いた様子はないままである。

元就は気晴らしのためこの場所を訪れたのであり、こんな子供の存在を知っていたわけでも、ましてや幼子が何をしているのか知るためでもない。
ゆえに、この場に子供とは言え先客が居り、なおかつ元就自身は一人になれる場所の方が好ましいと思っていたので(そして、それがこの場所でなくてはならないとも思っていなかったので)、さっさと他へ移動すれば良かった。
しかし元就はどうしてか奇妙な幼子から視線を外せないでいた。
常なら自分以外の人間など気にかける素振りも見せない元就だったが、今この場ばかりは周囲と自身を完全に隔てている幼子が気になっていたのだ。

周囲から隔絶された姿に己と同じものを見たのだろうか。
いや、確かに元就は兵を駒とし、己の一部や身内のように考えたことなどなかったが、それとはまた別のことだろう。元就がやっているのは区別であり、隔絶や異質化ではない。

では何故か、と考えた時、元就は幼子が纏う匂いに気付いた。
それは草花や土から香るような直接的な匂いではなく、第六感のように感じるもの。
匂いと言うよりは気配と言い換えた方がいいのかも知れない。
そして多くの兵を「策のために」と殺すことも厭わない元就も纏っているものだった。



「なぜ貴様のような童が殺す者の気配を纏っておるのだ。」

無意識に口から出た言葉が思ったよりも大きかったらしく、幼子が手を止めて元就の方に振り返る。
その小さく弱々しい手に握られていたのは、子供の手にはやや大きすぎるだろうサイズの石。
しかしその石の底面に張り付いていたものが何であるかを悟り、元就は息を呑んだ。

一見した時、それが何なのか判らなかった。
しかしよく見ると、無数の黒い点が見える。
点の周りが暗い色をしているのはその点の"体液"によるものだ。

黒い点の正体は蟻。
一体どれだけの時間をかけたのだろう。
地面の上に形成された蟻の行列を、幼子はずっとその場にしゃがみ込んで潰し続けていたのだ。

幼子は元就に向かって控えめながらも無邪気な笑みを浮かべる。
己の行為に対する異常性も解らず、元就の目が石に向いているのに気付くと、「やしきに上がってくる害虫です。」と、声音だけは舌足らずなまま言ってのけた。

「とるにたらない生き物を自由に殺めるのは楽しいでしょう?あなたもわたしと同じにおいがしますから、わかるはずです。・・・ただ、あなたはわたしより長く生きているせいか、血の匂いが濃いようですけどね。」

幼子は微笑んだのだろうが、風によって雪色の髪が乱され、その表情が読み取れない。
しかし元就は薄く笑う子供と目が合ったような気がして言い様もない気味の悪さを感じた。

知らず、ちがう、と発していたのだろう。
幼子は立ち上がり、嬉しそうに「同じですよ。」と囁く。

「あなたの目は生き物をためらいなく殺す者の目です。まさかこんな所であなたのような人に出逢えるとは思っていませんでしたが。」

子供特有の高い声が元就のすぐ傍から聞こえた。
いつの間にか立ち尽くす元就の隣にまで近寄って来た幼子は子供らしからぬ酷薄な笑みを浮かべて風に髪を遊ばせる。

「・・・貴様は何者だ。」
「さあ?ですが、いずれ知っていただく機会が訪れるかもしれませんね。」

死色の幼子はそれだけ言うと、まるで彼自身が風であったかのように、元就の目の前からふわり、と姿を消した。





毛利元就が明智光秀と名乗る武将に出会う、幾年も前の出来事である。







死色の白昼夢









『章立』の兄弟殿に捧げます。
元就様は1497年生まれ、光秀は1528年生まれ(?)らしいので、実年齢差要素を含めて書いてみました。
なので今回、光秀はまだ生まれていない頃の話です。
元就様はきちんと人間ですけど(家督相続後かな)、光秀は幽霊か、まあその辺りで。(そんなアバウトな!)