織田信長の血を啜った。
吸い尽くした後、それでも空腹感は拭えずに京の都へと足を伸ばした。
祭りに沸く男も女も、年寄りも子供も、見境なく鎌で首を刈り取って真っ赤な死化粧を施した。
しかし渇きは癒されない。
もしやと思って戯れ半分に自軍の兵士を殺してみても結果は同じ。

明智光秀は絶望した。

この渇きを癒す術はもうこの世に在りはしないのかと。
けれども血を求める衝動と命を刈り取った瞬間に得られる悦楽への思いは消し去ることが出来ず、絶望という感情とは裏腹に光秀の足は更に先へ先へと進んで行く。
刃向かう者は全て斬り殺し。逃亡する者もまた斬り殺し。
頭が『獲物』と判断した者は例外なくどんな者でも己の鎌でその首を刈り取りながら。




癒えない渇きを抱えたまま進軍していた光秀は、しかし中国地方へと足を踏み入れんとした時、ついにその男と出会った。
円状の刀―――輪刀という珍しい武器を手にした毛利軍の長・毛利元就。
何事をもその冷徹な瞳で見定め、兵をただの手駒と称する冷徹な面を持った男。
光秀はその男を目にした瞬間、彼に自分と同じものを感じた。
否、同じというよりはむしろ、自分が求め続けていたもの。
必要であるにもかかわらず、己には備わっていなかった何かだ。

あれが欲しい。毛利元就が欲しい。
この手に捕らえて、まるで籠の中の鳥のように。
愛でて愛でて心ゆくまで愛でて、そして最後に殺すことが出来たなら。

想像するだけで熱い吐息が零れ落ちる。
あれを己の手でのみ傷つけるために、それまでは誰の手にも穢されぬように(もちろん自軍の兵士達にも!)捕らえるにはどうすれば良いのか。
焦るのは禁物。機を見て、隙を窺って。
自分は最高の瞬間を迎えるのだ。
それまでの衝動を、己の指を噛みながらこらえた。
爪を噛み切り、指の皮膚を食い破ってでも。
狂気に犯されたと誰もに言われながら、その一方で数多の策略を巡らせてきた己の本領発揮というところ。
普段はただ衝動に突き動かされるまま血肉を浴びてきたが、今回ばかりは違うのだ。
だからこそ頭を働かせる甲斐がある。
慎重に、美しい蝶の翅を傷つけぬが如く、あの男をそのまま捕らえるのが望みなのだから。

嗚呼、楽しみだ。
本当に楽しみで仕方がありません。

そう呟き、思わず舌なめずりまでしてしまう。
さあ、毛利は次にどう動いてくるのか。
それを考えながら光秀は策を練る。
常に狂気を宿す瞳は、それに加えて近い将来への暗い喜びに満ちていた。

「ああ早く!早く貴方をこの手に・・・!」

その感情の名を知らぬまま。







気狂いの









『章立』の兄弟殿に捧げます。
光秀と元就様(「様」はすでにデフォ)のコンビです。・・・が、元就様が出てこない!
ひたすら明智さんの一方通行(・・・)
調べたら光秀も智将らしいじゃないですか!ってなわけでちょっとその設定も入れてみたり。