風によって運ばれてくる砂埃と何かの焼けるにおい。そして辺り一面からも自分の衣服からも漂ってくる血臭。
むわりと肺を侵す戦場のにおいに包まれて青い衣の青年はゆるりと周囲を見渡した。
一戦を終えたばかりの大地には敵方の兵士が数多く転がっている。全て青年が一人で斬ったものだ。
いつも青年の後ろでその背を守る役目を担っている男は、今はいない。青年が治める国の重要人物の一人である男まで城をあけなければならないほど此度の戦が大きなものではなかったから、というのが理由の一つであろう。
しかし、と青年は思う。
それだけの理由で幼少の頃から共にいた男を城に置いて来るなど、二人の関係には有り得ない。他国からは双龍と称されるほど、常より二人一組で動いてきたのだから。
では何故、今回もついて来ようとした男を無理に城へと残して来たのか―――。
もう一つの理由・・・否、むしろ本当の理由が“やって来た”のを、青年はその独眼でただ静かに見つめた。

「此度の戦、珍しく片倉殿は連れていらっしゃらなかったようでございますな。」
「Ha!テメーのためにそうしてやったんだよ。解ってるくせに白々しいマネすんな。」
「そうでござるな。これからは気をつけましょう。」

青年の視線の先。
“やって来た理由”こと赤い衣を纏った青年が小さく笑った。
いつも他人に見せる底抜けに明るく能天気な笑みとは真逆のそれに、青い衣の青年は独眼を細め、口端を持ち上げる。
幸村、と赤い衣の青年の名を呼び、そちらへと一歩近づいた。

「今回の戦も、どうせテメーが裏で糸引いてたんだろ。忍びがオレん所に来て此処が戦場になるなんて伝えに来やがったしな。」
「佐助の仕事は相変わらず正確でござるな。・・・まあ、そろそろ戦場での政宗殿にお会いしとうございましたし。」

己が今回の戦の一方――つまり伊達軍に敵対した小さな戦国大名――を煽動したのだと否定することなく、真田幸村は智将の表情で答える。

「敵を屠った直後の貴殿は実に美しい。青い陣羽織に赤い血を染み込ませ、冷めていながら熱を孕んだ眼で辺りを睥睨しておられる。・・・某はその矛盾したお姿が時折見たくてたまらなくなるのでござる。」
「Crazyなヤローだぜ。」
「それに付き合って兵まで動かしてくださる政宗殿も十分Crazyでござるよ。」

政宗がよく使う異国の言葉を完璧な発音で告げて、幸村も前へ一歩進んだ。
まだ互いに触れられるような距離ではない。しかしすでに互いの攻撃の間合いではある。
同じ年齢、同等の実力。
けれど国とそこでの地位が異なる二人の青年は、その微妙な距離を保ったまま視線を交した。
またふわりと風が吹き、焦土のにおいが運ばれてくる。
砂が舞い上がって一瞬、政宗が目を閉じた。
直後、すぐ傍に人の気配。
僅かに背の高い幸村の、その赤い手甲に守られた右手がスイと政宗の頬を掬う。
そして、ああ、と感嘆の吐息を零した。

「間近に見るこの瞳はやはり格別でござる。涙ではなく血に濡れた独眼。たった一つしか無いものだからこそ、それは余計に美しい。今回も無能な大名を煽った甲斐がございました。」

そう言って微笑んだあと、政宗にそっと口付ける。
政宗も軽く触れ合うだけのそれを、目を開けたまま静かに受け止めた。

「・・・本っ当にCrazyだ。」
―――オレも、お前も。

吐息さえ感じられる距離でそう呟いた政宗に幸村が「そうでござるよ。」と頷く。
戦場だったその場所には、いまだ血のにおいが満ちていた。

















お前が纏うその色さえ、炎ではなく血であるのだと。
初めて目を見た時から俺は知っていたさ。
お前が、俺の左目の色に気付いたように。









『章立(Rate zero)』の兄弟殿に押し付けます(差し上げるなんて言えたもんじゃない)
黒幸村に挑戦したら政宗様まで何故か黒っぽくなったと言う・・・あれ?
BASARA習作ですが受け取っていただけるとありがたいです。