眠れ、この腕の中で。





「俺はアンタが欲しくて、大切で手放したくなくて。そんで『俺』を知られて見限られるのが嫌で、離れられるのが嫌で。
・・・だからこの際、アンタっていう存在をそのまま奪って行こうかと思う。」

浦原の前に立ち、オレンジ色の髪をした少年はそうしてニコリと笑みを浮かべた。
霊体である彼がその身に纏う色は黒・・・ではなく、一点の曇りも無い白。
それは先日、現世に奇襲をかけてきた者達が身に着けていた衣装と同じものだった。
少年自身もそれを敵と見なしていたはずの破面達が纏うものと。
そして、彼の右手には死神の証である斬魄刀が。
少年は重みなど微塵も感じていないような様子で巨大な刃の先を浦原へと向けていた。


「・・・キミ、は。」

やっと吐き出せた言葉では相手の名前すら呼べていない。
引き攣る喉を叱咤して浦原は再度口を開く。
そして何とか彼の名前を呼んだ。一護サン、と。
名前で呼ばれた一護は嬉しそうに笑みを浮かべ、「なに?」と先を促すように優しく声を出した。
己が心臓の真上に刀を突き立てんとしている相手に対して発するにはあまりに不適切な声を。
それでも自分が圧倒的不利なこの状況下で質問を許された浦原は、ごくりと息を呑み込んで一護に問うた。

「何故、キミがこんなことを。」
―――自分達を裏切るような行為を。

アチラ側とは最も遠く離れた位置にいる、愚かなくらい真っ直ぐで正義感の強い子供だったはずなのに。
それが如何して、今、こんなことに。
しかし浦原が呟くように発した言葉は、クスリという小さな笑い声と共に一護本人に一蹴されてしまった。
どうせ想像くらいついてるくせに、と。
そしてまた、ああ認めたくないだけか、とも。

「何故、だって?そんなの簡単。最初から、俺は藍染達の仲間だったってことだよ。」

そう告げた一護に浦原はくらりと眩暈を覚えた。
自他共に認める回転速度の速い頭が今は凍結したかのように動かない。
だってそんなまさか。
アリエナイでしょ?
困惑ばかりがループして思考が纏まらない。
考える時間が欲しい。
否、むしろこれを嘘だと言って。
しかし望んだ否定の言葉は欠片も無く、そして今度は一護も待ってはくれなかった。


「つーことで、時間もあんま無いことだし。もらってくな。」

口調は軽く、そして無邪気に。
笑顔のまま、一護は刀を真っ直ぐに突き出した。



「俺、アンタを一生大事にするから。」







□■□







刀を引き抜き、吹き出す鮮血をその身に受ける。
そのまま、一護は倒れ掛かってきた体を抱きとめた。
白い衣は赤く染まり、顔も髪も同色へと変わる。
しかしそんな事には微塵も気を払わず、一護は浦原だったモノの背に腕を回し続けていた。
と、その時。

「・・・・・・一護様。」

掛けられた声は新たにそこに現れた人物のもの。
一護はその存在に最初から気づいていたかのように、別段驚く様子もなく視線を動かすだけで声の主を見遣る。
そこには一護に向かって頭を垂れる従者が一人。
血染めの主人の姿に何も言わぬその彼の名を、一護がポツリと音にした。

「藍染か・・・。」
「もう御用はお済になられましたか。」
「ああ。」

藍染の問いかけに一護は短く答える。
そうしてソロリと面を上げた藍染に向かって満足そうに微笑んだ。

愛しい男の骸を抱いて。








『我白紙』の紅宵藍様に捧げます。
浦原×黒幕一護・・・・・・なんですけど、黒幕と言うより狂一護?
す、すみません。色々と・・・!(土下座)
ちなみに「黒幕」ですが「wirepuller」シリーズとは別モノです。

紅様、この度は相互リンクありがとうございました!
そしてこれからもよろしくお願いします!